外法様 【廃村の理由】
目的地の最寄り駅は無人駅なので、そこからだいぶ手前のまだ栄えている駅で降りた。すでにおばあちゃんから地元のタクシー会社の電話番号も教えられて配車してもらっている。こんな田舎でもタクシー業が成り立つのは意外だった。
何から何まで至れり尽くせりと言えば聞こえはいいが、強制されていると言えなくもない。まあ、駅で降りて右往左往するよりは、よっぽどいいけれど。
「酒々井さん?」
「はい、お願いします」
「荷物はそれだけ?トランクに入れるかい?」
「いえ、座席でいいです」
タクシーの運転手さんは地元のおじいさんという風情で、イントネーションにも癖があった。
「一番の古株なんて指定は珍しいけんど、ここらのタクシーやってんのは、俺みてえなじいさんばっかだから」
そう言ってがははと笑うおじいさんであった。
上梨が行き先を告げると、おじいさんの笑顔が曇った。
「そんなところへ何をしに?何もねえぞ」
「いえ、人探しをしていまして。目的の人物がどうもその行き先を目指していたらしいので」
「ふーん」
おじいさんの運転は少々乱暴で、ハラハラする。
「ここに昔、村があったとか?」
「ああ、とっくに廃村になってら」
「まだ村があった頃の話を知っていますか?」
おじいさんが黙る。これは知っている証拠なのだろう。運転が少し丁寧になった。
「もう今じゃ知っている人も多くない。殺人事件があったんよ。一家皆殺しのな」
「そうなんですか。それが原因で廃村に?」
「ん。まあ、そうなるわなあ。うん」
何だが語尾が濁っている。何か隠しているのだ。ちらっと上梨を見ると、上梨も私を見ていた。上梨もおじいさんの言葉尻に、隠された何かを感じ取ったのだろう。
「その事件以外に何か廃村になった原因はありますか?」
上梨がズバッと斬り込んだ。
「んー、そうだなあ。どうだろうなあ」
いつしか道は山道に入り、アスファルトではなくなった。揺れる車内でおじいさんの言葉を待つが、どうもこのままでは出てきそうもない。
「その村にある、柱。まるで電柱みたいな柱は関係ありますか?」
上梨の言葉におじいさんがハンドル操作を誤る。道の横の岩壁に突っ込みそうになった。
「どこでその話を?」
ハンドルを握り直したおじいさんが聞いてきた。
「村の中に電気が通っていないのに電柱のようなものが立っている映像を見たんです」
「そうか」
おじいさんが黙る。教えてくれないのかな?
「村長選挙の時に、村に電気を引くという公約を掲げた男がいたんだ。その覚悟の証に村に電柱を立てた。ここに電気を引くシンボルとしてな」
教えてくれるらしい。
「男は当選した。そりゃそうだ。電気を村に引くのは悲願だからな」
「しかし現実には引かれなかった」
上梨が言葉を繋いだ。
「そうだ。村人は村長を責めた。住人の多くない集落での村八分だ。昔は今よりも過激だったらしい」
一体どんな仕打ちを受けたのか想像も出来ないが、おじいさんの言葉通りなら相当つらい状態になったに違いない。
おじいさんがブレーキを踏んでタクシーが止まった。
「そして村長はその電気の引かれない電柱で首を吊った」
短いですが投稿します。今週特に多忙で執筆時間が確保できません。期待していてくださる方がいたら申し訳ありません。




