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鬼退治 【家鳴り】

須賀原さん視点です。



 目的の家に到着して家を眺めるが、禍家のようにはなっていない。


「呪いじゃなさそうですね」

「うん、ぱっと見はそうだね」


 玄関に盛り塩がしてあるが、黒ずむような変化も起きていないようだ。


 2階建ての住宅は築年数を重ねているように見えるが、その2階は少し新しく見える。増築したのだろうか。


 インターホンを鳴らすと奥さんらしい女性が現れて、社長から連絡が入っていることもあって、すぐに中に入れてくれた。


「さて、さっそくですが。状況について教えていただけますか?」


 お茶も頂きつつ奥さんに問いかける。


「あの、夫が戻ってからではダメですか?」

「ダメではないですが、時間ももったいないですから」

「はあ、そうですか。分かりました」


 こうして事情を聞くことが出来た。だいたい社長から聞いていた内容であった。


「物が壊れるということは無いのですね?その瓦が落下して割れた以外は?」

「ええ、そうです。でも気味が悪くて」

「そうでしょうね。分かります」


 得体のしれない現象であるから、それは気味が悪いのも当然だろう。


 ただ話を聞いていても、家のまとう雰囲気からも悪意や邪悪なものを感じないのはどういうことだろう?


「えっとご家族は?同居している」

「夫と、娘です。息子は家を出て大阪へ行っています」

「なるほど。最近息子さんが帰省したことは?」

「もう少しまめに戻って元気な顔を見せて欲しいんですけど、1年以上顔を見せていないんですよ」


 ふむ。となれば息子さんは関係なさそうだ。


「娘さんは成人されている方ですか?」


 武田が聞いた。


「ええ、もうとっくに。今は会社勤めをしています。この実家から通いで」

「ご家族が就寝される部屋は?」

「私達はそちらの部屋で。娘は2階の部屋で」

「お部屋を見せてもらうことは可能ですか?」

「娘の部屋は娘が戻ってからでもよろしいですか?」

「ええ、構いません」


 あまりずけずけとプライバシーを侵害していくのも印象が良くない。本来ならば全部の部屋を見ておきたいが、それは引っ込めておく。


「何も、ないですね」

「そうだな」


 夫婦の寝室にしている部屋も異常なし。家を出た息子さんの部屋もほとんど昔のままにしているとのことだったが、そこも含めておかしな点は無かった。


 残りは娘さんの部屋だが、まずは帰宅を待つことにした。


 それまでは家の周囲、そして近隣を少し見てみようと外へ出た。


「畑が多いですね」

「そうだね。この辺は農家も多いみたいだな」

「旦那さんはJA勤務って言っていましたね」

「ああ。まだ田舎だとJAの影響力は強いから、ひょっとしたら誰かの恨みを買っている可能性もあると思うが」

「まだ何とも言えない状況、ですね」

「そうだよ」


 特に何もない。


 だが、なんとなく立ち止まった。


「どうしました?」


 突然立ち止まった私に武田が怪訝な顔で話しかけてくる。


「うん、なんだろうな」

「何か感じます?」

「いや、明確な何かじゃないんだけど」

「え?そうなんですか。ちょっと待ってください」


 武田は目を閉じて深呼吸した。


「何も、あ、えっと」

「感じる?漠然と」

「全然はっきりしないですけど、なんかぼんやりと。なんだか薄気味悪いですね、この感覚」


 そうなのだ。瘴気を思い切り薄くして空気中に流しているような感覚。


 そのはっきりしないところが気味の悪さを増幅する。


「あ、あの、すいません、先輩」

「ん?」

「腕、掴んでもいいですか?」

「あ、ああ」


 少し怯えた顔で武田が私の腕を掴んだ。心臓が早鐘を打つが、それを表情に出さないようにして、平静を装った。


 まるで純情高校生のような自分に少しあきれてしまう。


「あ、薄まって来てませんか?」

「だな」


 気付けばその変な雰囲気が消えてしまった。


「ありがとうございました」


 そう言って武田が手を離した。


 なんだかもったいない。






 帰宅した旦那さんは特に問題なし。


 しかし少し遅れて帰宅した娘さんは問題ありに思えた。


 目の下のクマはあきらかに体調がよくないことを示している。


「まずはお部屋を拝見出来ますか?」


 娘、忍立おしたつ亜世あよさんに願い出ると、彼女は頷いて我々を部屋に案内してくれた。


 6畳はあろうかと言う広さの部屋にはベッドやドレッサーが置かれて、いかにも独身女性らしい部屋となっていた。


 ただ予想に反して特に部屋に異常はなかった。何も「見えない」し、その残滓も感じられない。


「ありがとうございました」


 そう言って部屋を出ようとすると、亜世さんが声を掛けて来た。


「あの、何かありますか?」

「いえ、特に」

「そうですか」


 私の返事を聞いて安心するのではなく、目を伏せたことが気になった。


「何か?」

「いえ、なんでもないです」


 亜世さんを置いて部屋を出ると、武田が顔を近づけて来た。


「気付きましたか?」

「何に?」

「フォトスタンドが倒されていました」

「本当か」

「ええ」


 ふむ。気付かなかったな。


 さすがに晩御飯までは遠慮して外食してから再び忍立家を訪問した。


 怪異は夜中に起きると言うことで、ご家族には眠ってもらって、私と武田が居間に待機することになっている。


 夫婦は早々に就寝して、娘の亜世さんも10時を過ぎたあたりで動く気配が消えて眠ったようだった。


「夜になると静かですね」

「まあね。車も通らないしね」


 会社のことや、取引で挨拶に寄ったことなどを話して時間を潰すがお酒があるわけでもないので、少しずつまったりしてきてしまう。


「今回のように物が動くとか音がするのって普通ポルターガイスト現象って言いますよね?」

「言うね。日本だと騒がしい霊で騒霊現象だね」

「音はラップ音って言いますよね?」

「そうだね」

「霊って音を出すんですね」

「まあ、あまり出さないかなあ」

「え?そうなんですか?」


 まだ怪異も起きていないし、雑談でもいいか。


「家が鳴ると書いて、家鳴って現象があるんだ」

「音がするってことですね?」

「そうそうこれも怪奇現象って言われる場合があるんだけど、実は家って普通に鳴るんだよ」

「え?鳴るんですか?」

「うん、まあ、音を出すってことだけど」

「どうして家が音を出すんですか?」

「だいたいが建造物が温度変化とかで軋むことで起きる」

「へえ」


 この家も木造の結構な築年数の家だから当然家鳴は起きていると思う。しかし、話を聞いた限りでは家鳴とは言えない現象が起きている。


「でも本物の霊が音を出すこともあるんですよね?」

「ああ、まれにね。話す霊もいるわけだから」

「ああ、確かに」

「でも「見えない」人はたいてい「聞こえない」はずだろう?」

「あ、そうか。じゃあ「見えない」人が聞けるラップ音は霊そのものが出している音じゃないってことに?」

「正解だよ。霊が何かを動かして出しているってことだね。それなら「見えない」「聞こえない」人にも聞けることになる」

「なるほどー」


 その瞬間ミシリと家が鳴った。


「あ、今の?」

「そうだね。こんな感じで家って音を出す場合があるんだよ」


 時計を見れば午前0時を回ったところだった。


「今夜は何も起きないのでしょうか?」

「うーん、一応毎晩起きているって言ってたから」

「先輩が来たから起きないってことは?」

「私?いやあ、上梨君みたいな人じゃない限り、そんなことはないはずだよ」


 盛り塩やらお香やら、そしてお経を唱えるやらすればありえるが、私自身の力で霊が逃げ出すようなことはない。


「あれ?」


 武田が天井を見上げた。さすがだな。


「何か来たみたいだな」


 ご夫婦を起こさないように静かに階段を上がる。手には数珠を持っているが、今のところ悪意は感じない。しかし何かが2階にいることは確かだ。


 部屋で気配が動いた。亜世さんが起きたようだ。


 軽く部屋のドアをノックする。


「亜世さん」


 ドアが開かれて亜世さんが私達を部屋に入れた。


「おっと」


 部屋の窓の近くに男が立っていた。





すいません。更新が遅くて。

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