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物憑き 【ダイアルデバー】

前半フィリップさん視点。後半上梨君視点です。




 ダイアルデバーという名の人形はドロテア家の倉庫にずっと保管されていたアンティークの台座付き人形だ。

 ウィッチクラフトの血を引くドロテア家は、ゴーストバスターやエクソシストと同種に語られることもあるが、別物である。また、その名前から魔女と言われることもあり、それをウィッチクラフトの一族は極端に嫌う。


 悪魔や霊を祓うことを生業とする者は昨今ではいないが、その力は脈々と受け継がれている。

 目の前に凛と座りつつも口元をトマトソースで汚してしまっているゾフィー様もその一人だ。


 そんなドロテア家の離れは倉庫になっていて、そこにはアンティークとして価値のあるもの保管されているが、世には出せない代物も数多く所蔵されている。所蔵と言うよりも、特殊な処置を施した倉庫に封印していると言ってもいい。

 そんな倉庫に賊が侵入したのが半月ほど前だ。そこで盗まれたものの中に件のダイアルデバーというアンティーク人形が含まれていたのだ。


 当主は英国情報機関まで話を通して、賊の行方を追ったが、結局人形の行方は転々としていた。行く先々で人が不幸になったり、狂ったり、そして死んだりしていた。


 そして日本に人形が渡ったと言う情報を得たのだった。


 白羽の矢が立ったのがゾフィー様だったのは、彼女がジャパニメーションに傾倒し、多少なりとも日本語が話せたこと。そしてウィッチクラフトとしての才能を見込まれたからだ。


「どんな人形なのかの情報はないんですか?」


 日本にこのような案件で頼りになるコーディネーターはいないかと探して、このキリノという男性に辿り着いた。キリノの家は我々と同様に、このような案件を解決することが出来る血筋らしい。しかもそれを専門とする職業として成り立たせていると聞いた。


 当のキリノはそのような力はあまり無いとのことだったが、頼りになるとの評判に偽りはなかったようだ。


「人形がいつからドロテア家に置かれるようになったのかは、実は記録がございません。ただし、決して触れるな。表に出すなと」

「今回は転々とする先で、いろいろと起こしたみたいですか?」


 その件については内密なままにしてあるはずだが、どこかから情報を得たらしい。やはり頼りになる青年として評価して間違いないようだ。


「人が死んでいます」

「となるとより強力になっている可能性もありますね」

「違った見方をすれば、まだ全力を出すところまで行っていないのかもしれません」

「なるほど。何にせよ、あまり時間的猶予はないと」

「その通りです。ドロテア家としては一刻も早く回収するか、それが無理なら破壊したいのです」

「分かりました」


 ゾフィー様がパスタを早々に食べ終わって、私の皿のパスタをちらっと見た。残念ながら私の目の前の皿のパスタにはグリーンペッパーが大盛りになっている。さすがにこれを食べたいとは言わないだろう。


「ゾフィー様はクラフトウィッチとして、最近のドロテア家でも出色の力量の持ち主です」

「へえ」

「すでに実績もあります。大きな案件では王室のある人物にかけられた呪いの解呪。ある地方で発生した連続殺人の犯人が憑かれていたのを祓った件。ちなみにこの時の犯人は双子の子供でした」

「それはそれは」

「くれぐれも内密に」

「もちろんです。ところで、ゾフィー様」

「ゾフィーでいいわ」


 ゾフィー様が答えた。


「もし気に入ったようなら、これ、食べませんか?」

「あら、よろしいの?」

「実は私は朝ごはんをガッツリ食べるタイプでして。まだお腹が減っていないのですよ」

「そう言うことならいただくわ。もったいないですから」


 キリノの皿のパスタは、グリーンペッパーがすでに全部食べられていた。


 私はこのキリノが気に入っていた。







「アンティーク人形ですか?」

「そう、イギリス製らしい。年代物みたいだよ」

「それが物憑き?」

「ああ、それもとびきり危険みたいだね」


 俺とつゆりはおばあさんから、須賀原さんからの頼み事の話を聞かされていた。


「それを祓いに来てくれと、そう言うわけなの、おばあちゃん?」

「そう言うことだね。まあ、横の繋がりも大事だ。行ってきな」

「おばあちゃん、私達学生で授業があるんだけど」

「それが何か問題なのかい?留年しそうなのかい?」

「ううん。そんなことはないけど」

「つゆりは逆に土日はバレー部で空けたくないんだろう?」

「うん、そうれはそう」

「だったら平日に方が行きやすいじゃないか。朝立って、その日のうちに祓えれば。夜には帰れるだろうし」


 さすがおばあさんだ。つゆりはいつの間にか頷くばかりになっている。


「上梨は?」

「俺?俺は別に大丈夫だな。普段ちゃんと授業出てるし」

「何よ、まるで私が普段から授業をさぼってるみたいな」

「さぼってないっけ?」

「うー」


 おばあさんが笑いながら封筒を差し出した。


「これは?」

「交通費、もしもの場合の宿泊費。食費や諸々の経費。10万円入ってる」

「報酬も込みですか?」


 俺の言葉におばあさんがまた笑った。


「報酬は須賀原から出るよ。これはお前さんたちへの先行投資ってところだね」

「はあ、そうですか」

「まだ、行くって言ってないよ、おばあちゃん」

「おや?彼と京都旅行行きたくないのかい?」

「うー」

「行きたくないのかい?」

「…行く」


 つゆりが観念した。





今回のテーマ、物憑きの本命です。「ダイアルデバー」

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