第113話 サバイバル杯
それからしばらくの間、スライム明日香さんのレベル上げと【カード】集めを目的に狩りを続けた。コメントに書き込まれていたミニゲームのためにも最低限デッキが組める程度の枚数は必要だからね。
そのはずなんだけど……。
「出ない!出なさすぎる!【カード】!」
【スライムライム】のカードを入手できたのは相当運が良かったのだろうか。ぽこぽこドロップするようなら、【輪廻の館】による【転生】を簡単に使えてしまうから、仕方ないのかもしれないけど、もうちょっとなんとかならないんですかねえ!?
レベル上げの目的は果たしたけど、ボク自身が【転生】をすることができるのはまだまだ先の話になりそうだ。
しかし、このままだとミニゲームが体験できない。【カード】の枚数が少なくてもプレイできる感じのゲームなのだろうか?
悩んだ末にボクたちは、アップデートで追加されたというミニゲームをプレイしている人たちを見に行くことにした。
ミニゲームのプレイ会場は【闘技場】と同じように【メニュー】から選択して飛べるらしい。ということで、さっそく【デュエルスペース】と記されたボタンをタップすると、目の前に扉が現れた。
扉を開けて中に入ると、巨大なゲーム大会の会場のような造りになっていて、各所に【カードバトル】に使うと思われるフィールドが設置されていた。
そして、すでにプレイヤーが何人もいるのだけど……誰も【カードバトル】をしていない。一か所に集まって雑談をしているようだ。たくさん戦った後の休憩中だろうか。
「こんにちはー!ミニゲームに興味があって来たんですけど、調子はどんな感じですかね?」
「まだ誰もプレイできてないからわからないなのです」
集まっていたプレイヤーの1人……『技能士』ことメグさんが答えてくれる。メグさんは以前、【マクロ】機能を開拓していたプレイヤーさんだ。
それはともかくとして……誰もプレイできてない……?
「【カードバトル】には40枚のカードが必要なのです」
「はい」
「ここのプレイヤー全員合わせても12枚しかないのです」
「悲しい」
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>バトルを始めようとするまでのハードルが高すぎる
>みんな転生で使うしな
>プレイする段階に入れない神ゲー
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「ルールはわかっているんですか?」
「わかってないのです。プレイできる段階に達してないからかチュートリアルも出てこないのです」
「これは詰みましたね」
「ミニゲームは後回しにしますか、1か月もすればさすがにプレイできる程度のカードは貯められるでしょうし♥」
「でもこの【カードゲーム】の大会が3日後に開催されるのです」
参加者なしで終わりかねないですね。ゲーム世界に現存するカードを片っ端からかき集めればさすがに40枚に達するかもしれないけれど……。【転生】という今回のアップデートの目玉とも言える追加要素によって消費されるアイテムである以上、ちょっと厳しい。
「大会に出場するために【カード】を買い取ります!って言ったら、売ってくれます?視聴者さん」
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>無言でチャンネル登録外す
>無理です
>転生してみたいからなあ
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ですよね。ならば自分で集めるしかない。【ギルドスキル】によってドロップ率が上がっている状態だから通常よりは出やすいと思うのだけど、3日で40枚はなあ……。
「おい、見ろよ。今週の【サバイバル杯】の報酬が【カード】みたいだぞ!」
そう言って集まっていたプレイヤーの1人が見せてくれたのは【闘技場】で開催される新たな種目の大会の告知。1位から16位までの賞品が【カード】になっている。
そして優勝報酬として獲得できるのは……3種類のカードを3枚ずつ。つまり9枚。
「他にもイベントで獲得できる【カード】がありそうですね。狩りで集めるよりはクエストを見て回ったほうがワンチャンありそうです」
次の目標が決まりました。目指すは次の【カードゲーム】大会への出場!そのためには手段を選びませんよ!
「3日以内に40枚のカードを集めて、大会本戦で会いましょう、みなさん!」
『おー!』
【サバイバル杯】に参加することは確定事項だ。1位を取れなくても16位までなら【カード】が手に入るし、この大会自体がアップデートで追加された新しい【闘技場】のイベントなのだから。
でも、たとえ9枚手に入ったとしてもなお40枚にはほど遠い。他の入手手段を探さないといけないね。
「そういえば、【サバイバル杯】ってどんな大会なんでしょう♥」
「アップデート情報に書いてありましたね。【闘技場】の中で戦う通常の【シングル】や【ダブル】と違い、広大な環境で行われるバトルロイヤルのようなものなのだとか」
あとは一定時間ごとに電磁パルスによって活動可能範囲が狭まっていくとかなんとか書いてある。この系統の対人によくあるやつだ。
「で、【サバイバル】と銘打っているだけあって装備やアイテムの類の持ち込みも不可能。現地での確保が重要そうですね」
「……なるほど、生産系のスキルが重要視されますわね♥」
試合会場がどんなエリアなのか、どんな素材や装備の回収ができるのかにもよるけれど、この戦いでは即席のアイテムを生産できる型のプレイヤーにやや優位性があると見える。もちろん生産スキルだけではさすがに勝てないだろうけれど、そういったプレイヤーの得手不得手に応じた新しい部門が追加されたのはとてもよいことだ。
「【サバイバル杯】は明後日。今日は他の手段で【カード】を集めますよ!明日香さん、協力してくれますか?」
「了解です、では、私はモンスターを倒してきますね♥」
そう言って【ドロップアップ】の【ギルドスキル】を最大まで適用させてモンスター討伐に向かう明日香さん。どうやら【ディスポサル城下町】に戻ったようだ。数をこなすなら弱いモンスターのほうがよいと踏んだらしい。
ボクはとりあえず情報収集だ。ネットには『このクエストで【カード】を入手したよー』というような何気ないつぶやきや書き込みが残されていることもある。
本人にとっては価値を感じておらず秘匿する必要もないと考えているのだろうけれど、そういった何気ない書き込みも貴重な情報。攻略wikiが実質的に崩壊したゲームとはいえ、広く情報を得るならばネットは少なからず参考にできるんだ。
「よし!ちょうど今近くにある【フール村】で【カード】がもらえるクエストがあるみたいです!さっそく受けてみましょう!」
「荷物運びありがとう、助かったよ。これはお礼の【三つ葉のクローバー】だ」
「もう二度とネットは信用しません」




