第104話 ギルド結成
「さて、新スキルも獲得したことですし、そろそろ今回のアップデートを探検しに行きましょうか」
「そういえばおねえさま、新しい【アイテムマスター】のスキルは習得なされないんですか♥」
「もちろん覚えましたよ!【オートユーザー】。再詠唱時間が経過するたびにアイテムが自動で発動するスキルなんですって」
【オートユーザー】
[アクティブ]詠唱時間:5s 再詠唱時間:24h
効果:[アイテム]を[2つ]まで[選択]する。
[パッシブ][スイッチ][オート]
[選択]した[アイテム]を[発動]する。
「いいスキルですわね♥多くのアイテムは再詠唱時間が5分間であることが多いですから、5分以上の支援が得られるアイテムを自動で発動させれば……♥でもおねえさま、アイテムが自動で発動するってどういうことですか?」
「いい質問ですね!最初は時間が経過するたびに頭にポーションがドバッとかかるとかそんな感じの絵面を想定してたんですけど……どうやら使用という過程を省略して効果だけ受けられるようなんです」
「それはますます便利ですね♥」
ちなみに今は無難に炎属性ELMへの支援がかかるポーションを適用している。他にいいアイテムがあるかは調査中だけど、ボクが使う分にはこれ以上に有用なアイテムはないんじゃないかな?
ポーションの再使用時間は【アンプルアロー】による踏み倒しで無視できる。だからどちらかといえばポーション以外のアイテムに活用したほうがいいのだけど、使い忘れ防止という面では悪くない。
「【アイテムマスター】のことは置いておきましょう。なにせかなりの大規模アップデートのようですからね。テンポよくいかないと乗り遅れてしまいます!」
今回のアップデートによって【フォッダー】は、スキル、クエスト、システム、マップと多岐にわたるさまざまな要素が更新された。
その数々の更新を紹介する上で、まず重点を置くべきなのはシステムの更新だろうか。更新されたシステムは大小合わせて数多く存在するが、その中でも今回の目玉となるのはやはり、【ギルド】システムだ。
これはほぼすべてのMMOに形や名前を変えて実装されているシステムで、本来ならば今までなかったことのほうがおかしい。
しかし【フォッダー】においては関係性の緩いチャットルームとして【コネクション】というシステムがあったので、これが【ギルド】の代替として採用されているのだとボクは考えていた。
「まあチャットルームと【ギルド】はぜんぜん違いますからね。今回の配信ではまず、この【ギルド】という要素をチェックしに行きましょう!……どこで作れるんでしょう?」
----
>ディスポサル城で申請するらしいよ
>お国に許可取る必要がある設定なんだね
>さっそく作ってくるわ
>もうすでに何百個もギルドできてるからな。卍さん乗り遅れてんぞ
----
「あ、教えてくれてありがとうございます!——じゃあさっそく作ってみましょうか!」
そしてやってきたのは【ディスポサル城】。そこにはすでに何百人ものプレイヤーが集まっていた。間違いなく【ギルド】機能を求めてやってきた人たちだろう。
城の中に入ると、すぐ右手に異質な謎のスペースが新設されていた。以前に訪れたときにはなかったはずだ。
他の場所とは異なる配色の絨毯が敷かれていて、プレハブのような受付窓口が設けられていた。その様相はまるでコストを徹底的に削減したショッピングセンターのテナントのようだ。
そのエリアが今回のアップデートで追加された要素であることはまず間違いないので、とことこと歩いていって受付の人に話しかけてみた。
「こんにちはー!ギルド作成の申請ってここでいいんですかね?」
「違うのよ?」
「え?」
「こうやってまんまとだまされてくれるプレイヤーを狙ったパーフェクトなお店なの」
----
>草
>これはクズ
>城の中で無許可営業し始めるプレイヤー
>なんのお店だよ
----
「なんのお店なんですか?」
「ギルドメンバー代行なの」
「……ギルドメンバー代行?」
「知らないの?ギルドは初期メンバーが6人以上いないと成立しないのよ」
「ああー、なるほど」
【ギルド】という新機能ができたなら当然試してみたいのがプレイヤーの心理。そしてできればマスターとして作成してみたいというのが当然の発想だろう。
だけど、6人のメンバーがいなければ【ギルド】を結成できない。このプレイヤーはその初期メンバーとして一時的に【ギルド】に加入してくれるという隙間産業に従事しているらしい。
「私たちは2人ですからあと4人ですね♥4人分お願いできますか?」
「了解なのよ!」
そう言うと、店員さんはスキルを発動してきらきらと光り輝く精霊さんを呼び出してくるのだけど……。
「えっ?もしかしてそれが【ギルド】のメンバーなんですか?」
「当たり前なのよ。職業が取得できるなら【ギルド】にも加入できるのよ」
「まあ、そうなんでしょうけど……」
それから本来のギルド登録所へと案内してもらい、無事ギルドを結成。メンバーの一覧に【ウォーター・スピリット】だとか【ファイア・スピリット】が並んでいるのがとてつもなくシュールだ。
そして結成後に精霊さんが次々と脱退していくのだけど、初期人数が結成に必要な人数を下回っても【ギルド】は継続される。これでプレイヤーが足りなくてもお手軽に【ギルド】結成が行えるというわけだ。
さて、さっそく新しくメニューに追加された【ギルド】を開いてみると、【ギルドスキル】や【ギルドバトル】という項目が表示される。
「【ギルドスキル】はメンバーがモンスターを倒すなどで得た貢献点と呼ばれるポイントを利用してメンバーに付与をかける仕組みのようですね……。大人数のギルドなら貢献点のたまり具合も早いでしょうし、少人数で結成された【ギルド】は近いうちに淘汰されそうです」
人数の多いところに入ったほうが得なのにわざわざメンバーを水増しして作った2人【ギルド】に加入する意味はないよね……。
「そして【ギルドバトル】。これは【ギルド】同士の対抗戦のようなもので、メンバー全員で戦うみたいですね。貢献点やアイテムがもらえるみたいです」
人数が多い【ギルド】に入らないと数で蹂躙されるのにメンバー水増しで作った2人の【ギルド】に加入する意味ないよね……。
----
>弱肉強食かな?
>だれか卍さんのギルドに入ってやれよ
>アップデート後の1週間くらいでほとんどすべてのギルドが壊滅してそう
----
「とりあえず、配信でメンバーを募集してみますか♥」
「それもそうですね。というわけでボクたちの【ギルド】『フォッダー不思議探検隊』に入りたいプレイヤーを募集中です!まあとりあえずお試しなので加入・脱退自由で行きましょうか。もしかしたら配信関連でイベントもやるかもしれません。それでもよろしければどうぞー」
----
>やれやれ、俺は自分のギルドの結成に忙しいからな
>卍さんのギルドに入って友達に噂されると恥ずかしいし……
>遠慮しておきます……
----
などとコメントがいつものように流れてきたけど、しばらく待っていると凄まじい勢いで加入申請が送られてきて……。
メンバー募集開始から1時間もしないうちに100人を超えるプレイヤーが【ギルド】に集まってきた。みなさんツンデレですね。
それからもどんどん申請が送られてきたのだけど、メンバーの枠には限界がある。けれど貢献点を消費することで少しずつ解放していくことができるようだ。
メンバーの枠を増やすためにそれからはずっとモンスター狩りに追われ、新要素を確かめることなく1日が終わった。




