(10/10)彼女の恋心
ミツヒコの手が止まった。視線はゲームに向けたままだ。
「ケッコン?」と言ってから『ふふっ』と笑った。
「だってさー。結婚したらさー。毎日こうやって一緒に帰って来れるじゃん? なんならさー。明日にでも役所に届け出してこようよ」
ミツヒコが『ふふっ』と笑った。
「証人はどうするの?」
「ショウニンって?」
「役所に婚姻届を出すときはね。『認めますよ』という意味で2人の人に住所と名前を書いてもらうんだよ」
「そんなの道端にいる人とかに頼めばいいじゃーん」
「そういう考え方は感心しない」
ミツヒコがゲーム機を掛け布団の上に置いた。
「結婚というのは、周りの人にきちんと認めてもらってするものだよ。どうしても認めてもらえないときは『駆け落ち』することもあるけど、そんなのは最後の手段なんだよ。衝動的に婚姻届を出すとかそういう考えはよくないよ」
「みっちゃんはさー。いっつも『正論』だよね。『正論』『正論』でさー。たまにはパッションで突っ走ってもいいじゃん!!」
「そんな『ラブコメ映画』みたいな」
ミツヒコが紗莉菜の体を敷布団の上から『トントン』してくれた。
「もう。随分酔ってるよ? 今日はおやすみ」といってまたゲームをやりだした。
翌朝になってもミツヒコは昨日の話題については何も答えてくれなかった。翌日もその翌日も答えてはくれなかった。
紗莉菜も『プロポーズの返事はどうなったの?』とは聞かなかった。そんなことを言ったら『重い女』と思われて逃げられてしまうかもしれない。
ニッチもサッチも行かない。小学校3年の自分なら、なんの躊躇もなく『あの返事はー?』と聞けたかもしれない。
でももうあの頃の自分ではない。目の前の男の人は単なる『ダチ』ではない。
彼女は、恋をしたのだった。
(終)
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【次回作】はシリーズ最終話『中原さんと花沢くんの結婚』
中原さんと花沢くんお付き合い3年目の話です。
【あらすじ】
中原紗莉菜は会社に勤めて丸4年。178センチの高身長。勇猛果敢、猪突猛進。前しか見ない左右は見ない当然後ろは見ないそんな女。
彼氏の花沢光彦は165センチ。地獄のように気が利いて常に100手先を読む棋士のような男。
中原さんは結婚したいけど、花沢くんは考えることがいっぱい。そもそもこの令和の時代。男も女も自立してるのに『結婚』する理由ってなんですか?
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