第123話 パワーレベリング
「作戦会議です!間違いなく彼らは【サバイバル杯】に出場するでしょう。ボクたちはそこを叩きます!灑智がたった今、基本ルールを送付してくれたので見てみましょうか」
ちなみに灑智はダンジョン作りにハマってしまって戻ってこられないらしい。それでも片手間でぱぱーっと情報だけ送って支援してくれた。このままだと【フォッダー】ごとダンジョンも崩壊するし、妹のためにもなんとかしないといけないね。
「まず、装備の持ち込みは不可。アイテムもダメ。それから広大なマップにランダムで転移し、その中でアイテムを集めて殴り合い!さらに、外周に出るとダメージを受ける円形フィールドが徐々に縮小していくので、中心へ向かいつつその内側で戦いましょう、とのことです。分かりやすいですね」
「キャラクターのレベルは引き継ぐのよね。となると、基本的にはいつも使っている職業が安定だけど……相性がいい職業ならレベル上げが必要ね」
このゲームは、レベルによるステータス差がほとんどない。正確にはレベル1から50の間だけステータスが上がり、それ以降のレベルアップはスキルの習得可能数にだけ関わってくる。
そしてレベル50まで上げるのはそれほど難しくない。だが、今回の【サバイバル杯】開催までに間に合うかとなると、話は別だ。
「今回は【転生】という新たな要素もありますからね♥どうします?レベル上げなら協力いたしますが……【アイテムマスター】は今回のルールでは実力を発揮しづらいですよね」
にこりと微笑む明日香さんと、銃の素振り(空撃ち)をし始める寿美礼さんを見ながら少し考える。
今回のルール、確かに膨大なアイテムをやりくりして戦う【アイテムマスター】にとっては不利なルールだけれど——それ以上に、属性使いにとっては相性が最悪だ。
【メイジ】は多種多様なスキルを取得でき、さまざまな状況に対応できる職業。にもかかわらず属性を縛るという型が存在しているのは、特定の属性の威力を引き上げる効果の装備があるから。
スキルの取得を偏らせる代わりに威力が高いのが属性型なのに、【サバイバル杯】においては縛りだけが残り、メリットはかけらもない。
もちろん、運よく現地で炎属性を強化できれば話は別だけれど……。
結論としてボクの型構成は今回のルールにおいて完全に死んでいる。
ただし、都合のいいことにあれを使えばレベル自体はすぐにでも上げ直せるはずだ。
それならレベルにはこだわらず、大会に備えた最適な型を用意していきたいのだけれど……。
「炎属性を……捨てる……か……?」
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>正気かよ卍さん!
>今までの炎属性愛好家っぷりはどこにいったんだ!
>こりゃ全国1億5000万人の炎属性愛好家が離れるわ
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「いや、だって【ルビーロッド】があるから炎属性スキルのHP消費をやりくりできているのに、これがなかったら完全に破綻しますからね!【ブレイズスロアー】と【フラムブレット】で戦えって言うんですか!?」
炎属性を捨てるかはともかくとして、レベルの上げ直しは絶対条件だ。今回の戦いに相性がいい生産系スキルも覚えておきたいしね。
炎属性に愛着はあるけど、強みのないスキルをわざわざ使い続けるほどボクはエンジョイ勢ではない。わりとクレバーなんですよ。
「でも、【イグニッション】は欲しいよねー。あと【ソウルフレア】と【フルバーニング】も。全然使ってないけど【サモン・フィーニクス】も欲しいなあ」
「……ぜんぜん捨ててないじゃない」
「おねえさま、それなら【サイキック】にしましょう♥【ジョーカー】でスキルが1つ引き継げますわ♥それに、炎属性スキルもあります」
「え、炎属性スキルがあるんですか?」
「超能力者と言ったら【パイロキネシス】。定番ですよ♥」
【パイロキネシス】
[アクティブ][投射][炎属性][攻撃][魔法]
効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。
「職業1つ目は【サイキック】にします!」
さっそく【女神像】を取り出して【サイキック】にチェンジする。代わりに外した職業は【メイジ】だ。
「そしてもう1つの職業ですが……これは【アイテムマスター】を続投させましょう」
「あら、その心は?」
「今回の大会は現地調達こそが重視される。であれば、逆に【アイテムマスター】が活きる機会もあるのではと思いましてね」
「なるほどね。じゃあ職業も決まったし次にやることはレベル上げね」
そしてボクが向かった先は『超高層支援型展望台コメット』。明日香さんと寿美礼さんはそれぞれ【サバイバル杯】に向けて別行動をしてもらっている。
最上階まで上がるとシルヴィさんが望遠鏡を覗いていたので声を掛けておく。
「シルヴィさん、望遠鏡お借りしますねー」
「どうぞー。大会、頑張っちゃってね?」
こちらを見向きもせずに望遠鏡を覗き続けているシルヴィさんだけど、どうやらボクの事情はわかっているらしい。
とはいえ、あのステマ活動のあとでそこそこプレイヤーが増えているようで、空いている望遠鏡がない。順番待ちかー。
「あっ、卍さん頑張ってよ!ここ使って大丈夫だから!」
「え、いいんですか!?」
「いいからいいから!人間はAIにも勝てるんだってこと、証明してよね!」
「重たい期待ですね……。けど、わかりました!ありがとうございます!」
女性プレイヤーの方に順番を譲ってもらい、ありがたく望遠鏡を覗き込む。レンズはすでに入っているようだ。
そしてボクはできるだけ強力なモンスターのいるエリアとして先ほども訪れた【ダム水源】の辺りを観測していく……見つけた。——【ライオンキング】だ。
できるだけそのモンスターの体躯が中心に映るように向きを合わせて……スキル発動の宣言を行う。
「【レーザー】!」
ボクの言葉と共に光線が発射され、【ライオンキング】のHPをみるみるうちに削っていく。
本来ならばこの光線にそこまでの威力はない。では、何がこのスキルの出力を引き上げているのか? 答えは簡単だ——【ガンナー】のスキルで補正されている。
近距離で上がる【ゼロショット】の対——遠距離で伸びる受動【レンジショット】だ。
スキルの存在を寿美礼さんから聞いて、試してみたいと思っていたのだけど、どうやら大当たり。
超遠距離射撃だからこそ、光線の出力は跳ね上がる。効率よくモンスターを倒していけそうだ。
やがて【ライオンキング】は地に倒れ伏し、ドロップとして【光の王冠】が現れ、経験値が入った。
「よし、このまま超高速パワーレベリングといきますよ!」




