第106話 植物園
「いつの間にか【ギルドハウス】の大きさが隣の【植物園】を余裕で超えてますね……」
「卍さんがログアウトしてる間に拡張しておいたよ」
「ここで装備作ると良スキルが付きまくるんだけど?もう引っ越すわ」
「【A-YS】へのワープポータル開通したよ!」
「ラーメン安いよー」
適当に設置した生産用の施設がなかなかに有用だったらしく、【ギルドハウス】に入ると、屋台や豆腐ハウスで作った店が乱立している。家の中に家を建てないでくださいよ!
「いつものラーメン屋さんの料理もグレードアップしてるんですよ。素の回復量も大幅に増加しているようです♥」
とかなんとか言いながら手に抱えた『たこ焼き』をもぐもぐと食べている明日香さん。どうやら食べ歩きをしていたご様子。
「はい、あーん♥」
「あーん、もぐもぐ。……ん?これ、たこ焼きじゃないんですね。なんだか魚みたいなのが入ってますよ?」
「【たい焼き】ですわ♥」
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>草
>考えた奴最高にアホ
>おれも食べたい。どこで売ってるの?
>ギルドハウスのすぐ入り口に屋台あるよ
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見るべき場所が多すぎて、【ギルドハウス】を観光しているだけで日が暮れそうなありさまだ。出現するモンスターをいじることができる【ギルドダンジョン】なんてものもあるし、ここに永住しても【フォッダー】の基本的な遊びは楽しめそうな気がする。
そんな感じで【ギルドハウス】の性能を見て回っていると、【ギルド】加入希望者が山のように増えていく。
「【ダンジョン】の自作にも挑戦してみたいですが、そろそろ隣の【植物園】をのぞいてみたいですからね。もし【ダンジョン】を作ってみたい方がいたら権限をお渡ししますので、希望者さんは言ってくださいね」
問いかけてみると、何人もの視聴者さんからチャットが送られてきたので、許可していく。本来なら施設の権限を手当たり次第に付与するのは良くないと思うのだけど……。
「今は貢献値が山のように余っていますからね。盛大に無駄遣いした神【ダンジョン】の制作を期待しています!」
「私も今日はダンジョンを制作し続けますよっ!」
灑智は昨日からずっと【ギルドハウス】の改修にハマっているらしい。綿雲みたいなベッドを備えた宿屋や、お化け屋敷など、フレーバー施設づくりに定評があるようだ。今日はダンジョンを作るらしいのでお任せしておこう。ふわふわした遊園地みたいなダンジョンができそうな気がする。
【ギルド】のみなさんに今後の改築プランはお任せして、ボクたちは【植物園】を見に行くことに。もうアップデートが行われてから4日目だ。すでに大半のプレイヤーが訪れていることだろう。
【植物園】は【ギルドハウス】のすぐ隣にある施設だ。透明なガラスのような壁に覆われているが、正面には自動ドアがあり、中に入ることができる。
明日香さんと2人で中に入ってみると、外から見た通りの大自然があふれる広大な空間だった。むしろ外から見たときよりも、はるかに広いエリアに見える。
周囲にモンスターは見当たらない。代わりに、多数のプレイヤーが山菜採りのように採集しているのが見える。
「ボクたちも素材を採取してみましょうか。どうやらそういうスポットのようですしね」
「わかりました♥あっ、あのおいしそうな木の実とかどうですか?」
明日香さんが指さす方向にはりんごのような果物がなっている。とことこ近づいてそれに触れてみると、もにゅっと、想定とは少し違う感触が返ってきて驚いた。
手に取ってみるとゼリーのようにぷるぷるとしていて、ちょっと面白い。【ストレージ】に入れてアイテム名を確認してみると、【ゼリーアップル】という名前だった。
「こっちには【ゼリーマスカット】がありますよ。ここは食べ物の森なのでしょうか♥」
よく見ると、果物だけではなく葉っぱも素材のようだ。採取してみると【生命の葉】というアイテムだった。
「これを使って何か作れるかはわかりませんが、とりあえず片っ端から採取していきましょう!【ギルドハウス】にキッチンもありますしね」
というわけで、片っ端からフルーツをもぎもぎしていく。フルーツとはいっても普通の果物は何一つ存在しない。
ゼリー状のフルーツならまだマシで、その後に見かけたのは、霧で形づくられた謎のパイナップルや、触っただけで冷たさを通り越して腕が凍りつく謎のみかんなど、変化球の果物が盛りだくさん。
しかし付近のプレイヤーさんたちは果物に興味がないようで、一心不乱に別のアイテムを探している模様だ。付近の採取物には目もくれていない。
何かレアなアイテムがあるのかな?
なーんて考えていると、明日香さんがそのプレイヤーに近づいて声をかけていた。積極的ですね!
「何を探していらっしゃるのでしょうか♥」
「おっ、明日香さんと卍さんじゃねえですかい。聞かれちまったからには答えよう。あっしは【四つ葉のクローバー】を探しているんでさあ」
「【四つ葉のクローバー】?」
「任意のアイテムを未鑑定品に変化させて効果を付与するというとんでもないアイテムなんですぜ。これは卍さんとは別の配信で発見報告があったからガチ情報でさあ」
「ぐぬぬ。完全に出遅れましたね。ちなみにその配信者の名前は?」
「あかりちゃんさん。卍さんのライバルでげすな!」
ここでも立ちふさがるというのかあかりちゃんさん!別にライバルじゃないけど!
それはともかくとして、彼らはどうやら【四つ葉のクローバー】を探すためだけに他のアイテムを無視して探索を続けているらしい。
「こんなにおいしいりんごゼリーがあるのに無視するなんてもったいないですよ♥」
明日香さんはもぐもぐとゼリーを食べながらそうつぶやく。
そんなすごいレアアイテムがあるのならボクも探そうかと思っていましたが、みんなが【四つ葉のクローバー】を探しているのなら……。
ボクは普通の素材を集めて、その扱い方を追求していきましょうか!十中八九、生食か料理しかないと思いますけどね?




