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鬼退治 【出雲大社】




「そげなもんあったっけなあ」


 出雲の実家に久しぶりに来た俺とつゆりは歓待された。特に俺が彼女を連れて来たということで、実家の連中は大いにテンションが上がっていた。


 それがようやく一段落したところで、おれはおじさんに用件を切り出した。


 今回の島根行きを決めた際に、もし実家に昔の家系を知る手掛かりがあれば調べてくるといいと、つゆりのおばあさんに言われたのだ。


「昔のもんはだいたいこの辺に、お、これか?」


 おじさんが古い巻物のようなものを手に立ち上がった。


「見せてください」

「なしてこんなもんを」


 巻物を受け取り広げる。


 ストライクだ。


 だいぶ古く傷んでいる上に字も読みにくいが、何とか分かる。


「えっと」


 見つけた。


「上梨と、前は、神無か、やっぱり」


 おそらく明治時代の頃だろうか。改姓していたようだ。


 いや、これは?


「元々は、神無土?いや神無士か」

「そげなもん見て何がいいんだが。みりんぼだ?」

「もらっても?」

「やーわ」


 俺は巻物を巻いておじさんに頭を下げた。







 その日の晩御飯に出たシジミの味噌汁につゆりはたいそう感動していた。


 俺は懐かしい醤油の味に少し感激していた。


「見つかったの?」

「ああ、見つけた」


 俺はバッグから取り敢えずビニル袋に入れた巻物を取り出して見せた。


「見る?」

「ううん。どんな苗字だったかだけ教えて」

「おそらく明治時代に改姓したみたいだな。その前はやっぱり神無月の「かみなし」を使っていたみたいなんだけど、もしかすると武士の士の字をつけて「かみなし」だったかもしれない」

「ふうん。元々苗字のある家系だったんでしょう?」


 明治になってそれまで苗字のなかった武士以外も苗字を名乗るようになり、さらにそれからしばらくして強制的に苗字を名乗るようになったはずだ。


「ってことは武士だったのかなあ」

「いや、違うと思うな。おじいさんは農家だし、確かご先祖様も農民だったと言っていた気がする」

「ふーん。でも農民なのに前から苗字を名乗ってたってこと?」

「うーん、学校では明治になって苗字がついたって話だけど、実は江戸時代にはもう苗字を名乗っていた者が相当数いたという説もあるんだ」

「そうなんだ」

「神主だわ」

「え?」


 話を流しい聞いていたおばさんが突然言った。


「神主?」

「そうだわね。上梨のところは元は神主って言ってたわ」


 おばさんがおじさんに言うとおじさんが手をポンと叩いた。


「そげな話、あったな。神楽おどっとったと?」

「そげそげ」


 ふむ。どうやら神社の関係するご先祖だったようだ。


「ほら、やっぱりそう言う血筋だったじゃん」


 小さな声でつゆりが言った。


「あの、おじさん」

「なんだら?」

「おじさんは幽霊とか見たことありますか?」

「そげなことないがね」

「父や、あるいは祖父とかが、そう言うのを見たということは?」

「なんだらか?憑りつかれでもしたか?」

「いえ、そう言うわけでは」


 まさかつゆりと二人で幽霊退治みたいなことをしているとは言えない。


「えなげなことがあるなら、大社さんにお参りでもするがえーだが」

「分かりました。ありがとうございます」


 どうも「見える」家系では無いようだ、やっぱり。


「石見は神楽が有名ですよね?」


 今度はつゆりが質問した。


 ずいぶんと詳しいな。先日、おばあさんと話した時にも石見銀山のことを知っていたし。


 俺の視線につゆりが舌をペロッと出した。







「俺について調べた?」

「あ、違う。えーっと上梨の実家の島根ってどんなところかなーって調べたの」

「それでか」


 歓待を受けた実家を出て、俺達は翌朝から出雲大社へと向かっていた。


 昨日の寝る間に聞こうと思っていたのに、ご馳走をたくさん食べたつゆりがお風呂の前にうとうとし始めて、お風呂を上がるとそのまま爆睡してしまったのだった。


「出雲大社についても調べた?」

「うん。もちろん」


 嬉しそうに話すつゆりが愛おしい。


「出雲大社って「いずもおおやしろ」が正式名称なんでしょう?」

「ああ」

「でも地元の人もそう呼ばないんだね。大社さまって言ってた」

「まあ、そこは各家庭によると思うけど」


 その後も出雲大社について調べたことをつゆりに教えてもらいながらお参りをしてお守りも買った。


 縁結びの効果もあると言うことで、つゆりはご機嫌だった。


「出雲そばは普通だね」

「あ、うーん」


 入った蕎麦屋の出雲そばははっきり言ってあまり出雲そばではなかった。


「何か、違うの?」

「調べたと思うけど、色」

「ああ、調べた。出雲そばってそば粉を作るときに殻をむかないで殻ごと挽くんでしょ?」

「そう。「焼きぐるみ」だね」


 つゆりがそばをじっと見る。


「あんまり黒くない」

「そう言うこと」


 こんな店だから混雑しないですぐには入れたわけか。


「お土産を買って行こう。おばあちゃんにも」

「なんかこういうことがあるとすごく損した気分になるね」

「同意だよ。島根の思い出が悪くなっちゃうのは嫌だし」

「うふふ、それは大丈夫」


 結局、出雲そばを何とか完食した後、これまた出雲が発祥と呼ばれるぜんざいを食べてしまった。


 つゆりのご機嫌がさらに上向いたのは言うまでもない。





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― 新着の感想 ―
[一言] 知人の島根出身者は、一族揃って大昔から出雲大社の氏子らしく正式名称に拘るね。
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