第120話 スーパーエモート
【ライオンキング】の付与は無効化できたが、その動きは止まらない。大口を開き、牙を見せつけて全速力で突っ込んでくる。噛みつき攻撃ですか!
「【フリーコマンド:アタックコマンド】!迎え撃ってください!」
「了解っ……!」
そして両腕を突き出し、銃を【ライオンキング】に向ける寿美礼さんだけど、なぜかスキルを発動させずに待機している。このままじゃ食べられちゃうよ!
やがて【ライオンキング】が寿美礼さんに肉薄し、獲物を喰らい尽くそうとしたそのとき、彼女が動いた。
「【セカンドリロード】——【ペネトレイト】——【ダブルバレット】!」
宣言とともに2つの弾丸が即座に放たれ、【ライオンキング】の口内にヒットした。攻撃を受け、うめく声をあげながら【ライオンキング】は後退する。
そんな敵に対して寿美礼さんが軽やかに近づき、銃口を押し当て、そのまま引き金を引いた。
とてつもなく大きな破裂音と共に地に倒れ伏す【ライオンキング】。そのまま身体は粒子へと変化し、【ストレージ】に【光の王冠】として収納された。
「これが【ガンナー】の受動スキル、【ゼロショット】。近ければ近いほど威力が上がる優れものよ。逆に遠ければ遠いほど威力が上がる【レンジショット】というものもあるのだけど」
【ゼロショット】
[パッシブ][条件:レンジショット/オフ]
効果:[距離]に[反比例]して[投射]の[出力]を[増加]させる。
【レンジショット】
[パッシブ][条件:ゼロショット/オフ]
効果:[距離]に[比例]して[投射]の[出力]を[増加]させる。
間違いなく遠距離攻撃装備用なのに近接型がありえる職業なんですね。うちのゴブ蔵にも試してもらいたいなー。銃が完全に宝の持ち腐れになっているし。
「同じスキルを何度も多用していたようですが、再詠唱時間は——」
「お察しの通りよ。【ガンナー】のスキルは【リロード】というスキルを行使することで再詠唱時間をリセットできるの」
【ファストリロード】
[アクティブ][自身][補助][条件:銃器]
消費MP:2 詠唱時間:0s 再詠唱時間:60s
効果:[ガンナー][弾丸][スキル]の[再詠唱時間]を0にする。
【セカンドリロード】
[アクティブ][自身][補助][条件:銃器]
消費MP:2 詠唱時間:0s 再詠唱時間:60s
効果:[ガンナー][弾丸][スキル]の[再詠唱時間]を0にする。
【サードリロード】
[アクティブ][自身][補助][条件:銃器]
消費MP:2 詠唱時間:0s 再詠唱時間:60s
効果:[ガンナー][弾丸][スキル]の[再詠唱時間]を0にする。
寿美礼さんに見せてもらったデータを確認し、【ガンナー】のコンセプトを理解した。汎用性の高い能動スキルを何度も回し続けて戦う職業なんですね。
最後の一撃で弾に込めていた【ペネトレイト】は【ナイト】のスキルだ。相手の物理防御を貫通するスキルなのだけど、それを弾丸に込めて撃ち放っていた。【ガンナー】はサブとして保有している職業によって立ち回り方が大きく変わるのだろう。
【ペネトレイト】
[アクティブ][近接][攻撃][物理]
消費MP:6 詠唱時間:1.25s 再詠唱時間:30s
効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。この[スキル]は[キャラクター]の[物理防御力]を[割合]で[無視]する。
「なにはともあれ、素材は集まったわね。あと1体倒してクエストの完了報告をしに行きましょう」
すでに1回余裕を持って倒すことのできたモンスター。2回目は特筆するようなこともなくあっさり撃破し、2人分のアイテムを無事に確保。【ノーグッド】に帰還した。
「おおー!さんきゅーさんきゅーべりまっち!これで【スクロール】が作れるよ!お礼に試作品はお二人にあげるよ!完成したらだけど。どんなのが欲しい?」
「どんなのって……要望を聞いてもらえるんですか?」
「いや、聞かないけど」
聞かないのかい!
「さて、あとは材料をこの鍋に入れてっと」
ぽいぽいとタコ墨やら王冠やらを鍋の中にぶち込んでかき混ぜ始めるエリンさん。本当にそんな作り方でいいんですか?
「よし!いい感じに混ざってきた!あとはこの液体で紙にさらさらーっと文字を書き込んで完成!これが【スクロール】だよ!」
そう言って手渡された1枚の紙。読んでみると、新たなスキルを獲得したという通知が届いた。
受注前の会話で推測はついていたけれど、やはりスキルを覚えられるクエストは重要だ。よほどのことがない限りはキャラクターの強化に直結するからね。使いにくいスキルだとしても行動の幅が広がるというだけでメリットに転じますし。
わくわくしながら新しく取得したスキルの効果を確認してみる。そこには以下のような効果が記されていた。
【スーパーエモート】
[アクティブ][キャラクター]
消費MP:12 詠唱時間:0s 再詠唱時間:30s
効果:[キャラクター]の[エモート]を[強制発動]させる。
「は?」
その瞬間、ボクの真上に雨雲がやってきた。ざーざーとボクの上に降り注ぐ。
「あら本当。自分以外のプレイヤーの頭上に雨を降らせられるなんて便利ね」
雨を浴びせられるボクの気持ちになってください!
所詮感情表現なので効果は全くない。あくまでコミュニケーション専用のツールのようだ。はっきり言って実用性は皆無。
でも他の人に勝手に雨を降らせられるのは面白いよね。
お返しに感情表現をかけてあげた。寿美礼さんの近くにだけ幽霊が飛び交って邪悪さを演出するという素晴らしい感情表現です。
「ちょっと!幽霊はやめてよ!私こういうの苦手なの!」
「じゃあこの雨を止めてくださいよー」
「それは無理、せっかくの新スキルだしね」
それからしばらくお互いに感情表現をかけ合って、強制的におめめキラキラにしてみたりハートマークを乱れ飛ばしてみたりして遊んでみた。
「うん。実用性はないですけど面白いネタスキルですね!」
「すぐに存在を忘れそうだけどね。でも、楽しかったわ。ありがとう。報酬の【カード】2枚よ」
「そうでした。【カード】のために依頼を受けてたんですね。すっかり忘れてました。ありがとうございます!」
今回の依頼の最中に【カード】を1枚【転生】に使用してしまったので差し引き+1枚。残りは15枚です。堅実に、着実に増やしていきますよ!
「じゃあ次のお便りを紹介しましょうか。『卍さん、こんー』こんですー。『フォッダー不思議探検隊としての卍さんに調べてほしいことがあるのですが、最近朝起きたと思ったら夜だったんです。もしかして僕は時間操作の能力に目覚めてしまったんでしょうか??』ただの寝すぎです。睡眠不足には気をつけましょうね」
などと適当すぎる回答をしたら報酬として【カード】が1枚送られてきた。こんな回答でも満足していただけたのでしょうか。
「ここは相談所じゃないんですよ!依頼してください!次を読みます。『卍さんこんにちは。卍さんのおかげであたし達、付き合うことになりました!卍さんはあたし達にとっての恋のキューピッ』はい次行きます」
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>カップル誕生おめ
>さっき恋愛相談してた奴らか……
>爆発しろ
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報酬として【カード】が3枚入っていたのでありがたくいただいて、次に行きます。読み上げるだけで報酬がもらえるのはありがたいですよ?でも映像映えしないし、もうちょっと依頼を、ね?
よし、次のお便りに賭けましょう!
「『あなたがまあまあ有名なプレイヤーだと見込んでお願いがあります。私と決闘しませんか?【闘技場】で待っています』こういうのを求めてたんですよ!挨拶もなしに単刀直入に要件を告げてくれるところとか好感が持てますね!」
次にこなす依頼はこれに決定です!まあ普通に戦うだけなのですけど、こういうガチの挑戦状は燃える展開ですよね?
「私も見学しに行っていいかしら?」
「ボクと戦うってことは配信前提でしょうし、現地に追加で1人くらいいても問題ないと思いますよ。さあ、さっそく決闘を受けに行きましょう!」




