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物憑き 【ダイアルデバーの本体】




 うちの会社で押さえたホテルのロビーの一角に私たちは集合していた。

 ゾフィーちゃんはテーブルに置かれたメニューを見て、なぜかがっかりしていた。


「あれは「ダイアルデバー」ではありません」


 フィリップさんが日本語で会話をしてくれる部分は通訳しないで済んだ。正直、少し二人とも癖があって、リスニングはギリギリなのでありがたかった。


「しかし呪われた人形でしたよ」


 ちらっとフィリップさんに見られる。


「But that is a cursed doll.」


 通訳して聞かせる。みんなももう少しゆっくり話してくれればいいのに。この二人はそこそこ日本語を理解しているのだから。


「それは確かです。でも違う、のです」

「どう言うことよ?」


 フィリップさんの言葉にひかりさんが返す。


「pedestal?」

「台座、です」

「Only the pedestal is what we are looking for, and the doll is different. 台座だけ、本物」

「だそうです」


 通訳いらない?


「あのー」


 ここで上梨君が手を挙げた。手にはスマホ。


「ひょっとして、お二人が言っている「ダイアルデバー」ってこれですか?」


 スマホをこちらへ上梨君が向ける。そこには別のアンティーク人形の写真があった。


「That's it!」

「それが「ダイアルデバー」ですだ」


 フィリップさんの日本語がおかしい。


「それは、どこ?」

「えっと、埼玉だそうです」

「Saitama?」

「えっと、ニアトーキョー」

「We must go to Saitama.」


 ゾフィーちゃんが身を乗り出して言う。


「それ、どこから?」


 酒々井さんが上梨君に聞く。


「これは加茂さんから。埼玉で井出羽の五人組を助けたんだって」

「井出羽の?」


 桐野ひかりさんと須賀原さんが顔を見合わせた。二人も知り合いみたいだ。


「なんで、埼玉にその「ダイアルデバー」が?」

「あ、そう言えばうちの銀之助が、埼玉にも行ってる可能性があるって言ってたな」


 須賀原さんの疑問に桐野ひかりさんが答えた。


「つまり台座だけこっちに残して、本体は埼玉に行ったってことか」

「It seems that the main body went to Saitama, leaving only the pedestal.」


 通じているかしら?


「カモ、イデワ、はどんな人たち?」

「Prayer? Exso…cist?」

「Exorcist?」

「Yes, like Exorcist」


 エクソシストなんて英語、覚えてないもん。


「あ、でも、その「ダイアルデバー」は祓えたみたいですよ」

「あら」


 上梨君が電話を掛けた。


「あ、どうも上梨です」


 電話の相手は恐らく加茂と言う方だろう。


「送ってもらった人形が「ダイアルデバー」って言う探していたもののようです。ええ。そうなんです。英語をしゃべってました?ああ、やっぱり」


 会話の中身が分かるように言葉を繋いでくれる上梨君だが、私はそれを要所要所で訳さないといけない。


「井出羽の五人組で抑えて、そこに加茂さんが加わって祓った?手強かったけど?本体が無い感じ?祓ったけど、祓い終わってないみたいな。分かりました。伝えておきます。人形は朽ちてしまったと。画像も。はい、ありがとうございます。いえ、まずはこちらで何とか」


 上梨君が電話を切った。しばらく待つと画像が転送されたようだ。こちらにスマホを向ける。


 そこにはバラバラになったアンティーク人形が写っていた。しかも先ほど見た物よりも古くなったような印象だ。


「That's incredible!」


 ゾフィーさんが笑顔になる。


「でも、待って。じゃあ今日のあれは何よ?」


 桐野ひかりさんの言葉に場が静まる。


 何だろう?


「それに、本体が無い感じという印象も気になりませんか?」


 上梨君の言葉に、ゾフィーちゃんとフィリップさん以外は頷いた。


 しかし私が訳すと二人も頷いた。


「うーん」


 そしてみんなして考え込む。私は恐る恐る手を挙げた。


「あのー?」

「武田?何?」

「的外れだったらすいません」

「いいよ、何でも言って。ヒントになるかもしれないし」

「はい、あの、台座じゃないんですか?」

「台座?」

「台座?」


 やはり見当違いのことを言ってしまったのかもしれない。私に向けられた視線に耐えられなくて視線が下がった。


「そうか、台座か」

「台座? pedestal?」

「That's right. Pedestal. Only the pedestal is the same.」


 ゾフィーちゃんが立ち上がらんばかりの勢いで言った。


「そうか、本体は台座に。上にいた人形は本体を隠すためのダミーみたいなものなんだ」


 須賀原さんが私の手を握ってぶんぶん振る。私は自分の顔が赤くなっていないか心配だった。


「ずっと上に乗っていた人形にはそれなりに強い霊が憑いていた。それが埼玉にある人形だ」


 上梨君がつゆりさんと頷きながら言う。


「そうね。つまり今上に乗ってる人形もダミー。だから祓っても祓っても次が入ってくるだけなんだ」

「あれだけの禍家だから、周囲の霊も吸い寄せられている。それが祓った後にすぐに入ってくるんだ。だから声が変わる」


 通訳が追い付かないんですけど。


「So the doll speaks Japanese」


 ゾフィーちゃんとフィリップさんも同意見のようだ。


「酒々井さん」

「酒々井、あるいはつゆりでいいです」

「そう?じゃあつゆり。あなた明日には「破魔」出来るわよね?」

「出来ます」

「じゃあ、勝負は明日。須賀原は体力回復してよね。今回はあんたのお経が頼りなんだから」

「このお嬢ちゃんは?そういうの出来ないの?」

「専門は祓う方みたい。塩とお香は使えるって言ってたから、もちろん明日はそれも使ってもらいましょ」


 桐野ひかりさんが私の方を向く。


「明日は全力でやってもらうって通訳して。塩とお香も使うって」

「はい」


 私が通訳すると、ゾフィーちゃんが胸を張ってその胸に手を当てた。若いのに自信満々だ。


「I will do my best in the name of the Dorothea family」





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