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彼女の恋心  作者: 江古左だり


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3/10

(3/10)死ねっ!古典女!!

 入社して1年は花沢を『見ているだけ』だった。

 もうとっくに好きになっていたが緊張するので話かけられないし、というか花沢から話かけられても「うん」「別に」「大丈夫」というような単語しか返せない。


 まるで自分が小学校3年の『ポール』に戻ったみたいだった。

 あの頃はサッカーボールがあれば言葉はいらなかったのだ。


 しかし。

 他の女子は違う。もう『化物みたいに女』な奴らが花沢光彦を狙っていた。特に有橋美琴だ。


 美琴は『2週間に1回は美容院に行く』『持ってるバッグが全て最新の物』とウワサの女であった。

 縦ロール。化粧は『ナチュラルメイクを装った死ぬほど作り込んだメイク』で服はフェミニンなピンクとかであった。


 もちろん喋り方は「えーっウッソー」である。

 紗莉菜はいつも『ウソもホントもあるかいっ』と心の中で突っ込んでしまう。


 その女が同期会で動いたのだ。


 いつも使っている『和風な居酒屋』であった。同期(本社のみ)は23名もいるので広々とした個室で飲める。他の客も気にしなくていい。


 1時間くらいたって美琴がトロンとした目で花沢に寄り掛かろうとしたのだ。


「花沢くーん! あたし酔っちゃったー」


 なにーーーっ!!! もう平成も終わったというのにっ!クッソ古典的な手段使いやがって!!! この『古典女』がっ!!!


 紗莉菜は怒った。心の中で。


 間一髪のところで花沢が『スッ』と立った。美琴がよろけて右ひじをついた。


『うわぁぁぁぁ!!』と喜びが駆け回る。


 美琴! アイツ花沢に避けられやがった!!


 花沢がコップに水を入れて戻ってきた。


「有橋さん。大丈夫?お水飲んで」と抱き起こしてやる。ほんといつでもどこでも親切なやつだ。


「花沢くーん。やっさしーい♡」


 うっわぁ。今ぜっったい語尾にハートマークつけやがったぞあの古典女。花沢が水を飲み終わるのを見ている。


「有橋さん。少しね。そこで横になった方がいいよ?上着どこかな。かけてあげるよ」


「花沢くんの上着がいいーっ」


 あんのっっっっ。クッソ古典女!!!!!


 思わず小声で「死ねっ」と言ってしまう。


 花沢が少し困った顔をした「オレの上着なんて……」それから壁にかかっている上着を1枚取った。格子柄の白黒のやつだ。


「これじゃないかな? 有橋さんいつもお洒落な服着てるよね」


「それそれー♡」と美琴が甘える。花沢が横になる彼女のスカートの裾辺りに『ふわっ』と上着を掛けた。

「花沢くん!そばにいてよー♡」と美琴がさらに甘えた。


 ところがである。


 もう花沢はいなかった。


 周りを見渡すとはるか向こうに花沢が行ってしまっている。美琴がポツンとお座敷の隅に取り残されていた。


 美琴からすれば『花沢くんが心配して』『水を飲ませてくれた上に』『優しく上着を掛けてくれた』思い出にしかならないだろう。


 周りの人間も『花沢あいつ優しいなーっ酔っ払いなんてほっときゃいいのに』という思いしかないだろう。


 一部始終見ていた自分だけが気づいたのだ。


 花沢が『あの古典女』を袖にしたことに!!!


 勝ったーーーー!!!!


 紗莉菜は心の中でガッツポーズをした。

【次回】古典女になりたい


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