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物憑き 【真の名】

桐野ひかりさん視点です。




「宮崎に自衛隊の基地があるんだけどね。そこに米軍の輸送機が緊急着陸したんだ」


 桐野の家に、制服を着た人間が硬い表情で現れた時のことを思い出す。


「輸送機の積み荷は贈答品。アメリカから秘密裏に中東の某国に運ぶものだった。その中に呪われた絵があった。持ち主が次々と怪死して、アメリカのとある博物館の地下に封印されていたものだ」


 紅茶が運ばれてきて、その店員が去るのを待つ。この紅茶はゾフィーに気に入られるかな?


「馬鹿馬鹿しい話だがね。米軍はそいつを相手に送り付けてそいつを呪い殺そうとしたんだ」

「う、嘘でしょ?」

「さあね。まつりと私はそう聞いた。しかしその絵の力は半端なくてね、輸送機の中でその力を発揮しちまったのさ」

「どんな?」

「兵士が錯乱して副操縦士を射殺。操縦士も重傷で、彼は輸送機を何とか緊急着陸させた後、死亡した。搭乗していたうち、8名が殺されて絵が梱包されたパッケージの前に積まれていた。ちなみに8人目は錯乱した当人が自ら頭を撃ち抜いたもの」


 さすがに日本語が難しくてゾフィー達には半分も伝わっていないようだ。それでも端々を聞いて何とか理解しようとしているみたいだ。


「せっかくその基地に出張ったのに、米軍さんときたら、私達を機体の中に入れやしないんだよ。こっちは専門家だって言ってもNOの一点張りでね」


 紅茶の味は合格点ギリギリって感じかな。ゾフィーがあまり香りを楽しむ様子が無い。


「米軍さんは専門家を別に呼んでるとか言ってね。そこでヘリに乗って登場したのが酒々井さんだったのさ」

「ヘリ?」

「アメリカ大使館のごたごたを解決したことがあって、そのつてでピックアップされたんだってさ」

「それも知りません」

「ほんとに何も教えてもらってないんだね。そんで酒々井さんが私達も頼れるってんで機体に入れてもらえたんだ。呪われた絵画には悪魔が憑いていた。最初は私達が祓った。一度は消し飛んだと思ったんだけどね」


 みんなの視線が突き刺さるようだ。


「祓えてなかったのですか?」

「ああ、ダメだった。しぶとい相手でね。結局最後は酒々井さんが祓った。なんか特別な石を使ってたんだと思うけど」

「え?そんな、悪魔用の石なんてありませんけど?」

「そりゃ私も知らんし。石に封じ込めてからそれを祓うみたいな感じだったと思うけど」

「あ」


 どうも心当たりがあるみたいだな。後は酒々井つゆりがそれを出来るポテンシャルがあるかが問題だろう。


「今回のあの台座も、もしかしたら祓いきれてないかもしれない」

「え?でも何も感じませんでしたけど」

「一度拍手で祓うとその場にいなくなるけど、またそこに出て来るみたいな?」

「いや、悪魔の場合はそんなパターンとちと違う。あいつらは狡猾なんだ」

「狡猾?」

「上の人形がダミーだったこともそうだけど、あいつらやばいと思うと祓われた振りをすることがあるんだ」

「え?じゃあ、まさか今回も?」

「可能性はある。どんだけの奴かによるけどね」


 そう心配そうな顔をすんなって。そのために酒々井の石は使わせないで終わってるんだ。もしあの台座が相当狡猾な奴ならば、お前さんたちに祓ってもらうまでさ。


「あのー」

「何?未散」

「この話って、今まで聞いたこと無かったんですけど」

「ああ、言ってない。私とまつりだけ」

「道理で」

「お偉いさんたちからものすごい勢いで守秘義務だなんだと迫られてたからね」

「今、話しちゃってましたけど」

「ああ、そうだな。今のは独り言ってことにしとく」


 もう時効だろ。時効なんて無いか。なんだよ、その呆れ顔は、未散。


「あと、あの、名前の件なんですけど」

「何、言っていいよ、未散?」

「名前を偽っていることからも、狡猾さを感じますけど」

「そんで?」

「えっと、名前のダイアルデバー。あれがヒントなんじゃないかと」

「ヒント?」


 私が聞き返すと未散は可愛らしいシステム手帳を取り出した。そこに「DIALDEVER」と書き込んだ。

 ちらっとゾフィーに見せて、それを見たゾフィーが頷いた。


「悪魔、DEVILです」


 そう言って未散は「DIALDEVER」から「DEVIL」の文字を抜く。残るのは「A」「D」「E」「R」になる。


「あ、「DEAR」になる。ディアデビル。悪魔に捧げる?」


 酒々井が驚いたように言う。なるほど。ゾフィーは高揚した顔でフィリップに何事か話しかけている。


「Please」


 ゾフィーが未散からペンを受け取り、手帳にさらさらと文字を書いた。


「DAREDEVIL」


 デアデビル?


「ならず者とか、無法者とか?」


 未散がスマホで検索して教えてくれた。こっちか。


「それが奴の名か。Real name?」

「Maybe」


 おそらくと言いつつ、ゾフィーは自信ありげだ。


「名前が分かれば、ドロテア家の出番。なんだろうね?」


 私の言葉の意味をどれだけ分かっているのか。しかしゾフィーはドロテアという部分に反応して深々と頷いた。


 頼もしいことだ。今日「斬魔一刀」を使ってしまった以上、酒々井頼りになりかねなかったからな。





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