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「サクラちゃん!それ2番テーブルじゃ無くて8番テーブルだよ!」

「え?あ!ご、ごめんなさい!」


私は最近仕事でミスする事が多くなっている。何とか考えないようにしても、ふとした時にカイルのあの言葉が頭を過って集中出来ないのだ。

それに、あれからカイルも何故かパッタリと来なくなったので余計に気になってしまう。


・・・て!来ないなら来ないで良いじゃないの!これで気兼ねなく進行状況を確認しに行けるんだから!!


そう自分に言い聞かせているのだが、どうしてもカイルの事が気になっていつ来るか分からないから宿屋から出ることが出来ないでいるのだ。


「サクラちゃん最近どうしたの?」


昼のピークが過ぎ客の居なくなった店内で、私がぼんやりと食堂の窓から外を眺めていると女将さんが声をかけてきた。


「あ、いえ。何でも無いです。ミスばかりしてすみません」

「まあ、大きなミスはしてないから大丈夫だけどね。でも元気が無いようだけど何処か体の具合が悪いの?最近この時間になっても出掛けて無いからさ」

「体調は悪く無いです・・・」

「そうなのかい?でも元気は無いようだね・・・もう今日の夜は働かなくて良いからこのまま休みな」

「そんな!悪いです、大丈夫働けますよ!」

「良いから休みなさい!」

「・・・はい。ありがとうございます」


せっかくの女将さんの気遣いに申し訳無く思いながら、無理して迷惑かけるわけにもいかないと思い言葉に甘えて休む事にして自室に向かった。

その時入口の扉が開きそこから一人の身なりの良い男の人が入ってくる。


「突然すみません。ここにサクラと言う名の女性はみえますか?」

「え?私?」

「ああ、貴女がサクラ様ですか。確かに見事な黒髪に黒い瞳間違いないですね」

「様!?」

「申し遅れました。私カイル王子の侍従でロイと申します」

「カイルの!?」


思いがけない人の名前が出たことに驚く。


「カイル王子を呼び捨てにされるとは、やはり噂通り仲がよろしい様ですね」

「私とカイルが仲が良い?何その噂?」

「今街中で噂になってますよ?毎日のように二人で仲良く街に出掛けられていると」

「ああ、その噂ならあたしもお客さんから聞いてるよ」

「女将さん!?」

「わざわざ王子様がこの店まで迎えに来てるんだ、仲が良いと言う噂を聞いてあたしは安心してたんだよ」


まさかあのカイルの暇潰しに連れ回されていた事が、周りからそんな風に見られていたとは思わなかった。


「で、その王子様の侍従様がこの子に何の用なんですか?」


私が驚きで絶句している様子を見かねて女将さんが代わりに聞いてくれる。


「そう言えばまだ本題をお伝えしていなかったですね。カイル王子がサクラ様をお城にご招待されたいそうです」

「お、お城に!?」

「まあ!それは凄い!サクラちゃん、良いじゃない気分転換に行ってきなよ」

「そんな女将さん!それにお城に着ていく様な服は持って無いんですよ?」

「それなら心配及びません。王子からそのままの服で来るようにと伝言を承っています」

「だけど・・・」

「外に馬車を停めてありますのでどうぞそのまま」

「ほらほら!せっかくのお誘いなんだから行ってきなさい」


渋ってる私の背中を女将さんが押して外に追いやられる。

外には確かに立派な馬車が停まっていて、いつのまにか先回りしていたロイさんが馬車の扉を開けて待っていたのだ。

私は観念して差し出されたロイさんの手を借り馬車に乗り込む。扉が閉まるとロイさんは御者の隣に座りゆっくりと馬車が動き出す。

座り心地の良い座席に座りながら、とりあえずカイルに会ったら色々文句を言ってやる事にしようと思ったのだった。



────お城のある場所。


・・・・何で私こんな事になってるのーーーー!?


数時間前、お城に着いた私はすぐにカイルと会えると思っていたのに、連れていかれた先はお風呂場。全く状況が飲み込めないままの私を無視して、何処から現れたのか数人の侍女さんにあっという間に服を脱がされお風呂に入れられて、全身綺麗に洗われてしまったのだ。

そしてお風呂から上がったら丁寧に体や髪を拭かれ、ある程度乾いたら別室に案内された。そこでも侍女さん達にあっという間に綺麗なドレスを着せられ宝飾品も付けられて、さらに綺麗にお化粧もされて髪を美しく結われたのだ。

侍女さん達は私の姿を見てほぅ~とため息を溢し、とても美しいです!と誉めてくれた。確かに鏡に映った自分の姿を見て、本当にここに映ってるのが自分なのか疑った程だから。

ちなみに、着ていた服のポケットに入れていたノートは何とかお願いして持ってきて貰い、とりあえず腿に着けているガーターベルトに落ちないように挟んでおいた。

まあ、一応お城で王子と会うんだから身なりを整えろと言うことなんだと思い、初めて着たドレスにちょっとテンションが上がっていたらロイさんが部屋にきて私の姿を誉めつつある場所に案内される。

今度こそカイルと会えると思っていたら、何故か案内された場所は沢山のきらびやかな貴族が集まっている広い舞踏会場。

私が呆気に取られていると、ロイさんが笑顔でもう少ししたらカイル王子も入場しますのでと言い残し会場から出ていってしまった。


本当に何でこんな事に・・・。


あまりの場違いな状態に泣きたくなる気持ちを堪え、壁の方に避難してひっそりと隠れている事に。

そして隠れた事で少し気持ちが落ち着いてきたので周りの様子を伺う。

するとそこにずっと見たかったカップルの姿が!

ドレスに身を包んで綺麗になったアイラと礼服姿のシルバが一緒に踊っていたのだ。


ま、まさかこの場面は!!小説の中で一番お気に入りの箇所じゃないか!!

シルバに誘われてお城で開かれる舞踏会に参加したアイラがシルバのエスコートで夢のような時間を過ごす場面。特に踊ってる所が書いてて楽しかったのだが、城での話だったから見れないと諦めていたがまさかリアルで見ることが出来るだなんて!今回ばかりはカイルに感謝するよ!ありがとう!


私はまるで一枚の絵画のように美しい二人の姿にうっとりと見とれていた。

その時入口に立っていた男の人がカイルの入場を知らせる。

すると一斉にみんな入口に向かい頭を下げたので私も周りに見習って頭を下げた。

扉が開く音がしてその後靴音が辺りに響く。衣擦れの音からみんな頭を上げたのだと理解し私も頭を上げる。

そして私はカイルの姿を見て目が釘付けになった。いつもの王子の服も確かに似合っていたが、正装姿はさらに凄く似合っている。こうして見ると本当にカイルは美形なんだと実感した。

カイルが現れた事で、一斉にカイルの元に貴族が集り挨拶をしだす。その中には綺麗な女性達も。カイルは私に見せたことのない紳士な笑顔で女性達と接していた。

何故かその姿が面白く無く見ていたくなくて、クルリと後ろを向いて近くのテーブルに置いてあったシャンパンの入ったグラスを取り一口飲んだ。


あ、これ美味しい!


私はムカムカする気持ちを忘れるためシャンパンを飲み干す。その時後ろから声をかけられた。

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