(5/10)とどめを刺したキーホルダー事件
花沢にとどめを刺したのが『キーホルダー事件』だ。もう中原紗莉菜よ死んでくれって話だ。恋愛偏差値が低いにも程がある。
さすがの花沢もだいぶへこんできた。『どうせオレは小市民』『中原さんにとってアリ以下』『そもそも身長も釣り合わないし』と卑屈コンボ3連チャンドーン!! を繰り出し始めた。
あ、花沢光彦165センチです。中原紗莉菜が178センチなので13センチ差ね。
花沢が自分に話しかけなくなってきたのは紗莉菜だって気づいていた。今まで『昔飼っていた豆柴のように』自分にまとわりついていたのに、最近は挨拶しかしない。
『どうしよう、どうしよう』と思うがどうしようもない。それなのに朝エレベーターで一緒になってしまったのだ。
「あ、中原さん。おはよう」花沢がにっこりした。そして黙った。うわぁぁぁ。もう話しかけてもくれないー。
何か言わないとと焦って「今から仕事なの!?」と言ってしまった。
バーカ。会社をなんだと思ってるんだ。仕事以外のなんなんだ。花沢は笑ってくれた。
「仕事だよ。中原さんは?」
「しっ仕事っ」
2人でなんとなく笑ってしまった。エレベーターが中原たちの会社に着いた。一緒に降りた。
花沢が中原のバックのキーホルダーに気づいた。
「中原さん。こういうの好きなの? きれいだね」
それは中原が大好きなキャラクター物で、スパンコールでできていた。キラキラしていてお気に入りだった。
今こそこれについて熱く語るチャンスだ。
「べっ別に珍しくもないし」と言ってしまった。
思春期かよーっ!! そうじゃねぇだろーっ!! ってことだが、花沢は「そんなことないよ。珍しいし可愛いよ」と言って去っていった。彼は社内で『花沢王子様』と言われているのだ。
恐るべき王子力。
そしてとどめだ。
お昼休みにそのキーホルダーを上条誠也が見つけたのである。
「うわっっ!! 中原なにこの可愛いの!? 似合わねえの!」と。
中原は当然上条をしばいた。
「バーカ!! お気に入りなんだよっ」と。
「もう発売日に1時間も並んで買ったんだからね!! メッチャ好きなの! アンタ知らないのこれ……」と言いかけて通りかかった花沢と目が合ってしまったのだ。
しまった!!!!
花沢にはあんなに素っ気なくしたのに上条にはメッチャ語り出してんじゃん!!!
花沢はガラスのような目をしていた。なんの感情もない目だ。そして視線をそらしどこかに行ってしまった。
中原紗莉菜は最後のチャンスを潰したのだった。
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言い訳もできない。
なぜなら花沢とはなんでもないからだった。恋人でもないし。友達でもないし。単なる同期なのだった。まぁほぼ他人だ。
紗莉菜は今までの自分を本当に反省した。大人だけれど、恋愛面では小学校3年以下だ。まだ自分はサッカーして走り回ってた『ポール』のままだ。
アタシ一回も自分から話しかけたことなかったじゃん。
古典女になりたい。あの古典女になりたい今すぐなりたい。紗莉菜は泣いた。
【次回】まさかのお礼




