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卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!  作者: hikoyuki
3章 Crossing 重なる世界!

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第100話 心眼

 誰もが視界を利用できないこの世界で、配信だけが戦場を観測できる。


 それならば、やるべきことはただ1つ——ボクがみんなの目になることだ!


「天使は攻撃を行ったプレイヤーを手刀で斬り倒してきます!ボクの合図で前方に反撃してください!」


「了解だよ!」


 まず先陣を切ったのはテトリスさん。その手に携える棍棒を大きく振りかぶり、虚空に向けて振り下ろす。天使に当てることなどまるで想定していない無意味な一撃。しかし、天使はそんな素振りにあからさまな反応を見せた。


 テトリスさんの背後に高速で回り込み、その首を刈り取ろうとする。


「後ろ!」


 ボクが叫ぶとテトリスさんはくるりと向きを反転させ、棍棒で背後に現れた天使に横薙ぎの一撃を叩き込む。


 天使はかすかに悲鳴のような声をあげながらテトリスさんから離れ、空中へ逃れてから闇の弾を無差別に撃ち放つ。


 手刀による攻撃とは違い、離れた位置から遠隔攻撃を続ける天使に狙いを定めるのは難しい。ならば、目印を作るだけだ!


「目をつむったまま周囲を見渡してください!かすかな光が感じ取れるはずです。そこに天使がいる!」


 周囲にそう伝えると、ボクは【エアジャンプ】で高く跳躍する。すると天使はボクを狙おうと弾を撃ち込んでくるが、それを【テレポート】によってすり抜け、そのままガバッと天使に取り付いた。


「【ソウルフレア】!」


 そして杖を天使の首筋に押し当てて、スキルを発動させる!ただ発動させるだけではない。念じるんだ。太陽のように輝かしい、煌めく炎を!


 〈装飾表現〉によって、今までの炎をはるかに上回る、圧倒的な光量を持つ銀色に輝く炎が激しく燃え上がる!もちろん威力は変わらない。けれど、そのまぶしい光はプレイヤーたちのまぶたを貫いて、ボクと天使の位置をこれでもかといわんばかりに周囲に喧伝する。


 その位置に向けて、プレイヤーは一斉にそれぞれの武器やスキルを放つ!


 数々の攻撃をその身に受け、ボクのHPはゼロになってしまったが、【ホームリターン】で即座に帰還して再び天使を観測する。


 天使は再び近接攻撃でプレイヤーを仕留めていく方針に切り替えたようで、先ほどの一斉攻撃に参加していたプレイヤーを次々と斬り捨てていく。


 今度は攻撃対象となるプレイヤーが多すぎてテトリスさんのときみたいに警告ができない。どうする?


 瞬く間のうちに十数人が殺され、さらなる標的を天使が狙おうとしたそのとき、異変が起こった。


 天使に狙われたプレイヤーが目の前に現れた天使を思いっきり殴り倒したのだ!


 物質干渉力の影響を受けて大きくノックバックする天使。そして殴り飛ばしたプレイヤーは周囲の人たちにその秘訣を伝えた。


「風を読むんだ!そうすれば位置がわかる!」


 風を読むって何???


 けれどそこからは戦いの流れが大きく変わる。もちろん最初は風を読むなんてできなかった。


 しかしプレイヤーたちは何度も天使に殺されていくうちに、目をつむっていても——あるいはつむっているからこそ、死亡する直前の気配を感じ取ることができるようになっていく。


 それは最初のプレイヤーが言うように、風の動きであったり、あるいは気配であったり、人によってその感じ方はさまざまだったけれど、死の経験を重ねるたびに人々はどんどんと環境に適応していく。


 ボクがわざわざ目印にならなくても、みんなは敵に対抗することができる。それならとボクはあえて〈ストリームアイ〉による視点を非表示にし、ゆっくりと深呼吸をしながら天使の動きを感じ取るべく集中した。


 『明鏡止水』。今のボクはそう表現するのがふさわしい領域に入り込んでいた。


 精神を落ち着かせるための動作。敵の動きを感じ取る手法、もちろんボクはそんな技術をまったく知らない。


 けれど【モーションアシスト】が、ボクの取るべき最適な行動を教えてくれる。


 見方によれば考えることを放棄した丸投げにも映るかもしれない。 


 でも、これはゲームなのだから、使えるシステムすべてを最大限に活かすべきでしょう!


 そして、捉えた。極彩色の翼を広げてボクをめがけて飛翔する天使の姿を!


 そのとき、バチッと脳に電流が駆け巡ったかのような錯覚を覚えたのだけど、そんなことは後回し。襲い来る天使を迎撃してみせる!


 【ストレージ】からポーションを取り出し、ごくごくと飲みながら杖先を飛翔する天使に向けて、【無音詠唱】でスキルを発動させる。


「«獄炎»【アブソーブ】!」


 吸収(ドレイン)によって膨大なHPを吸収すると、天使は驚いたかのように急停止する。けれどボクの攻撃はまだ終わっていない。【エアジャンプ】で高く跳躍して迎え撃ち、【ソウルフレア】を盛大にぶち込む!


 さらに身体を蹴り飛ばして離脱しながら«五月雨突き»【アンプルアロー】による爆撃までお見舞いしてあげた。


 攻撃だけ当てて早々に撤退するボクを刈り取ろうとわざわざ接近してくる天使ちゃんだけど、まだまだコンボは続いている。


「«獄炎»【フルバーニング】!」


 瞬間的に生じる大爆発によって天使を牽制しつつ、城壁にすたりと着地。


 そして即座にメニューを開き、『カスタマイズ』を行い、そのままスキルを発動させる!


「【メテオ】!」


Old

【メテオ】

[アクティブ][座標][落下][炎属性][攻撃][魔法]

消費HP:25% 詠唱時間:20s 再詠唱時間:30s

効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。


New

【メテオ】

[アクティブ][座標][落下][炎属性][攻撃][魔法]

消費HP:95% 詠唱時間:0s 再詠唱時間:30s

効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。


 頭上に出現した巨大な隕石が【空神の加護】と莫大なHPのコストを受けて、無詠唱で天使に直撃する。


 圧倒的な魔法干渉力による衝撃を受けて天使は隕石ごと地上まで墜ちた。


 そこに【フラムブレット】と【ブレイズスロアー】でダメ押しの一撃をお見舞いする。


「あいつ、1人で戦ってやがる……」


「《『心眼』》に目覚めればこれくらいチョロいですよ!みなさんもやりましょう!」


----

>【悲報】卍さん、配信の映像を心眼と言い張る


>せこすぎる……。


>俺も配信始めようかな。視聴者0でもストリームアイが使えるならメリットがある


>視聴者拒否系配信者爆増で草

----


 今は〈ストリームアイ〉を使っているわけじゃないんですけどね……。とはいえ、ボクが配信画面を表示しているかどうかは視聴者の視点ではわからないので仕方ないですけど。


「でしたら、私もおねえさまに便乗させていただきましょうか♥」


 ボクが天使を見下ろしていると、いつの間にか後ろにいた明日香さんが城壁から思いっきり飛び降りる。


「配信相乗!」


 明日香さんも土属性の【メイジ】の方もボクの配信を経由して天使を観測し、狙いを定めているらしい。


 攻撃から立ち直った天使がゆっくりと立ち上がると、ふわりと宙に浮かび、明日香さんを回避しようとする……。その瞬間、膨大な重圧をその身に受けて天使はうつ伏せに倒れ伏す。


「【グラビティー】成。後任!」


「ありがとうございます♥では——《SANチェック》です♥」


 明日香さんが魂の言葉を宣言したそのとき——



 ボクは彼女の背中から赤黒い触手のようなナニカが飛び出す姿を幻視した。



 普段の《SANチェック》でこのような光景が見えたことは今までに一度もない。計り知れない怖気が全身を襲う。なんですか!?あれは?《SANチェック》の威力がそれほどまでに増加している!?


----

>相変わらず明日香さんのSANチェックは配信画面を通していても威圧させられるな


>もう慣れたけどね。最近の卍さんとかもうSANチェックされても無反応だし


>恐怖を感じさせる行動ってなんやねん。それをどうやって再現してるねん


>今更かよ

----


 視聴者さんには見えていない?ボクの《SANチェック》に対する耐性が下がってしまったのだろうか。


 それとも——《『心眼』》で見ているから?


「目をつむっていても感じられるあのピリピリする恐怖……目印になりますねっ!それっ!」


「さあ、ラストスパートですの!」


「明日香さんをめがけて一斉攻撃だー!」


 恐怖の出どころを本能的に感じ取ったみんなは、その場所に天使がいることも即座に察し、再び思い思いの攻撃を撃ち込み始める。


 灑智はいつものように槍をぶん投げて、ゆうたさんは機関銃の一斉掃射。中には砦の上から巨大なインゴットを落下させて攻撃しているプレイヤーもいるし、矢を雨のように降らすプレイヤーもいる。【メテオ】は当然のように10個も20個も落とされて、まるでお祭り騒ぎ。


 本日何度目かの物量戦。当然そのすべてに【追撃のカノン】の効果が乗り、圧倒的なオーバーキルで天使(と巻き添えを食らった明日香さん)は塵になっていく。



 そしてその後。しばらく待っても新たな魔法陣が出現することはなく、代わりに51層への階段が部屋の中央に現れた。



「勝った……勝ったぞー!!!!」


「うおおおおおお!!!!」


「で、特典は??」


「【ストレージ】になんか入ってる?」



 歓声をあげて大喜びするプレイヤーたち。周囲の人たちとハイタッチをしているプレイヤーや、落ちていたアイテムをまとめだす人たち。一番乗りを目指して階段を降りる人などなど。


 反応はさまざまだけれど大きな戦いを切り抜けたことによる達成感と高揚感。この2つはほとんどのプレイヤーが感じていることだろう。



 けれど、ボクは——さっきの《SANチェック》の恐怖感が身体にずんと響き続けており、喜ぶ気力も残っていなかった。


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