第117話 超高層射撃支援型展望台コメット
「『超高層射撃支援型展望台コメット』……?」
なんだかかっこいい名前の施設だ。未来感あふれるそのネーミングセンスは、やはり【A−YS】から回収した技術を転用しているがゆえのものなのだろう。
「展望台なんですか?」
「基本的にはそうだよ?天文台にもなってるけどねー」
【フォッダー】世界の天文台かー。空に浮かぶ星々にも緻密な設定がなされていたりするんだろうか?
「じゃあ、案内しちゃおっか。展望台だからね。上の階層に上がるよ?」
そう言うとシルヴィさんは四角い透明な個室……テレポーターに案内してくれた。テレポーターまでこっちの世界に持ってこられたんですね。
今はうちの【ギルドハウス】にもワープポータルがありますが、このテレポーターが普及すれば遠くのダンジョンや街にも簡単にひとっ飛びできそう。ついにこのゲームにもファストトラベルが実装されるんですね……!
そんなことを考えながらテレポーターに乗り込むと、一瞬にして塔の最上階に転移した。
そしてそこから見られる広大な世界の光景に思わず息を呑む。
「わぁ……!」
地上で活動している限りは絶対に見ることのできない絶景。【ユズレス大森林】や【世界の果て】。最近できたばかりの新しい街まで、ボクたちが活動していた場所、そのすべてが一望できるのだ。
さすがに遠すぎてよくは見えない場所も多いけれど、それもまた世界の広大さを表している気がして風情があるよね。
「当然、望遠鏡も備えているよ?見てみちゃう?」
「見ます、見ます!」
というわけでさっそく望遠鏡で改めてその景色を眺めてみると……。
「あっ!あそこに狩りをしているプレイヤーさんがいますね!おーい!」
なんて呼びかけてみても聞こえるわけがないよねーと思っていると、急にこちらを振り向いて手を振り返してくれた!
「どうやら視聴者さんだったみたいですね!」
それから少し場所を変えて【世界の果て】の方を見てみると、【エアジャンプ】を使って崖を渡ろうと頑張っている人たちの姿が。今まさに崖に飛び降り自殺をしようとしている人もいる。【空神の加護】や【帝神の加護】を取りに行ってるんだね。
続いて見たのは先日行ったばかりの新しい街、【ノーグッド】という名前らしい。そちらの方を覗いてみると……。
「お、あっちはやっぱりモンスターの姿になっているプレイヤーさんがたくさんいますね。なんだかスライムの姿が多い気がしますよ?やっぱり人気なんですねー。他にもゴーレムのプレイヤーやキノコみたいなプレイヤーもいますね……それから名状しがたい『異形』の化け物も……あれ、何!?」
見たことのないモンスターだけど、最近実装された新規モンスターだろうか?何やら紫色のオーラをあたりに撒き散らしながら、いくつもの触手を足代わりにして歩行している変なのがいるんだけど……。
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>グロ配信やめろ
>※動画版ではモザイクが入ります
>まじかよなんかエロく見えてきた
>モザイクが入る=エロなのか??
>よし、卍さん。突撃してこい
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いやいや、突撃なんてしませんよ!【カード】5枚と交換なら喜んで引き受けさせていただきますけどね!
それから【フォッダー】世界のさまざまな光景をいつもとはちょっと違う視点で楽しんだボクは、シルヴィさんにお礼を言う。
「ありがとうございました!大変素晴らしい施設でした!」
「いや、この施設の本領はここからだよ。やってみちゃうー?」
この施設の本領……?素晴らしい景色が見える展望台というだけじゃないということ?
そういえば『超高層射撃支援型展望台コメット』なんでしたっけ。ここまでの要素だと『射撃支援型』という命名に当てはまる要素がまだ出ていないのか。
「やってみたいです!射撃機能がついているんですよね?」
「そうそう。じゃあ望遠鏡にこのレンズをはめてみて。上からカチッとなるように作ってあるから」
そう言ってシルヴィさんから手渡されたのは一見すると普通のレンズだ。しかしどことなく素材に見覚えがある気がする。
とりあえずそれをカチッとはめて改めて望遠鏡を覗き込む。
「適当にモンスターがいそうな場所を探してみちゃって。望遠鏡だと探しにくいかもだけどね?」
確かに拡大状態で当てもなくフィールドを見回すのは少し難しいですね。けれど数分ほど試行錯誤を続けた結果、ようやくモンスターを発見する。あれは【ロックゴーレム】ですね。
「じゃあ、続けて言ってみて。【レーザー】!」
「【レーザー】!」
その瞬間、ボクの視界が真っ白に光ったかと思うと、【ロックゴーレム】をめがけて一条の光線が放たれる。
当然【ロックゴーレム】はこんな遠距離から攻撃されることなどまったく想定していない。うえにレベルが低いモンスターだったこともあり、一撃でHPを削り切り、粒子に変化する。
そして、【フォッダー】の理では倒されたモンスターのアイテムは討伐者の【ストレージ】に自動的に収納される。粒子はボクをめがけて一目散に飛んできて、ボクの体の中に入り込むようにして消えていった。
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>すげええええええええ!!!111
>一方的にプレイヤーをPKできるやべー施設だな
>あのレーザー見たことあるよね
>これもA−YSからの輸入品か
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「なるほど、【レーザー機能付き眼鏡】。視界に映り込んだ敵にレーザーを撃ち込むエンチャントでしたか。普通に使ってもあんなに遠くの敵に狙いは定められないはずですけど、それを望遠鏡でカバーしているんですね」
「そういうこと。『魔眼』系のスキルを使ってる人ならこの施設をもっと使いこなせるかもね?」
【レーザー機能付き眼鏡】を使う前から明日香さんは妨害をかける魔眼系スキル、【ネガティブゲイズ】を使いこなしていましたね。
おそらくは〈バードビューマジックアイ〉のテクニックが利用できるスキルは、望遠鏡を駆使することで同じように超遠隔発動できるはずです。あの手のスキルは視界にキャラクターを収めることが条件ですからね。
「【グレイブウッド】や洞窟内などはさすがに望遠鏡じゃ観測できませんけど、それ以外の地上のマップだったら好きなようにここから射撃できますね……恐ろしいです」
「どう?びっくりさせられた?」
「すっごくびっくりしました!すごい面白い施設ですね!ただ、PKにはあまり使ってほしくないですね……」
実際にこれを使って敵を倒したいという機会が来るかはわからないけれど、それにしてもとんでもない塔だ。低レベルのプレイヤーならここから強い敵を倒してレベル上げできるかもしれないね。
「単純な効率を見るなら自分で倒しに行ったほうがたくさん敵を倒せるし、面白い止まりだよね?でもせっかく作ったからみんなここに来て遊んでみちゃってほしいなー?」
「というわけです。みなさん、ぜひこの面白施設の使い方を見いだして活用してあげてください!ちなみに利用料はあるんですか?」
「この望遠鏡は10000Zを払えば1時間動くよ?」
「とのことです!単純に観光スポットとしてもいいと思うので、自分の目で確かめてくださいねー!」
というわけで完璧なステマ活動を終えてボクは3枚のカードを得た。シルヴィさんがここからレーザーを撃ち込んでいたら偶然ドロップしたらしいです。かなり運がいいですね。
テクニックその74 『超遠隔魔眼』
相手を視界に収めることを条件とする『魔眼』系スキル。これは望遠鏡などのアイテムを介しても機能します。
そして観測さえできるならば射程は無制限!これを利用して世界のありとあらゆるエリアに魔眼を撃ち込めるのがコメットなんですよ。




