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カイル・ラズ・ミネルバ⑥

俺はダグラス王からの要求に返答を返さず密かにサクラ達が捕らえられている所を探させた。

数日後、ミネルバ国とシュバイン国の国境付近にある森に隠れて建ててある屋敷にサクラ達が捕らわれている事が分かったのだ。

早速救出部隊を組みダグラス王側に知られないよう身を隠しながらその屋敷に向かった。



数刻後、俺達は屋敷を望める位置の森の中に身を潜めている。

するとそこへ先に屋敷へ潜入させていた者が現れた。

その者から屋敷の間取図と兵士の配置場所を聞く。どうやらサクラ達が捕らわれているのは三階の一番端の部屋。ただそこまで行くには警備が厳重で簡単に近付けないらしい。

そこで俺は屋敷から少し離れて建っている建物に目をつけた。

俺は一部の騎士にその建物へ爆薬を仕掛けるよう指示を出す。

そうして暫く経った頃、爆発音が鳴り響き兵士達が慌ただしくなる。そして兵士達が爆発の現場に向かっているのが見えた。

俺は手薄になった裏口からシルバ達を引き連れそっと中に潜入しサクラ達のいる部屋に向かったのだ。


部屋の前にはまだ数人の兵士が警護していたが隙をついて全員倒し部屋の中に入った。

部屋の中では椅子に座ったアイラ嬢が驚いた顔でこちらを見ている。するとシルバがアイラ嬢に駆け寄りその身を抱き締めたのだ。アイラ嬢は一瞬何が起こったのか分からない顔をしていたがすぐに理解し涙を流しながらシルバに抱きついていた。

その様子を横目に見ながらサクラの姿を探す。しかしどれだけ探してもサクラがいなかったのだ。

俺はアイラ嬢にサクラの事を尋ねると、表情を曇らせ今ダグラス王の私室に行っていると言われた。それも私室に行ってから随分時間が経っているとも。どうやらアイラ嬢の話では、ダグラス王はこの屋敷にサクラを連れてきてから頻繁にサクラを呼び出していたようだ。アイラ嬢がサクラから聞いた話では何故か毎回サクラ自身の話をさせられていると不思議がっていたらしい。

俺はその話を聞きそしてダグラス王の私室に行ったまま帰って来ない事に凄く嫌な予感がした。

すぐさま部屋を飛び出し同じ階にあるダグラス王の私室に向かう。

ダグラス王の私室の前には複数の兵士が警護していたが、それに怯むことなく剣を抜き全員を片付けた。

そして飛び込むように部屋に入りサクラの姿を探すがここにもサクラの姿が見当たらない。

もしやまた何処かに連れていかれたのではと焦り俺は一人で部屋から飛び出し屋敷の中を探し回ったのだ。


外も確認しようと入ってきた裏口に戻り扉を開け警戒するように扉から顔を出すと、近くから俺の名を驚いて呼ぶサクラの声がした。その声のした方を見ると驚いた顔で俺を見てくるサクラがそこにいたのだ。

俺は急いで扉から出てサクラに何故こんな所にいるのか聞くと、当然のように逃げてきたからと答えが帰ってきた。

しかし良く見るとサクラの格好がボロボロな事に気付き一瞬頭に嫌な想像が過る。

サクラにその格好の事を聞くと、気付いていなかったのか自身の格好を見てああと合点がいった顔になり、後ろを振り向いて三階まで伸びている大きな木を指差しあの木に飛び移って降りてきたと言ってきたのだ。

俺は唖然と木とサクラを見てそして堪えられず吹き出してしまった。


そうだった、俺が好きになった女はこう言う女だったな。


笑いを堪えながらサクラを見て無事な姿にホッと安堵し俺はサクラを強く抱き締めた。

するとサクラは俺の胸の中で涙を流し始め、そしてサクラからも背に手を回してきて抱き締め返してくれたのだ。

俺はその行為に喜びを感じつつサクラを見つめるとサクラも俺を見つめ返してきた。

俺は自然に顔を傾けサクラにキスしようとしサクラもそれに応えるように目を瞑る。

その時風を切る音が聞こえ顔の横を矢が通り過ぎて後ろの木に刺さった。俺はすぐに矢が放たれた方を見て険しい表情になる。

そこには弓を構えたまま激しく俺を睨んでくるダグラス王がいた。

腕の中にいるサクラも異変に気付きダグラス王のいる方を振り向く。そしてダグラス王を見て本人は気付いていないようだが小さく震えている事に俺は気が付いた。

そんなサクラを見た後ダグラス王を見ると、剣に持ち替えながらサクラを熱く見つめている事に気付きダグラス王のサクラに対する気持ちを知る。

俺はダグラス王からサクラを後ろに庇い剣を抜いて構えた。

ダグラス王はサクラを渡すよう要求してきたが俺が拒むと、力づくで奪うと言って兵士を引き連れ俺に向かってくる。

俺は剣を持つ手に力を込めサクラに絶対守ると誓う。

するとその時ダグラス王の後ろからシルバがこちらに駆け付けてくるのが見えた。

シルバはダグラス王達に追い付くとすぐに交戦を始め、その隙に騎士達に守られたアイラ嬢がこちらに近付いてくる。

サクラとアイラ嬢はお互いの無事を確認し合って抱き合い喜んでいた。

そんな二人を見てから護衛の騎士達に二人を必ず守るよう命じ、俺もシルバの加勢に入るため剣を構えて戦いの場に向かっていったのだ。


激しい戦闘の末シルバとダグラス王の一騎討ちとなり、そしてシルバがダグラス王の横腹を切って倒し勝負に決着がつく。

俺はホッと息を吐き剣を鞘に戻し目の前でシルバとアイラ嬢が抱き合う光景を見ていた。

そしていつの間に来たのかサクラが声を掛けてきて心配そうに俺を見てくる。

俺は大丈夫だと言いサクラに怪我が無いか確認し無事だと分かると安心して微笑んだ。

するとサクラは突然胸を押さえ顔を赤らめて俺を見つめてくる。

そして言葉を詰まらせながら俺に気持ちを伝えようとしてきたのだ。

俺はそのサクラの様子に何が言いたいのか分かったが、サクラの口からその言葉を聞きたかったので優しく続きの言葉を促した。

そうして途中で俯いてしまったサクラが、意を決した様子で顔を上げたのだが何故か驚愕の表情で固まってしまう。

そしてキョロキョロと目を泳がし明らかに動揺している。

サクラのその様子をおかしいと思いどうしたのか尋ねようとして、サクラの後ろにダグラス王が狂気を宿した目でサクラを見つめ剣を構えている事に気付く。

俺は咄嗟にサクラを引き寄せ胸の中に庇う。

その直後背中に焼けるような激しい痛みを感じそしてそのまま意識を失ったのだった。



・・・暖かい・・・なんだかサクラを凄く近くに感じる・・・それに体を優しく抱き締められているような感じもする・・・。


そんな不思議な感覚を感じながら俺はうっすら瞼を開けた。

どうも意識がハッキリしな中、ぼんやりとサクラを探して辺りを目だけで見回しているとサクラの顔が目に止まりその瞬間意識がしっかり覚醒しサクラの無事な姿に安堵して微笑んだ。

すると俺を見ていたサクラはボロボロと涙を溢しながら膝をついて俺の手を両手で握り締めてきた。


・・・暖かい。


俺はサクラを安心させる為その手を握り返し笑顔を向ける。

そして久し振りに『馬鹿女』『馬鹿王子』と笑顔で言い合ったのだった。



その後俺は馬車に乗せられ城に帰り本格的な治療を受ける。

俺の治療をしてくれた侍医は俺の傷を見てこれで生きているのは奇跡ですと言ってきた。

そして治療を受けた後絶対安静を言い渡され仕方がなくベッドで寝ているのだが、サクラが付きっきりで看病してくれたので毎日楽しかったのだ。

ちなみにあの後ダグラス王はその場から姿を消しており、俺は密偵にシュバイン国を調べさせたところどうやら生き延びて自国に帰っていると報告を受ける。

俺はシュバイン国との国境警備を強化しシュバイン国の動向を警戒するよう指示を出しておいた。



怪我を治療してから一ヶ月程経ち、俺は歩けるまでに回復した体でサクラと中庭を散歩している。

そして少し休憩を取るため東屋のベンチに二人で腰掛けた。

サクラはまだ俺を心配してきたが、そろそろ俺はこの情けない姿をサクラに見せたく無くてサクラに大丈夫だとムキになって言い、結局不思議そうに見てきたサクラに照れて顔を背けたのだ。

しかしすぐにあることを思い出しニヤリと笑いサクラを見た。

俺はサクラにあの時の告白の続きを促したのだ。

サクラはすぐに何を言われているのか気付き顔を真っ赤に染める。その姿が可愛くてニヤニヤしながらサクラの腰に腕を回しグッと強く引き寄せた。

胸に抱き寄せるとサクラの体温が上がっていくのが分かる。

俺はサクラの口から聞きたいと真剣な表情で見つめると、サクラも決心がついたのか頬を染めながら真剣な表情で俺の事を『好き』だと『大好き』だと言ってくれたのだ。

俺はその聞きたかった言葉に心からの笑顔が溢れ堪らずサクラの唇を激しく奪った。

暫くサクラの唇を堪能してから顔を少し離しサクラに俺も好きだと告げ、真っ赤になるサクラを愛しいと思いながらさらに愛しているから俺の妃になって欲しいと願う。

すると照れながら微笑み『はい』と返事を返してくれた。

俺は堪らず再びサクラの唇を塞ぎサクラもそれに応えてくれる。

そしてサクラに絶対幸せにすると誓うとサクラも俺を幸せにすると言ってくれお互い幸せに笑い合った。



半年後、城に隣接する教会で白いドレスに身を包み美しく着飾ったサクラと国中に祝福されながら結婚式を上げたのだった。

カイル編はここで終わりです。・・・予想外にカイル編長くなってしまった。次にシルバとアイラの心情で最後です。どうぞよろしくお願い致します。

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