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物憑き 【裸踊りを見せろよ】

前半井出羽の楓さん視点。後半は加茂さん視点です。




「はあ」

「何のため息よ?」


 思わず修のため息に突っ込みを入れてしまった。もちろんため息の正体は分かっている。憂欝なのだ。


「抑え込んでるのはいいんだけどさあ」

「無視よ、無視」


 五方陣護法は功を奏していて、人形を抑え込むことには成功している。夜になると活性が高まるが、それも今のところ大丈夫だ。しかしその夜にあの人形に罵詈雑言を浴びせられるのだ。

 英語のリスニングに難のある修でさえげんなりしているのだ。意味が一番分かる柚の方が参っていた。


「ほんとむかつく、あの人形」


 吐き捨てるように言う柚である。


「それも明日までよ。満さんと要さんが来るまでの辛抱」

「分かってるわよ。今夜こそ無視してやるんだから」

「修も、聞かないでよ」

「あ、ああ。うん」


 自信なさげだ。英語が分からないので、ついつい意味を聞いてしまうのだ。


「あ、ちょっとやばい?」


 家に入って驚いた。部屋から瘴気が滲み出ているのだ。


「まさかパワーアップしてる?」

「でも誰も入ってないし」


 人形がパワーアップしたことは確かだが、その理由に思い至らない。


「五方陣護法で抑え込んでいるから?」

「抑え込んでパワーアップなんて、聞いたこと無い」

「確かに」


 そう言いつつ修が部屋のドアを開いた。


「うお」


 人形が初めて立っていた。


「Welcome to my home.」


 楽し気な声で歌うように人形が言った。


 完全に小馬鹿にしているのだ。修にも分かる英語で完全にこちらを挑発して来る。


「うるせー」


 言い返しながら修が配置にさっさとつく。


 人形が立っている目の前に私が立つことになる。


「Hey bitch」


 ぐりっと人形の目が動いて私を見る。


「Lick my asshole」

「誰が」


 ぶん殴りたい衝動を抑えて呟くだけにする。


「入れるよ。いい?」

「いつでも」

「You're fool who does a lot of waste」


 無視だ、無視。


 配置について気を練り始める。


「Go home and do masturbation」


 ゲヒゲヒと下品に人形が笑う。その上品な無機質な顔との違和感が半端ない。


「入レズ、逃サズ。五方陣護法」


 リンと空間が鳴った。


「何だと?」


 修が驚く。


「I'm already bored」


 ずりっと人形が一歩踏み出した。


「か、楓っ」

「Show me naked dance」


 舐めるなっ。


 私は木の金剛杖を素早く手にして突き出した。


「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」


 素早く九字を切る。人形が目の前まで迫っている。


「Look, take it off fast, Bitch」


 誰が脱ぐが、ふざけんな。


「破」


 ゴトンと人形が倒れた。


「楓」

「ちょっと、楓」

「ごめん、むかついちゃって」

「まあ、立って迫って来てたし、仕方ないよ」

「荒ぶるようならやっかいだよ。祓えてないし」

「ごめん」


 私一人の力で祓える相手ではない。安い挑発に乗ってしまったのはしかし、人形に触られたくないという思いも強かったから。

 いけないなあ。まだまだ未熟だ。


 井出羽のナンバーワン将さんは、まだ若い頃に憑かれた女性3人に全裸に脱がされて全身を舐め回されながら一晩掛けて祓ったと聞いたことがある。


 でも、おっさん三人に全裸にむかれて舐め回されるなんて、絶対無理だ。耐えきれない。この人形が舐めるわけじゃないけど。


「さっきの五方陣護法だけど」

「うん、不完全だったね。やっぱり三人じゃバランスが崩れるから」

「どうする?」


 修と柚が私を見る。


「不完全なりにもう一回やる。二人は場所を移動して」

「分かった」

「やりましょ」


 二人は私の指示に頷いてくれる。


 この糞人形め。明日五人揃ったら痛い目に合わせてやるんだから。







「師匠。井出羽という名乗る方からお電話です」

「井出羽?」

「ええ、でも年配の女性です」

「おっと」


 豪君に電話を渡されてそれを耳に当てる。


「加茂です」

「久しぶり。井出羽だよ」

「お久しぶりです。先日は五人組の方々とご一緒させていただきました」

「未熟な五人だから迷惑を掛けたろう」

「いえ、立派にやっていましたよ」


 電話の主は井出羽の当主だ。私の若い頃に、一度だけ仕事を一緒にしたことがあった。その後は、扱う道具について、数回電話で話をしたことがある。


「実はその五人組についての依頼なんだ」

「依頼、ですか?」

「あの時の貸しはまだ有効かい?」

「それはもちろんです」

「そうか、よかった。実はその五人組を助けてもらいたい」

「石川県ですか?」

「いや、埼玉だよ」


 意外と近かった。


「祓う案件ですよね?」

「ああ、物憑きだ」

「どんな品か聞いても?」

「アンティーク人形だよ」


 こっちもか。世の中そんなにアンティーク人形が流行っているのだろうか?後で豪君に聞いてみよう。


「聡が最初に関わってね」

「聡さんが?」


 聡さんは当主と関わることになった案件で、共に祓う仕事をした関係だ。祓う力は弱いが、道具についての造詣が深く、加茂家と相性は良かった。


「あいつは祓う力は弱いが、状況分析や道具の扱いは一流だ」

「ええ、知っています。分かってない人も多いみたいですけどね」

「その聡が五人組じゃ無理だと言ってる」

「将さんは?あの姉妹とか?」

「将は北海道。桧と柊は海外だよ」

「そうですか。分かりました。すぐですよね?」

「そうだ。すまないね」

「いえ、助けてもらった身ですから」

「そう言ってもらえると助かるよ。若い者は前回あんたらに同行して随分伸びた。それでもやはり聡が厳しいと言うのなら、厳しいのだろうよ」

「伸びしろのある五人組を、ここで失うわけにはいかないってところですか?」

「いやいや、井出羽の名を汚さないためだよ」


 以前にも聞かされた台詞に思わず苦笑した。


「加茂、あんた笑ったかい?」

「いえ、めっそうもない」


 危ない、危ない。引退したとは言え、井出羽の当主は伊達じゃないのだ。


 行き先と滞在先を聞いて電話を切った。


「豪君、出掛けるよ。支度を」

「はい、師匠」

「あ、ところで」

「はい?」

「アンティーク人形流行ってる?」

「いえ?」


 だよね。





ちなみに柊さんと桧さんが行っている海外はイギリスだと言う裏設定があります。誤字報告ありがとうございます。助かっております。

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