第98話 ダメージ=回復の法則・second
スパゲッティはキリトさんを狙うのをやめて、【ソウルフレア】を放ったボクと【カタパルト】を打ち込んだ【メイジ】の人を標的に定める。
先ほどは隙だらけだったから攻撃を当てられたけど、襲いくるすべての攻撃を別々の触手で受け止めて投げ返してくるような驚異の化け物だ。周囲のプレイヤーも含めて連携をとらないと倒せないでしょう。
ここは——ダメージを稼いで警戒されているボクが、おとりとして動くのが最適解ですね。
ボクはスパゲッティにあえて真正面から殴り込みにかかり、杖を高く振り上げる。
スパゲッティはそんなボクを捕らえようと無数の触手を伸ばしてくるが、それこそが狙い!触手をできうる限り引きつけた上で、さらなる奇襲を狙う!
「灑智!」
「はいっ!」
ベッドに乗って上空に待機していた灑智が真上から槍を投げ落とす!雷の如き勢いで天から墜ちる2本の槍は、【空神の加護】の暴威をまとい、スパゲッティの皿を中心から貫いた。
「【フルバーニング】!」
同時に襲いくる触手たちを一気に焼き尽くし、さらなる負担をかける。本体に近づけないのなら触手を焼けばいい。さすがの触手でも爆発をつかみ取ることはできないのだから!
爆発を受けたスパゲッティの触手は一瞬にして燃え尽きる。そこで先ほど【カタパルト】を放っていた【メイジ】の人が動いた。
遮る触手を失ったスパゲッティに【テレポート】で瞬時に接近し、杖をたたき込んだのだ!
「我滅殺——【グランドグラビトン】!」
その瞬間、スパゲッティはたたき込まれた杖を起点として、吸い込まれるように圧縮されていき、そのままHPを全損させた。
「【グランドグラビトン】……まさか使い手がいたとは」
詠唱後に任意のタイミングでスキルを放てる【カタパルト】と同系統のスキルだ。しかしその利便性は大違い。
とんでもない長さの詠唱を行った上で【ソウルフレア】と同じく接触を要求する。まさに火力だけを追求してすべてを投げ捨てたスキルなのだから。
【グランドグラビトン】
[アクティブ][接触][土属性][攻撃][魔法]
消費MP:12 詠唱時間:40s 再詠唱時間:30s 効果時間:4m
効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。この[効果]は[詠唱後][任意]の[タイミング]で[発動]できる。
詠唱:大地の王に宣誓す——世界を掌に収め、森羅万象に覇を唱えんことを!万物を点と為し、「42」の理を握りしめん
土属性の特性は、詠唱時間の遅さと引き換えに与えられる出力。本来ならば他の属性で言う上級スキルに相当するこのスキルも、基本的な詠唱時間設定値の倍である40秒を必要とする。属性混成型としては使い勝手の良いスキルも多いけれど、属性としての人気度はワーストを誇る属性なのだ。
けれどあの火力は間違いなく土属性特化だ。やはりどんなスキルでも使いこなせる人が使えば強いんですよね。
ボクたちがスパゲッティを仕留めている頃、キリトさんもまたもう1体のスパゲッティを相手に戦っていた。
襲いくる触手は片っ端から本剣で切り落としているが、決め手に欠けている——そんな状況だ。
助けに回らなければ——そう思ったのも束の間、そんなキリトさんの背後に1人の男がフォローに入った。
我らが漆黒の翼さんだ。
「『適応せし者』よ。貴様にさらなる【アブソーブ】の真価を見せてやろう」
そう言うと、漆黒の翼さんは杖をスパゲッティに向け、スキルの詠唱を開始する。
「«タイムセット»〈魔の法に則り、眼前の獲物よりすべてを収奪せん〉……」
何らかの【マクロ】で詠唱を紡ぐと、彼は【ストレージ】から1つのポーションを取り出した。
そして、それをごくごくと飲みながらも、【無音詠唱】によって【アブソーブ】を発動させる!
するとスパゲッティから膨大な光があふれ出し、漆黒の翼さんに吸い込まれていく。
明らかにボクが発動したときよりもさらに派手なエフェクトだ。その効果も桁違いに大きい……!
スパゲッティから光があふれ出すにつれて、どんどんと触手の動きが鈍くなっていき、同時にHPを大きく失っていく。
やがてスパゲッティはゆっくりと地面に着地し、溶けるように消滅していった。
「すさまじい出力の【アブソーブ】でした。いったいどうやって……」
「HPの回復量に応じてダメージが増加する。ここまではわかるな?」
「そうですね。この前見せていただきました」
「——ならば、【アブソーブ】とまったく同一のタイミングでポーションによってHPを補給してやれば、その威力を引き上げられるだろう?」
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>なんでだよ
>【悲報】ダメージ計算がガバガバすぎる
>じゃあアブソーブに合わせて相手にダメージを与えれば回復量上がるの?
>上がるに決まってるだろ馬鹿か?
>これはクソゲーですわ
>神ゲーなんだよなあ
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「とはいえタイミングが難しくてな。この調整に使っているのが……」
「なるほど、«タイムセット»という【マクロ】ですか」
「そういうことだ」
〈装飾表現〉として活用するのではなく、完全なる正統派な【マクロ】本来の使い方だ。1つの手法にとらわれないのが漆黒の翼さんの恐ろしいところだろう。ボクも見習わなければ!
「おいおい、種明かしをしている場合か?あっちを見てみろよ」
む?なんでしょう。そうキリトさんに言われて指さした方向を見てみると、そこでは!
緑色の巨大なスライムが大暴れをしている光景があった。
あまりにも遅々とした進み具合だったので気にもしていなかったが、いつの間にか砦まで来ていたらしい。近づいたプレイヤーたちが、スライムの吐き出す液体を浴びた途端に溶けるように消滅していく姿が目に映る。
テトリス >解析完了。オーバーポイズンってモンスターだ。攻撃自体のダメージはそこまででもないが、毒の威力が高すぎる。受けた瞬間に継続ダメージで溶けるよ!
スライムのデータを何らかのアイテムで観測したテトリスさんのチャットメッセージが全体に共有された。やはり毒使い。となると、状態異常の対策が必要ですね。
「毒なら私に任せてくださいっ!!うおーっ!!」
ベッドに乗って【オーバーポイズン】をめがけてびゅーんと灑智が飛んでいく。灑智は呪われた槍に付随する毒の効果を受けてもピンピンしていたから、何らかの対策スキルを持ってるのだろう。
スライムが飛ばす液体が直撃して毒状態になってしまったが、お構いなしにそのまま体当たり!そして飲み込まれて消えていった。
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>悲しいなぁ
>毒に自信があっても飲み込まれたら関係なかったな
>草
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「ククク……『適応せし者』。貴様は毒薬を持っているか?」
「え?はい。持ってますけど、【アイテムマスター】ですから」
「今すぐそれを片っ端からプレイヤーにぶつけるがいい」
テクニックその69 『ダメージ=回復の法則・second』
回復量がダメージを増加させてしまうのならば、別のアイテムやスキルによって回復を挟みこめば【アブソーブ】の回復量として判定が誤認され、ダメージが増加する!凄い、流石は【フォッダー】!
マクロその3 『タイムセット』
完璧なタイミングでポーションとスキルの発動を合わせる【マクロ】です。タイマーみたいな使い方も出来るんですね。




