第109話 ディオニューソス
「そんな顔をせずに食べてくださいですの!」
まあ、そこまで言うなら、目の前に差し出されたパンをもぐもぐと食べてみる。
「す、すごい!すごく美味しい!このふわふわもちもちのパン!病みつきになりそうです!」
「ふわぁ……もきゅもきゅ♥」
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>9割方最高級トースターの性能で草
>りんごは???
>もきゅもきゅって言いながらパンを食べてる明日香ちゃんかわいい
>もうりんご無くても良くね?
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「これが私のパーフェクトな料理テクですの!崇めてくれてもかまいませんのよ?」
「さすがです、猫姫さん!トースターを使わせたら世界一ですね!」
「それほどでもありませんの!えへへ」
とりあえず、最高品質のトースターの性能がすごいということだけはわかった。りんごゼリーは味的には普通のりんご味なので、特筆する要素はない。さて、あとは肝心要の効果なのだけど……。
パンに記された食事効果を見ると、HPを割合で大きく回復するうえ、一定時間最大HPが増えるとある。
回復量だけで言えばラーメンのほうが上なのだけど、ラーメン1杯と食パン1枚。戦闘中にどちらが食べやすいかを考えると、パンに軍配が上がる。
さらに、付いている最大HP増加がミソだ。表記上は回復量でラーメンに劣るこのパンも、処理順を考えると、まず最大HPが増え、その後の割合計算で回復している可能性がある。
下手をすると回復量の実数値で見てもラーメンを上回っているのでは……?
この回復量が最新のトースターの効果なのか、あるいはりんごゼリーの効果なのかはわからないけど、かなり優秀な回復アイテムになりそうだ。
もう少し手間をかけて料理すれば、さらに強い料理になるのでは……?
「どうしよう……料理系の生産スキルを取得すべきでしょうか……」
「料理系の生産スキル……というより、生産スキルってどんな仕組みなんです?私、おねえさまの使う【ドローイング】以外は存じ上げないのですが……♥」
「わたくしが解説いたしましょう!料理系スキルは3つ。材料だけを放り込んで完成品を生み出す【オートクッキング】と生産した料理の効力を底上げする【クックマスタリー】、食材の効力や調理方法を解析する【クックブック】がありますの!」
【オートクッキング】
[アクティブ][生産]
効果:以下の[効果]から[選択]して[発動]する。
1.[素材]を[使用]し、[ランダム]に[料理]を[加工]する。
2.[素材]を[使用]し、[以前]に[加工]した[料理]を[再現]する。
【クックマスタリー】
[パッシブ][生産]
消費MP:2 詠唱時間:0s 再詠唱時間:30s
効果:次に[作成]する[料理]の[出力]を[増加]させる。
【クックブック】
[パッシブ][生産][パーミッション]
効果:[食材]の[詳細][データ]を[開示]する。
「武器や防具の生産をする場合もこの手のスキルが3つあって、【オートクッキング】の『1』に付いている効果が通称『ガチャ』と呼ばれているんですよ」
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>やっぱり自分で手作業で作るほうが効果高いの?
>狙った効果は出せないけど最大出力はだいたい同じ。でもランダムだと普通はつかない効果も付随することがある
>料理は一度良さげなの作れれば同じの量産できるからいいよな
>武器や防具の加工では形はともかくエンチャントは同じの付かないからねー
>つまり料理界ではランダムガチャ引きまくって一度でもランダム特有の理想の料理を作れればいくらでも販売できるのか
>手作業厨涙目
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「ちなみに猫姫さんは【オートクッキング】を取得しています?」
「当然!これがなければ始まりませんの!」
「では、今度はランダムでお願いしてもよろしいですか?」
「わたくしのパーフェクトな料理の実力を信用しておりませんの……?」
涙目の感情表現を表示させて、うるうるとアピールしてくる猫姫さん。かわいい。かわいそう。
「いや、でも、ランダムのほうのパターンも試してみたいですから……」
「うるうる」
「やっぱり、自作でお願いできますか?」
「わかりましたの!!腕によりをかけてビューティフルな料理を提供させていただきますわ!!!!」
猫姫さんの涙目攻撃に完全敗北してしまったボクだが、それから彼女が創り上げていく料理の数々は、簡素な見た目に反してどれも性能が高い。しかも美味しい。
さすがに調理器具だけでここまで変わるとは思えないし、やっぱり料理の才能があるのでしょうか……?
「猫姫さん、どうやったらこんな美味しい料理が作れるんですか?」
「ふふん、知りませんの?料理は愛情ですのよ!」
「なるほど……?」
〈装飾表現〉や〈魂の言葉〉の類ということでしょうかね?
そう言われて改めて完成した料理をまじまじと見つめると、なにやら神々しい輝きのようなものを放っているように見える。これが愛情というやつですか……!
いや、待てよ?
「もしかしてこれ、スキルで強化してないですか?なんか光ってますけど」
「ぎくっ」
「光ってるのは私にも見えますわ♥《『心眼』》は関係ありませんわね♥」
「ままままままさかこのわたくしが新たな【黄金の才】を使って料理を強化しているなんてそんなことは」
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>自白かな?
>再課金してて草
>強い
>これは廃人プレイヤー
>返金されたお金で課金する無限ループ
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「【『アイテール』】はどうなったんですか?」
「交換だったので消えましたの」
ついに【『アイテール』】を捨ててしまったのですね……。
「バレてしまっては仕方ありませんわね。わたくしの【黄金の才】をお教えしましょう!」
【『ディオニューソス』】
[アクティブ][補助][オーソリティ]
消費MP:2 詠唱時間:0s 再詠唱時間:30s
効果:[料理]の[味]と[効果]を[決める]。
[出力]は[最大]となる。
「もしかして、かなり身も蓋もない能力なのでは?」
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>これはチート能力
>ゴミを出しても美味しくなりそう
>所詮この世は電脳世界、味なんてデータは自由自在いじれるのよ
>こんなスキルを隠して料理の達人アピールをしていたプレイヤーがいるらしい
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「そそそそんなことないですのよ!だって味音痴だと自由に味を変えられても客観的に美味しいと思える味を作ることはできないんですのよ?これはわたくしのようなグルメなプレイヤーでないと使いこなせませんの!」
「なるほど、一理ありますね。一理はありますけど……」
黄金の才その3『ディオニューソス』
料理の味や効果、その全てを好きなように改ざんすることができるスキルです。
その具材からは絶対に出せない味であっても当然再現可能。この世界は電脳世界ですからね。なんでもありなのです。
また、効果に関してですが、その食材で付加される可能性のある効果をその食材で付与されうる最大出力で任意に設定することができるのだとか。
間違いなく既存の料理人を駆逐する程の絶大な効果を持ちますが、個人に作成可能な供給量や本人の独特な料理スタイルを考えると、致命的とまでは言えないのが現状。




