表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/139

鬼退治 【光明の太刀】

桐島未散視点です。




「彼がその元カレですね」

「そうだ」


 確かに亜世さんに向かって名前を呼んでいるように見える。ただ声そのものは聞こえない。


 そしてその元カレの霊からは邪悪な気配は確かに感じない。


 いや、むしろ、亜世さんに対して慈しむような視線のような気さえする。


「お経を?」

「出来ればお願いできるかい?本調子じゃないので温存したいんだ」

「分かりました」


 私は手にした木刀の「秋月」を構えた。


 切っ先を元カレの霊に向けるだけで、ゆらゆらと揺らぎ始める。強い霊というわけではないようだ。


 しかも本命はこの後だ。


 私はゆっくりと足をすり足で進めた。


 切っ先が近づくだけで元カレの霊は部屋から出て行った。


「さすが」

「すごいね、未散ちゃん」

「いえ。それより準備を」


 もちろん準備は万端のはずなので、それは私自身に向けて言ったようなものだった。


 「秋月」にするか「青龍」にするか迷った末、私は「秋月」を手にしていた。信頼性というか、やはり慣れ親しんだ「秋月」を頼りにしたかったのだ。


 きっとひかりさんに知れたら叱られるだろうなあ。


 そう思いながら「秋月」をしっかりと握りなおした。


 ミシリ


 家が鳴った。


 須賀原さんと武田さんに緊張が走るのが分かった。


 ミシリ


 もう一度家が鳴ると、「秋月」が手の中でぶるっと震えた。


 何?


 こんなことは初めてだ。私が「秋月」を掴む手に力を込めると震えは収まった。今のは「秋月」の震えなのか、それとも私の震えなのか。


「祓え給え、清め給え、かんながら守り給え、さきわえ給え」


 武田さんが略拝詞を唱え、おりんを鳴らした。


 なるほど、聞いた通りとても上手に略拝詞を唱えている。


 そして須賀原さんが数珠を手にお経を低い声で唱え始めた。


 先日はこのお経でなんとか守ったけれど、喉にダメージを負ったと聞いた。今日は私がいるのでセーブして読経してくれているはずだ。


 それでも大したものだ。


 あきらかに部屋が静謐な空気に包まれた気がする。ご本人は謙遜しているけれど、ひかりさんも認める人物なのだと再確認する。


 それと同時にその須賀原さんが守るだけで精一杯だったという相手に対する警戒が高まる。


 ミシリイ


 まさにこの部屋が鳴ったように思えた。


 そして同時に凄まじい圧が、元カレが消えていった方向から浴びせられた。


 肌が粟立ち、お腹に力を込めないと膝が砕けそうだった。


 お願い、「秋月」。力を貸して。


 部屋の隅の盛塩が一気に黒くなり、部屋に満ちていた静謐な空気が一気に消し飛んだ。


 「秋月」に力を流し込み構えた。


「魔を祓う一刀是成、光明の太刀」


 明らかに部屋に入ってこようとする何かに向かって「秋月」を振った。


 光が飛んで窓を抜けていく。


 どんっと手応えを感じる。しかし圧は変わらないどころか増している。


「ぐうっ」


 暴れそうな「秋月」を必死に掴む。


 須賀原さんのお経の声が大きくなる。


 不甲斐ないっ。私の力ではこの何かを祓えないと判断されたのだ。


 そして悔しいことにそれは事実かもしれない。


 でも、まだっ。


 私は再び「秋月」に力を流し込んで構えた。しっかりと足から、そしてお腹を通して力をしっかりと流し込む。


「渾身の一刀、魔を伏し断つ」


 「秋月」が光を帯びる。


 これでどうだっ。


 「秋月」を振ろうとした瞬間に、窓からそれがのそりと姿を見せた。


 黒い影。


 人型の黒い塊の上半身が窓から乗り出して来る。


 ぞわっとお腹から何かが競り上がる。


 ダメだっ。


 ここで飲まれてはいけないっ。


「伏魔両断っ」


 「秋月」を必死の思いで振った。


 しかし姿を見せた黒い影はすっと窓の外に消え、「秋月」から放たれた光は窓を抜け、そのまま手応え無く虚空へ消えていった。


「未散ちゃんっ」

「あ、はい」


 剣を振った姿勢のままで固まっていた。


 須賀原さんに声を掛けられて息を吐いた。息も止めていたみたいだ。


 膝がガクガクと震えそうなのを必死に耐えた。


「い、今のは?」

「分からない。凄まじかったな」


 須賀原さんにも分からないのか。


 黒い塊なのは、あの「オヨバズ」の一つの形態に似ていると思えなくもないが、圧の種類が明らかに違う。


「先輩、亜世さんが」

「む」


 武田さんの声に見れば、亜世さんは失神していた。


 素人が耐えられるような圧ではなかったのだ。





不定期更新で申し訳ありません。誤字報告、評価、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ