第124話 模擬戦
それから望遠鏡をひたすら覗き、モンスターを狙撃し続けて、あっという間に【サイキック】を実戦レベルまで引き上げた。
獲得したスキルは、炎属性枠の【パイロキネシス】と近接攻撃枠の【サイハンド】。アイテム使いとしての【キネシス】に、一時離脱用の【ブロールート】。さらに【プロテクション】【プレコグニション】【エンハンス】など、自己強化系を多めにそろえた。
【サイハンド】は明日香さんがよく使っている張り手攻撃だ。明日香さんによると蹴りにも問題なく適用できるらしいので、応用が利くスキルだ。
【サイハンド】
[アクティブ][近接][攻撃][物理][魔法]
効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。
【パイロキネシス】
[アクティブ][投射][炎属性][攻撃][魔法]
効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。
【キネシス】
[アクティブ][アイテム][補助]
効果:[アイテム]を[任意]に[移動]させる。
【ブロールート】
[アクティブ][自身][接触][支援][妨害]
効果時間:5s
効果:[自身]または[キャラクター]の[物質干渉力]を[増加]または[低下]させる。
【エンハンス】
[アクティブ][自身][支援]
効果:[自身]の[任意][ステータス][2つ]を[増加]させる。
【プロテクション】
[アクティブ][自身][支援]
効果:[魔法]を[軽減]する。
【プレコグニション】
[パッシブ][スイッチ]
効果:[アクティブ]の[挙動予測]を[表示]する。
【サイキック】と言えば『共有』系のスキルが目玉なのだけれど、今回の【サバイバル杯】は個人競技だ。妨害を共有して道連れにする【シェアリング】なんかは使い勝手が悪いし、仲間とスキルを共有する【ギフトパス】も無用の長物。今回は取得を見送った。
次に取得したのが【アイテムマスター】のスキル。今までは【オートユーザー】【アイテムマスタリー】【グラヴィティコントロール】【パーティストレージ】の4つしか獲得していなかった。
理由は単に興味を引くスキルがなかっただけだが、【サバイバル杯】に挑むのに枠を空けておく意味はない。【オーバードーズ】と【トラップハンター】、それから【プレシジョンメディシン】を取得しておいた。
【オーバードーズ】
[アクティブ][アイテム][補助]
消費MP:2 詠唱時間:0s 再詠唱待機時間:30s
効果:[同名][アイテム]を[3個][消費]し、その[アイテム]に[効果反転]を[追加]して[使用]できる。
【オーバードーズ】は同名アイテムを3つ使用して効果を反転させられるスキルだ。限られた素材でやりくりするしかない【サバイバル杯】においてこの効果がどこまで生かせるかは未知数だけれど、反対効果のアイテムから必要な効果を引き出せるというのは悪くない。
【トラップハンター】
[アクティブ][アイテム][補助]
消費MP:6 詠唱時間:10s 効果時間:30m
効果:[アイテム]を[トラップ]として[設置]する。[設置]された[トラップ]は[条件]を[満たす]ことで[発動]する。
【トラップハンター】はその名の通り、アイテムを罠として仕掛ける便利なスキル。【アイテムマスター】をメイン職業として扱う場合は、これをフル活用した定点狩りが主軸となるらしい。発動条件は『罠を踏んだとき』や『発動を指示したとき』など、いろいろな設定が使えるそうなので、試してみようと思う。
【プレシジョンメディシン】
[アクティブ][アイテム][補助]
消費MP:2 詠唱時間:0s 再詠唱待機時間:30s
効果:[ポーション]の[発動方式]を[座標]に[変更]する。
【プレシジョンメディシン】はポーションを任意の地点に出現させるスキル。たとえば【アンプルアロー】は投射攻撃だからボクの杖から放たれることになる。しかしこのスキルを使えば相手の今いる座標にポーションを直接出現させることができるのだとか。
「【オーバードーズ】は使用と書かれているのに【トラップハンター】は発動なんですね?そういえば、【オートユーザー】も発動でしたっけ」
おそらくはアイテムを使う動作を行わずに効果だけを受けるのが発動、投げたり飲んだりといった動作が省略されないのが使用、ということだろうね。
それから全職共通スキルとして生産系のスキルもあらかた獲得し、準備は完了した。
「レベル上げも実用に耐えうる範囲までは上げましたし、明日香さんたちと合流しますか」
【メニュー】を開き、向かう先は【闘技場】だ。もちろんただの【闘技場】ではない。【サバイバル杯】に対応した特別ステージだ。
ぶっつけ本番でまだ見ぬ新エリアで活動できるわけがないからね。大会以外のときにもプレイヤーを集めてバトルロイヤルができる仕組みで、二人にはその下見に行ってもらっていたのだ。
いくつかのステージがあるようなのだけど、今回開かれる【サバイバル杯】の舞台は鬱蒼とした木々の生い茂るジャングル。
【闘技場】に入るとすでに試合が始まっていたらしく、ボクは観客席に飛ばされた。
今回の試合に参加しているプレイヤーは明日香さんや寿美礼さんを含む、『フォッダー不思議探検隊』の有志たち。本番に向けて練習試合を行いたいという目的は一致しており、ボクがレベル上げをしている間にもすでに何戦か戦っていたらしい。
試合エリアはとても広く、本来なら観客席からすべての状況を確認することはできないのだけれど、どうやらカメラを操作すれば特定のプレイヤーを見ることができるようだ。ボクはそれを試しに操作して、寿美礼さんを映し出してみる。
寿美礼さんは2丁の拳銃を携え、エリア外ぎりぎりの木陰に潜んでいるようだ。慎重に周囲を見渡しながらプレイヤーの位置を探っている。
その拳銃はおそらく現地で調達した低級品だろう。未鑑定装備でもない、飾りっ気のないシンプルな銃だ。しかし、それでもこのルールでは上等な部類だ。軽く他のプレイヤーもザッピングしてみると、カッターナイフを持って戦っている人もいるくらいだ。
やがて寿美礼さんは隠れながらもこっそりと移動し続け、プレイヤーを発見した。そのプレイヤーは彼女には気づいていないようで、あたりを見渡しながらもしゃがみ込んで素材を採集している。
そこに音もなく近づいた寿美礼さんが【ゼロショット】を最大限に発揮できる距離で【ダブルバレット】を撃ち放った。攻撃はあっけなく命中し、HPを全損させた。
このルールでは武器が弱いとはいえ、防具も弱い。加えて、しゃがみ込んでいた影響もあって【空神の加護】の効果が上乗せされたのだろう。
たった少しの油断が命取りとなる。不意打ち上等、なんでもありの魔境、それが【サバイバル杯】ということだ!
倒されたプレイヤーはその場に持っていたアイテムを周囲に散乱させながら粒子となって消えた。ほどなく寿美礼さんの【ストレージ】に何らかのアイテムが加わったようだ。
このルールでは戦いもせずに隠れていても試合が進行してしまう。だからこそ、積極的にプレイヤーと戦う参加者には、討伐報酬として戦況を優位に変えるボーナスアイテムが手に入る仕様らしい。
素材集めを重視するか、プレイヤー撃破を重視するか、あるいは隠密行動で隠れ潜むか。人によっていろいろとプレイスタイルが変化しそうな気がするね。




