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物憑き 【フーアーユー?】

引き続き、井出羽の楓さん視点です。




「特に異常無いわね」


 ゲーセンに寄った後、再び家に戻って状況を確認して、日が暮れても特に変化が無かったのでホテルに戻って食事をした。先にお風呂も入って、また家に来ていた。


 五方陣護法はしっかり機能していて、封じ込めは安定していた。


「どうする?帰る?」

「いえ、日付が変わるまではいましょう」


 私たちは人形を封じ込めた部屋の隣の部屋で待機することにした。

 しばらく雑談をして過ごして、やがて深夜となった。


「ん?」


 三人が同時に気付いた。


「声?」

「うん、聞こえた気がする」

「人形が?」


 私たちはすぐに隣の部屋に移動した。


「おっと」


 修が思わず声に出し、柚は息を飲んだ。


 人形の位置が明らかに変わっていたのだ。中央の金剛杖に正対させるように置いていたはずなのに、今はほぼ真横に寝ているのだ。


「動きやがったな」

「動いたみたいね」


 私は手に馴染んでいる木の金剛杖を取り出した。二人もそれに倣う。


「九字、切っておく?」

「変に刺激して荒ぶっても祓えないかもしれない。まだ様子見よ」

「了解」


 見ている時にも動くのか?そう思った瞬間に、それは動いた。


ずり


 人形が寝たまま45度ほどずれた。


「おっとと。五方陣護法の中なのに元気じゃんか」

「配置に」


 二人が頷いて配置してある金剛杖のところへ行った。私は人形の目の前の金剛杖へ。


 開いたままの人形の目が天井を見つめている。


 どうしたものか。この人形の力が読めない以上、変に刺激して暴走した場合はやっかいなことになりかねない。三人で九字を切って祓えればいいが、ダメだった場合は五方陣護法が突破される可能性も出て来るのだ。


「笑った」


 私にも聞こえた。


 人形が小さく笑い声を発したのだ。


 声帯を持たない人形に声を出させることが出来る強さをもった相手だと言うことだ。これは物を動かすよりも、その強さを表している。


「何がおかしい?」


 思わず人形に聞き返した。


 その瞬間、人形の目がぐりっと動いて私を見た。


 ぶわっと鳥肌が立つ。


 普通の霊じゃない。


 なんだこれは。


「Go home, Bitch」


 英語、だと?


「Do you think you can suppress me with something like this?」


 間違いない。バリバリの英語だ。


「な、何だって?」


 修が狼狽えながら聞いて来る。もう、しっかりリスニングの勉強もしなさいよ。


「帰れ、役立たずって」

「もっといろいろ言ってたじゃん?」

「概ね、そんな感じなの」


 柚が答えてくれる。私は奴の視線を受け止めるのに精いっぱいだったのでありがたい。


「楓、大丈夫?」


 柚が聞いて来るのにかろうじて頷く。


「フーアーユー?」


 発音に自信が無いが、取り敢えず英語で聞く。会話が出来る相手なのかも探らなければ。


「I am your cheating partner.」


 分からない。修のことを言えないなあ。柚に助けを求めたいが、視線を逸らせない。


「な、なんて?」

「浮気相手だって」

「なにー」


 怒るところじゃないよ、修。ても聞いてくれて助かった。こいつは挑発しているのだ。


 これはやばい。


 会話の出来る知恵が残っているだけじゃなく、こちらを挑発するようなことまで出来るのだ。


「ホワッツユアネーム?」


 自分の声が少し震えている。くそっ。必死にお腹の奥で気を練って対抗する。


「There is no reason to teach. Idiot bitch.」


 ビッチの前が分からない。ほら、修、聞いて聞いて。


「い、今のは?」

「教えないよ、馬鹿って」


 やはり挑発を通すのか。


「ふん、強がっちゃって。この五方陣護法からは出られないわよ。しばらくしたら仲間が来て、あんたなんか、すぐに祓ってやるんだからね」


 私は金剛杖をびしっと突きつけて言い放った。


 付き合いきれない。相手に飲まれるのもよくないことだ。


「出るわよ」


 私は二人を促して部屋を出た。


 強がっていたが、部屋を出た途端に膝が砕けた。さっと柚が支えてくれた。こら、修。ナイトはあんたでしょうが。


「やばかった?」

「人形の視線がなかなかの迫力でね。最初から気を練っていればよかったんだけど」


 修がやっと支えてソファに座らせてくれた。


「英語ってことは、見かけ通り外国の霊ってことだよね」

「うん、たぶん」

「たぶん?」

「あ、外国のだってところは間違いないよ」


 二人が顔を見合わせる。


「じゃあ、どこが違うの?」


 柚が不安そうな顔で聞いてきた。


「単純な霊じゃない。もう悪霊ってこと?」


 修がさらに重ねて聞いて来る。


「ごめん、分からない。でも何だか霊とは違う気がするんだ」


 そうとしか答えられなかった。





柚さんは英語が得意です。楓さんはほどほどです。修君は…。

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