第119話 ガンナー
「養殖するにも最初に1体がいなければだめじゃないですかー、本末転倒ってやつですよ。……いや、待てよ?」
ふとひらめいたボクは【錬金工房】を離れ、目的地を目指してとことこ歩き始める。
「ちょっと、どうしたのよ?」
「【ジュエルラビット】を見つける方法を思いついたんですよ。これがだめならボクにとってはそれこそ本末転倒なんですけど」
向かう先は【輪廻の館】だ。ついにボクも今回のアップデートで実装された目玉機能を体験するときがやってきたらしい。
「これでおぬしは【ジュエルラビット】じゃよ……ケケケ」
「やりましたよ!みなさん!これでボクもモンスターデビューです!」
【輪廻の館】で【カード】を提示し、サブキャラクターを作成したボクは、ぴょんぴょんとその場で跳ねて喜びを表す。
今のボクの姿は小さくて真っ白なうさぎさん。そして額には真っ赤なルビーのような宝石が埋まっている。耳が垂れているところがきゅーとなポイントだよね。
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>かわいい
>こんなかわいいモンスターをレアアイテムを落とすとか言ってぶち殺す奴らがいるらしいな
>マジかよどこのどいつだ。俺がぶち殺してやる
>自殺かな?
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「さあ、寿美礼さん!ボクの毛を刈り取ってください!」
「わ、わかったわ。でも刈り取る武器がないから……ブラッシングしてあげる」
そう言いながら取り出したブラシで毛並みを整えてくれる寿美礼さん。ついでにブラシに付着した小さな毛を少しずつ集めていく。最初はアイテムにも満たない小さな毛だったのだけれど、最終的には3つほどの【ジュエルラビットのふわふわ毛玉】が取れた。
「もっとブラッシングしてください!」
「もう毛玉は取れたんだけど……よいしょっと」
アイテムを集め終えたあとも気の済むまで毛を梳いてもらいました。なんだか【転生】直後よりも毛並みがよくなった気がします。
「これで毛玉はOKですね。あとは王冠なんですけど……どこにあるんでしょう?」
こっちのほうはまるで見当がつかない。何らかの新しい敵のドロップアイテムなのか、それとも装備なのか?
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>ドロップだよ。ライオンキングってモンスターが落とすぞ!!!!
>まーた卍さんが偽情報に騙されるのか
>ライオンキングはノーグッドの南にいるよ!!僕嘘ついたことないよ!!
>マジで!?今すぐ行かなきゃな!乗り遅れちまう!!!
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「なんだか非常に怪しい情報がコメントに流れていますけど……行ってみます?」
【ノーグッド】の南には立派な湖があり、【ダム水源】というエリアらしい。情報が本当ならばそこに【ライオンキング】がいるのだろう。
露骨に胡散臭い書き方のコメントだけど、他に情報がない以上、そこを見に行ってみるしかない。たとえ偽情報でも配信のネタとしては非常においしい。クエスト達成は遠くなるけど、どっちに転んでも得しかない以上、行かない選択肢がない!
「いますね……【ライオンキング】。絶対うそだと思ってましたよ」
そこには王冠らしきものをかぶった巨大なライオンがいた。「私は【光の王冠】をドロップします」と主張しているようにしか見えない。
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>視聴者を信用してないとか配信者失格だぞ
>善意100%で情報を提供したのに疑われてたなんて悲しい
>善意100%であんな胡散臭い情報提供はできねーぞおい
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「見た目はけっこう強そうですね……。寿美礼さんはどんな型なんですか?初見のモンスターですし、連携を取りたいのですが」
とりあえずきゅーとなうさぎの姿はやめて人間の姿に戻っておく。レベル1で勝ち目があるとは思えないしね。
「私は【ガンナー】/【ナイト】よ」
「【ガンナー】……!」
言葉と共に2丁の拳銃を取り出す寿美礼さん。【ガンナー】。今回のアップデートで追加されたという新職業だ。名前のとおり、銃を扱うらしい。
今までの【フォッダー】には銃というものが存在していなかったけれど、最近は【A−YS】からの輸入品の影響もあって流通し始めていますからね。この前開かれた【ダブル杯】、あるいは【A−YS】の攻略をトリガーとして前々から実装が予定されていたのでしょう。
他にも【ガンナー】は機械類を使いこなす能力にも長けているらしいのだけど、さすがに追加されたばかりの新職業なので詳しいことはまだわからない。寿美礼さんの戦いは要チェックですね。
「じゃあ、いくわよ!」
その瞬間、弾丸のごとき速度で【ライオンキング】をめがけて接近する寿美礼さん。ちょっと、まだ作戦会議してませんよ!?
「〈派手に弾けろ〉【イグニッション】!」
とりあえず突撃していった寿美礼さんにスキル強化の付与をかけつつ、ボクは久々に後衛に回ることにした。当然獲得したばかりの【加護】である、【時神の加護】をフル活用して、詠唱時間も再詠唱時間も短縮済み。
近づいてくる寿美礼さんに気づいた【ライオンキング】は鋭い爪で迎え撃とうとするのだけど——。
「【インパクトバレット】!」
2丁の拳銃から放たれた銃弾が【ライオンキング】をめがけて飛び、その反動で寿美礼さんは大きく後方へ下がる。攻撃と回避を同時に行うスキルということですね。
しかし銃撃を受けてもなお【ライオンキング】はまるで動じることなく、退避する寿美礼さんに超速度で接近し、腕を振り上げる。
間違いない、【猪突侵】だ!
「【ファストリロード】——【インパクトバレット】!」
しかし寿美礼さんはもう一度【インパクトバレット】を発動し、反動によって大きく後退する。
【猪突侵】の追尾には距離の限界値が存在する。【ライオンキング】は寿美礼さんに追いすがることができず、その腕は空を切った。
「«極炎»【メテオ】!」
その直後、【空神の加護】の恩恵を受けて緑色に輝きながら【メテオ】が落下し、【ライオンキング】をたたき潰す。
すぐさま隕石をはじき飛ばして再び立ち上がる【ライオンキング】。そして激しい雄叫びをあげると同時にきらきらと全身を発光させ始めた。
しかし時間的な余裕はできた。その隙に寿美礼さんが新たなスキルを発動させる。
「何らかの支援かしら?ここは——〈神なる裁きにて邪なる者より加護を剥奪せん〉【ジャッジメント】!」
【ビショップ】の攻撃スキル、【ジャッジメント】だ。先ほどは【ガンナー】/【ナイト】だと言っていたので、おそらくは装備に付与されたスキルの効果だろう。
神聖なる雷を放って相手の付与を解除するというスキルなのだけど……。詠唱が完了しても肝心の雷が放たれる様子がない。代わりに彼女が右手に持つ銃が白く発光し始めた。
【マジカルローディング】
[パッシブ][スイッチ]
効果:[詠唱後]に[スキル]の[効果]を[次]に[発動]する[弾丸]に[付与]する。
「あらゆるスキルを弾丸へと変える、これが【ガンナー】の戦い方よ——【ダブルバレット】!」
そして【ライオンキング】に向けて白く発光する弾丸を連続で撃ち放つ!
【ライオンキング】は攻撃を受け止める行動パターンのようで、その弾丸も自慢の肉体でもって受け止めたのだけど……それと同時にモンスターがまとっていたきらきらとした輝きが消失する。
付与を消して優位に戦う、テクニカルで効果的な立ち回り。さすがですね!
テクニックその75 『自己素材』
モンスターに【転生】したキャラクターはそのモンスター由来の素材を生成することができる、至って単純な仕様です。
この仕様が明らかになってからはレアなモンスターになったプレイヤーが他のプレイヤーに襲われて毛を刈り取られる事件が多発しているのだとか。ボクも気をつけないといけないですね。




