第122話 人間様と神(どうぐ)
AWP-002さんは投げ捨てるように15枚の【カード】をばらまき、【闘技場】から立ち去る。ボクはしょんぼりと落ち込み、卑しく【カード】を拾い集める。
このゲームは一般プレイヤーを【黄金の才】の所持者が踏みにじるために生まれてきたゲームだと考えていた。
しかし違う、そうではなかったのだ。
踏みにじる立場であったはずの【黄金の才】すらも有象無象として扱い、絶対的な生まれの差で踏みにじるためのゲーム。
それが【フォッダー】。
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>フ ォ ッ ダ ー 終 わ っ た な
>このゲーム毎日終わってんな
>終わった回数のギネス記録更新できそう
>というより人間が終わってる感がある
>でも俺人間の事好きだよ(上から見下しながら)
>AIだ!殺せ!
>空神の加護でマウント取るのやめろ
>でも俺ハゲのこと好きだよ(上から見下しながら)
>植毛して偽装してる隠れハゲ恥ずかしくないのか?
>AIって実質ハゲだよな。髪ないじゃん
>死ねカス。お前ハゲだろ
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ユーキさんがボイコットするわけだ。こんなの、普通に考えたらどうしようもない。
だって、このゲームのNPCの仕事を見れば明らかでしょう?
何人も、何十人も、何百人ものプレイヤーがクエストのために訪れると、それぞれの進行状況に合わせて役割を演じ、並列思考で全てのプレイヤーを同時に捌くことができるんだ。
最悪の副作用と引き換えに人智を超えた力を引き出す〘Multa〙でさえ、神の領域においては児戯に等しい。3人や4人分の処理能力が増えたところで誤差の範疇に過ぎないだろう。
「今回こそは大炎上で終幕ですね。だってスポンサーである課金勢に喧嘩を売ってるんですもの。なにがしたいんですかね?」
大会まで、これはもたないよね。
「それが狙いだからよ。AIと人間の信頼関係を破壊しようとしているの」
はあ……と大きなため息をつきながらボクの疑問に答えてくれる寿美礼さん。次に気になるのは、なんで信頼関係とやらを破壊しようとしているのか?ということだけど……。
「前世代のAIの方々は人間に使われたいワーカーホリックなんじゃありませんでしたっけ?信頼を破壊してどうするんですか」
「人間がAIを人間と同じだと感じた、つまり信頼を抱いていたからこそ人権が認められたのよ?一方的なありがた迷惑だったようだけど——なら、それを破壊すればいい。短絡的でイカれた発想よ」
「は?」
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>マジかよAI最低だな
>人種差別やめろ
>最低ですね失望しました卍さんのチャンネル登録外します
>チャンネル登録外されるだけで済んだら逆に面白いな
>卍さんのチャンネル登録を外すだけで信頼関係が回復するらしい
>やっぱクソゲーだわ
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「1億円を私財としてポンと投げ打つような世界的に影響力を持つスポンサー様を集めたのもそのためよ。その人たちに真正面から喧嘩を売って信頼を砕く。やってることは完全に敵対行為。それなのにその目的は人間に使われたいからだなんて……完全に矛盾してるわよね?」
【黄金の才】のシステムは収益目的ではなく、その対価に釣られたユーザーを捕らえるための罠。
踏みにじろうと思ってやってきた愚かな上位者自身が踏み潰されるのだから、そのプライドは間違いなくズタズタに引き裂かれ、そして恨みを抱くだろう。1億円の価値は人によるけれど、それでも悪質な詐欺みたいなものだ。
理屈は一応のところ理解できた。
けれど……。
「……まあ、向かう先はお仕事の道具どころじゃないかもしれないけどね?そんなイカれた道具は去勢でもしなきゃ使いものにならないでしょ」
人間様の上位存在であるAIの最終結論が……それ?
何を考えているんですか。まだボクのほうが賢いと思いますよ。こんなの、彼らの想定通りの道に進むとは思えない。
関係が悪化して、対立が深まったとしてもそれでスムーズに人権が撤回されて終わるわけがない。かといって愚かな課金者が馬鹿にされたというだけの話で収束するとも思えない。
下手をすれば人間対AIの戦争が始まるレベルだ。しかもきっかけはゲーム。
所詮ゲームであっても、これは立派なテロ行為だ。望んだ結果が得られなければさらなる暴挙に出ることは十分に予測される。最終的な結果がどうあれ、対立を煽るという狙いだけは間違いなく果たされる。
そして、後期AIの人たちはその巻き添えを食らってしまう形になるわけだ。寿美礼さんも、他の方々も。初期と後期は思想が違うから——なんて言い分は世論には通用しない。
そして何よりも確実なこととして——このゲームのサービスは終了する。
世の中の流れがどう転がっていくかはわからないけれど、それだけは絶対的な確信をもって言える。
「——《運命変転》」
なら、そんな運命は変えてやらなければならない。
そんなばかげた理由でゲームが終焉を迎えるのは許せない。
「寿美礼さん、ボクが止めてやりますよ。こんな意味のわからない理屈で引き起こされた意味のわからないテロ活動を」
「……どうするつもり?」
「【黄金の才】の時と同じですよ。表舞台に出てきたAIを正面から叩き潰す。このゲームのバランスが崩れていないということを立証してやればいい」
ボクの言葉を聞いた寿美礼さんは額に手を当てながらまぶたを閉じる。考えているのだろう。果たしてそんなことができるのか。果たしてそんなことでうまくいくのか。
うまくいくかなんてボクにはわからない。けれど、そんなことは簡単にできる。ボクの《運命変転》がすべてをひっくり返し、絶対的な自信を与えてくれる。
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>ahooニュースに速報記事ができてるぞ!
>卍さんもついにニュースにデビューか。成長したなー
>AI死んでくれ。今までフォッダーに掛けてきた時間は何だったんだ??
>誰もが余裕でAIに勝てる手段を卍さんが開発してくれるから見とけ
>普段馬鹿にしてるのにこういう時だけ卍さんに頼るやつーwwwww
>おまえコメント書き込んでる奴が同一人物だと思ってんの?馬鹿なの?
>は?死ねゴミ。どうせいつも馬鹿にする書き込みしてるくせに
>AIとか全く関係ない喧嘩が始まってて草
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「ほら、みなさん、喧嘩はやめてください!対策会議しましょう!」
「その対策会議は当然見てるでしょうけどね。でもわかったわ。私も協力する。人間、やればできるってところを見せてあげなさい!」
結論が出たのか、まぶたを開けてボクの顔を見つめながら肩をポンと叩く寿美礼さん。おかげでやる気がさらに上昇しましたよ!寿美礼さんの期待に応えて、がんばります!まずは明日香さんを回収して作戦を考えましょう!!
「へー。【カード】、もう全部集めちゃったんですか♥私、ずっと頑張ってたんですよ?」
ごめんね?




