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鬼退治 【出雲めのうの勾玉】

酒々井つゆりちゃん、桐島未散ちゃん、上梨君と視点が移ります。




「わ」


 思わず声を出してしまった。慌ててタオルで口元を隠した。


「つゆり」

「ごめーん。なんかすごかったから」


 私は言い訳をして頭を下げた。


 桐島文太さんからアドバイスを受けて上梨はじょうを使った型の練習をしていた。いつもみたいに突きとか剣みたいに振るのじゃなくて、片手でぶんと振り回すみたいなの。


 最初はなかなか上手に出来なかったようで、振り終わって残心を取った時にしか杖が光を帯びなかった。でも徐々にコツを掴んだようで、とうとう杖が光を帯びて振られるようになった。


 とっても綺麗だったので、思わず声を上げてしまったのだ。


「いや、俺もびっくりしたくらいだから」

「あ、やっぱり?」

「やっと杖に力を乗せられた感じだな」


 私はタオルを持って上梨に近づいた。上梨も今は「開眼」の効果で「見える」からさっきの綺麗な光の帯が見えたはずだ。


 渡された上梨がうっすらとかいた汗を拭く。その喉を見て、なんだかドキッとする。


「今のが連発できるようにならないとな」


 汗を拭いたタオルを受け取り、私は邪魔にならない位置まで下がった。


「がんばって」


 応援しか出来ないところがもどかしい。胸に抱えたタオルから嗅ぎ慣れた上梨の汗の匂いがふわりと漂った。


 ここでタオルに顔を埋めたらちょっと引いちゃうよね。


 ぶんと振る上梨の杖が、また光の帯を綺麗に描いていくのを見ながら私はせめてタオルをぎゅっと握った。







「ダメですか?」

「うーん」


 文太さんの指示を受けて、私は「十連羅斬」の練習をしていた。文太さんはベッドで横になっているので、今は銀之助さんがその練習を見ていてくれている。


「途中で飛んでっちゃう感じですよね?」

「そうです」


 銀之助さんはなんとか「見える」レベルなので、私の「十連羅斬」が失敗していることが何となくしか分からない。


「難しいらしいですよ、溜めるのって」

「難しいです」


 「十連羅斬」は十回の斬撃を相手に放ち、それをもって相手を拘束したり封じ込めたりする奥義である。


「一度放った斬撃を残すって言うのがなんとなくしか出来なくて、結局途中で最初の方の効果は消えて行っちゃうんです」

「ふむ」


 斬撃を放つこと自体は難しくない。斬る感覚よりも抑え込む感覚を「青龍」に込めることで、放たれた光を対象に残すことも出来るが、斬撃を重ねるうちに最初の方のは消えてしまうのだ。


「十連をすっごく速く放つっていうのは?」

「一撃が軽くなっちゃう」

「それだと「鬼」には効果が出ないか」

「たぶん。そうです」


 一晩で消化出来る課題じゃなかったのかなあ。「青龍」のことを使えるようになったばかりの私には荷が重いのかも。


「未散ちゃん。俺に向かって放ってみてよ?」

「え?」

「対象が木だろ?やっぱりそれだとダメなのかもよ」

「人に向かって何てダメですよ」

「そうか?「十連羅斬」は実際に剣を当てない奥義だろ?人間には効果ないかもよ?」


 ダメダメ。


「銀之助さん。ダメですよ。そんなこと言っても引っかかりません」

「ダメか」


 銀之助さんが頭をかいた。


「いくら私が駆け出しでも、人に向かって放ってはいけないことは分かっています」

「でも霊障が出ているわけじゃない人間にならばほぼ大丈夫なことも分かっているよね?」

「ほぼ、です」


 そこが大事だ。憑かれている人間に放つのは祓うために仕方ないが、特に問題のない人間に奥義を放てばどんな影響が出るか分からない。


 奥義をくらうことで、直後に憑かれやすい状態になる事例があったことも教えられている。


「じゃあ、奥の手」

「奥の手?」


 銀之助さんが何かを取り出した。


「勾玉?」

「そう、出雲めのう」


 銀之助さんの手には涙を捻ったような形の石があった。いわゆる勾玉と呼ばれるものである。昔の人が装飾品に使ったとされるものだ。


「須賀原さんが、こっちの生産者と通じていると聞いてね。質のいいのを手に入れたんだ」

「これが?」

「これを持っていれば、たぶん平気だから」

「え?奥義を受けても?」

「魔除けにもなるけど、こいつは身代わりにもなるんだ」

「そんな効果があるんですね」

「試したわけじゃないけどね。未散ちゃんから見て、どう?」


 一つ大きな勾玉を渡される。


 特に変哲のない石に思える。めのうと言われてもよく分からない。


「気、込めてみて」

「はい」


 少しだけ勾玉に気を流し込んでみる。


「あ、入ります。すごいですね、これ」

「だろ?分析したわけじゃないけど、酒々井さんが使っている石もめのうのものがあると思うんだ」

「へえ」


 私は勾玉を銀之助さんに返した。


「試す気になった?」

「一度だけ。威力は少し弱めます」

「そうこなくちゃ」


 離れた位置に銀之助さんが勾玉を手で掴んでこちらへ向けて立った。


 「青龍」を上段に構える。気を流し込むと、すぐに「青龍」が青い光を帯びた。


「十連羅斬」


 まずは縦に一刀。







「どうしたんですか?銀之助さん」

「馬鹿をしたのだ」


 文太さんがあきれたように言った。


 杖の鍛錬を一応満足できるところまで行って、部屋でシャワーを浴びてもう一度桐島文太さんの部屋へ行くと、横のベッドに銀之助さんが寝ていたのだ。


「馬鹿なことって?」

「未散の「十連羅斬」を受けたのだ」

「はい?あ、すいません」


 つゆりが変な声を出した。慌てた仕草が可愛くて吹きそうになる。


「なんでそんなことを?」

「未散の「十連羅斬」がうまくいかないのは木に向かって練習しているからだと考えて、自分が受けることにしたのだと」

「ごめんなさい」


 未散ちゃんが小さくなって頭を下げた。


「未散はいい。銀之助が悪い」


 その銀之助さんは文太さんの辛辣な言葉に言い返す元気もないようで、ベッドから手をひらひらと振るだけだった。


「何の対策をしないで、生身で受けたんですか?無謀ですよ」

「あ、いえ」


 未散ちゃんがテーブルの上へと視線を向けた。そのテーブルの上には砕けた石が転がっている。


「これは?」

「勾玉です。あ、勾玉だったものです」

「勾玉?」

「出雲めのうだそうです」

「あ、めのうって私の石にもあるらしいよ」

「ああ、そう言えばめのうにも魔除けの効果があるって誰かから聞いたな」


 ちらっと須賀原さんを見るが、須賀原さんから聞いたのではなかったように思う。


「今回私達も出雲めのうの業者と契約を結んだんですが、そこは良質の勾玉も作ってくれます」

「形も大事なんですか?」

「ああ、その通りだよ」


 須賀原さんが首から吊るしたひもを出した。ひもには勾玉が3つぶら下がっていた。


「勾玉は糸やひもを通す太く丸まっているところが太陽。こっちの細いところが月を現している。太陽と月を融合させた形なんだ」

「太陽と月。強そうですね」

「その通りだね。ちなみに穴は祖先との繋がりを得るために開けてあるとされるね」

「穴にも意味があるんだね」


 つゆりが感心したように言う。


「素材もいろいろ。めのう以外にもヒスイや碧玉、水晶とか」

「それはすこし形がふっくらしている気がしますけど」

「よく気付いたね。これは出雲型と呼ばれてる。勾玉の形の中でもふっくら丸みがあるのが特徴。思いを込めやすく、それでいて抜けにくい形になっているんだ」

「高性能ってこと?」

「はは、そうだね?」


 つゆりの言葉に須賀原さんが笑った。


「そうだ。ちょっと待っててもらえる?武田君、例の子持ち、持ってきてくれるかな?」

「はい」


 武田さんが頷いて部屋を出て行った。


「子持ち?」

「うん、特殊な形の勾玉なんだけど、今回契約した業者の職人さんが試しに作ったものなんだ。装飾があしらえられている物で、魔除けやお守りではなくて仙術や呪術の増幅器として使われたらしい」

「増幅器?」

「お待たせしました」


 武田さんが袋を手に戻った。さっそく見せてもらう。


 勾玉の表面に小さな突起がたくさん付いている。これが子持ちと言われる所以か。


「この子持ち、突起が込められた力をブーストするんですね?」

「そうらしい。手に入れたばかりでさすがに実戦投入は躊躇われているんだが。どう?上梨君、付ける?」

「石ですから、つゆりと相性がいいと思いますが、ちょっとどうなるか見込めないのは怖いですね」


 そう言ってつゆりを見ると、彼女もこくりと頷いた。


「でも勾玉にお守りとしての力があることは、その砕けた勾玉を見ても明らかですよね?」

「うん、まさかこれを実際に彼が試すとは思わなかったけどね」


 ベッドの上から銀之助さんが親指を立てた手を挙げた。


「褒めてなどいないぞ」


 文太さんがぴしゃりと言うとその手がゆっくりと下がって行った。


「しかしその勾玉は明日、全員が身に着けてもいいかもしれないな」

「ああ、そう言えばそうですね。一応数はあるので、配りましょう」

「つゆりも?大丈夫?」


 石となると、普段使っている酒々井家の石とぶつかるみたいなことはないだろうか?


「うん、お守りとして持つのは平気だと思う」

「そうか」


 つゆりと微笑み合った。


「おほん。この子持ち勾玉は一応切り札として持って行くよ。使わないで済むならそれに越したことはない」

「いざというとき、誰が使いますか?」

「その時の状況によると思うけど」

「上梨君、君だろう」


 文太さんが言い切った。俺ですか?


「現時点で、このメンバーの中で一番可能性があるのは君だ」

「いやいや」

「謙遜などいらん。事実だ。将来ならば未散に持たせたかもしれないが、今は君だ」

「うーん」

「大丈夫だよ。上梨。子持ち勾玉使わないで何とかすればいいんだから」

「まあ、それはそうだけど」


 あの「鬼」相手だから、自信などないんだけれど。


「文太さん、そう言うことなら」

「うん?」


 須賀原さんが思いついたように文太さんに言った。


「不動明王の面、彼に託した方がよくありませんか?」

「む。そうだな」


 いやいや。もう渋滞してませんか?あれこれと。





誤字報告、評価、ありがとうございます。以前にも書いた気がしますが、作中の様々な表現にあるものには諸説あります。フィクションであるとご理解くださいね。

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