第116話 ステルスマーケティング
【ギルドハウス】に戻ったボクは次の目的地を定めることにした。
やはりプレイヤーから対価を支払って【カード】を受け取るというのは悪くない選択肢だろう。ボクの【ギルド】だけでも万を超える人数のプレイヤーが所属しているのだから、【転生】に使用される分は置いておくとしても、40枚以上の【カード】がこの世界に存在しているのは間違いない。
この【ギルドハウス】内にはたくさんのテナントが乱立している。新機能の目玉である【転生】に必須な存在である【カード】は需要が高い分、商材としても価値が高い。となれば当然それを販売しようとする人がいるはずだ。
というわけでひとつひとつお店を見て回っているのだけど……。
「【ジュエルラビット】のカード……価格99999999Z!?売る気なさすぎでしょ!?」
「【ジュエルラビット】は経験値と金を大量にドロップするレアモンスター。ただでさえ出現率の低いモンスターのドロップ率が低い【カード】だ。希少価値が高い。つまりこの商品は自慢として展示しているだけだ」
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>出たーwww商品価格をめっちゃ高くして絶対買えないようにする奴ーwwwww
>ジュエルラビットちゃんかわいい。欲しい
>これで普通に買われて発狂するところまでテンプレだよね
>この価格なら買われても美味しいとしか思わないだろうけどな
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「ぐぬぬ……。他に【カード】はないんですか?」
「ないね。むしろ商品すらない」
「なんでお店やってるんですか?」
「自慢するためだ」
こいつ……暇人すぎる……!
あきらめてほかのところで【カード】を探そうかと思ったそのとき、近くにいたプレイヤーたちがざわめきだす。
「おい!あっちで【魔王ヒュマデサタン】の【カード】のオークションやってるぞ!」
「マジ?ヒュマデサタンにも【転生】できるとしたら最強じゃねーか。カンスト出してもお釣りが来るぞ」
「【ジュエルラビット】なんて愛玩動物の【カード】に実用性ないしな。あっち行こうぜ」
そして、我先にとオークションをやっているらしい場所へ向かっていった。あとにはボクと自慢系店員さんだけが残った。
「一気に展示品としての相対的価値が落ちましたね……。それにしても魔王の【カード】かー。欲しいですけど、今のボクは質より数ですからね」
「ぐぬぬ」
自慢のレア【カード】としての価値が下がった【ジュエルラビット】で自慢し続けることの無意味さを感じたのか、常識的な値段でボクに売ってくれた。ありがたいですね!
【ジュエルラビット】
COST:3 HP:3 AT:1
効果:[自身]が[ダメージ]を[受けた][時]、[マナの欠片]を[手札]に[加える]。
【マナの欠片】
COST:0
効果:[マナ]を[1][ポイント][増加]させる。
「良さそうな【カード】ですね。相手に攻撃される度に【カード】の発動コストを追加で得ることができるという効果のようです。一撃で倒されなければ2枚、3枚と得られそうですよ」
いや、ルールわからないんだけどね?たぶんそんな感じです。
それからも店を見て回って6枚ほど【カード】を仕入れることができたのだけど……いくらなんでも流通枚数が少なすぎる気がする。
手に入れた人の多くは確かに【転生】に活用したくなるだろうけれど、あくまでサブキャラクターを作成するだけのシステムというその性質上、誰もが利用するようなアイテムではないはずだ。
わざわざモンスターになって遊ぶくらいなら通常のアバターを育成したいと考える人がいてもおかしくないと思うし、あるいは【転生】需要の少ないモンスターの【カード】というのも自然と発生してくると思うのだけど……。
「もしかして、【カード】って他にも利用方法があるんですかね?」
視聴者さんにも尋ねてみたところ、【シャーマン】の新スキルに【カード】を利用するスキルが追加されたらしい。それは気になりますね。めりぃさんは習得するのだろうか。
ともあれ、これで入手した【カード】の枚数は12枚。残りはあと19枚だ。またしばらくすればさらなるドロップによる供給がなされるとは思うけれど目的の数には程遠い。残りの時間は配信を切って狩りを続けて【カード】集めに勤しむことにした。
けれど——結局1枚も【カード】をドロップすることはなく、その日の狩りは終わってしまった。
残りカード枚数:19枚
残り日数:3日
さて、次の日。ログインしてみると、メールボックスにお手紙がたくさん届いていた。
なんだろう?と中身を見てみると、【カード】を譲ってくれるという素晴らしい提案が書いてある。
どうやら先日、ゆうたさんのお願いに対して【カード】を対価として引き受けていたことから同じように【カード】を支払ってお願いしたいと考えた人たちがいるらしい。
報酬の枚数はさまざまだけれど、これを引き受けていけば40枚への道にさらに近づくことができる。引き受けない選択肢はない!
「おはこんにちは、きゅーてくちゃんねるへようこそみなさん!今日も今日とて【カード】を集めていこうと思うのですが……あれからお便りが届きまして。今回は【カード】と引き換えに労働をしていこうと思います!アップデート?知るか!」
お便りはいくつも来ているのだけどあいにく、ボクの身体は1つしかない。けれどせっかくボクに頼ってくれている人たちがいるのだ。片っ端から片付けていきますよ!
「最初のお便りは【ディスポサル城下町】で活動するシルヴィさんからです。どうやら自分のお店で新しい商売を始めたとのこと。あまりにも画期的な商売なのでいつ配信者の方が食いついてくるかとわくわくしながら待っていたのに、待てど暮らせどお客が来ないので宣伝してほしいとのこと!わかりました!ボクが全身全霊を込めてステマしていきますよ!」
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>ステマの法則が乱れる!
>そのお便り読み上げて良かったの……?
>おまえら!卍さんのお達しだ!ステマだと気づかない振りをして騙されるんだぞ!
>訓練されたファンはさすがだな
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さっそく【ギルドハウス】から【ディスポサル城下町】にワープポータルでひとっ飛びし、そのお店があるという場所に向かう。
それにしても画期的な商売か……。どんな商売なんでしょう?そこらへん詳しくは書いてなかったのですけど、やはりアップデートで追加された要素なのでしょうか。
わくわくしながら指定された場所にたどり着くと、そこには超高層のタワーが建っている。周囲の建物と比べても異質でかなり目立つのだけれど、外見からはどのようなお店なのかイメージが湧きにくい施設です。だからこそこれまでスルーされてきたのかもしれませんね。
扉は【A−YS】から回収した自動ドアになっているようで、近づいただけで横にスライドしてボクを出迎えてくれた。それではとゆっくり中に足を踏み入れると、そこには白衣を着た女性が待っていた。
「ようこそ、『超高層射撃支援型展望台コメット』へ。歓迎しちゃうよ?」




