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カイル・ラズ・ミネルバ③

12時に1話更新しているのでまだ見ていない方はひとつ前からどうぞ。

俺はここ数日サクラに会いに行けないでいる。

あの『可愛いな』発言をしたせいでどうもサクラと顔を合わせ辛いのだ。

俺はサクラから奪ったハンカチをポケットから取り出し見つめる。すると脳裏にあの時のサクラの笑顔が現れ俺の鼓動を早くするのだ。


・・・俺は一体どうしたのだ?


自分の不可解な現象に頭を悩ませているとすぐ近くで咳払いが聞こえた。

横を向くと侍従のロイが手に沢山の書類を持って立っている。その近くにはシルバの姿も。二人とも怪訝な表情で俺を見てくる。

しかしロイはすぐに気を取り直しドサッと俺の執務机に持っていた書類を乗せてきた。

それをうんざりしながら見ていたのだが、俺が手に持っている女物のハンカチにシルバが気付きどうしたのかと聞いてくる。

俺は言うのを少し躊躇ったが、一人で悩んでいてもどうにもならないと思いこのハンカチを手に入れた経緯をだいぶ端折って説明した。

俺の話を黙って聞いてたシルバとロイだったが、ロイがそのハンカチで拭いて貰った事とハンカチを貰ったお礼はしたのかと聞いてきたのでそこで初めてお礼を言ってなかった事に気が付く。

だがあれから数日たってしまい今更お礼を言いに行き辛いと言うと、今度はシルバからそれならお礼にその方が喜ぶ事をしてあげれば良いのでは?と言われなるほどなと思った。

そしてサクラが喜ぶ事はと真剣に考え始め、ふとサクラを舞踏会に招待するのはどうかと思い付く。

二人に話すと女性は華やかな舞踏会に憧れを抱くものなので、王子らしいお礼でとても良いのではと同意を得られたのだ。

ならばとロイに舞踏会の準備を命じ、ロイは早速準備する為執務室から出ていこうとしたのだが、俺はサクラには招待状は送るなと言っておいた。ロイが不思議そうに見てきたのでいきなり当日に招待して驚かす為だと言って納得させる。

ロイが去った後、俺は舞踏会当日の事を考え楽しくなった。最初は驚くだろうがきっとまたあの笑顔を見せてくれると期待しているのだ。

ニマニマしながら置かれた書類に手をつけ始めると、シルバがその舞踏会に知合いの女性を招待しても良いか確認してきたので好きにしろと答えた。



────舞踏会当日。


ロイからサクラは既に舞踏会場にいると教えられ早速会場に向かった。

ロイの話ではやはり突然の事で凄く驚いていたらしいが、宿屋の店主の後押しもあってなんとか城に来てくれこちらが用意しておいたドレスに身を包んでくれたらしい。その姿はとても美しく鏡に映ったドレス姿を自分で見て戸惑いつつも喜んでいたとか。

予想通りの反応に満足しながら俺は舞踏会場に足を踏み入れた。


会場に入るとすぐに貴族の男共や令嬢達が俺の回りに集まってくる。俺はとりあえず無難な対応でそれらを躱しつつサクラを探した。

すると壁際にいる黒髪を見つけ、ダンスへ誘って欲しそうに俺にすり寄ってくる令嬢を無視してそちらに足を進める。

近付いて行くとサクラは三人の貴族の男達に囲まれていた。

さらに近付くと男達の声が聞こえ、どうやら其々がサクラをダンスに誘っているらしくそれで揉めているようだ。

その状況に何故か俺は段々ムカムカしだし険しい表情のまま男達に近づく。そして男達を冷めた眼差しで見下ろし他を誘えと追い払った。

男達がいなくなった事で安堵しサクラを見るが、俺はサクラの姿をここで初めてしっかり見て目を見開いて固まってしまったのだ。


こ、これは本当にサクラなのか!?


想像以上に綺麗で可憐な姿となっていた事で俺の思考が停止してしまう。

サクラが不思議そうに声を掛けてきた事でハッとし、今の俺の顔を見られたくないと顔を横に背ける。何故なら顔が赤くなっている自覚があったからだ。

そしてチラリと目だけでサクラを見ると不思議そうに小首を傾げて見上げてきていた。


・・・っ!何だその仕草は!!


俺は激しく動揺していたので、サクラのその姿に思わず綺麗だと言ってしまう。

するとそれを聞いたサクラが見る見る顔を真っ赤に染めだしたのだ。

二人して顔が赤いと言い合い睨み合っていたのだが、そのうちどちらからともなく笑い出す。

そうして笑った事で何だか意識し過ぎていた自分が馬鹿らしくなり、結局いつもの感じでサクラと話が出来るようになった。

そしてサクラは何故この舞踏会に招待されたのか聞いて来たのであのハンカチの礼だと答えると、驚き呆れたように俺を見ていたがすぐに笑顔でお礼を言ってきたのだ。


やっとサクラの笑顔が見れた!どうやら舞踏会に招待したのは正解だったようだ。


そう思い今後も招待してやると言ったのにそれは断ってきた。

俺はその答えに納得出来なかったのだが、突然サクラが表情を曇らせ俺に他の令嬢の下に行くよう勧めてきたのだ。

チラリとサクラの視線の先にいる令嬢を見るが、すぐに視線をサクラに戻し行くつもりは無いと告げる。

それにサクラから離れると、またさっきみたいな男共がサクラに近寄ってくるかと思うと何故か我慢ならないのだ。

その時丁度ダンスの曲が流れ出した事に気付き、俺はサクラをダンスに誘い返事も聞かずにその手を取って踊りの輪に向かって歩き出す。しかし今回サクラは激しく拒んできた。

サクラの話では今まで軽くワルツを習っただけだから踊ることが出来ないと言う。

俺はその言葉を聞いて暫く考え、そしてちょっとでもワルツが踊れるのであれば後は俺がリードすれば問題無いと結論付けて嫌がるサクラを無視して輪の中心に向かった。


中心に着くとサクラの体と密着しダンスの体勢を取る。

するとサクラは俯き体を強張らせた。少し見える耳は真っ赤になっている。

その姿が初々しいと感じながらほくそ笑み、そしてサクラを勢いよくリードしながら踊り始めた。

しかし暫く踊っていても一向に顔を上げようとしない。よく見るとサクラが足を踏まないよう必死に足元を見ている事に気付く。

俺はそれでは上手く踊れない事を伝え、サクラの腰に回していた腕に力を込めてさらに引き寄せた。

するとそれに驚いたサクラが顔を上げ俺を見上げてくる。

漸く顔が見れた事で楽しくなりサクラの綺麗な黒い瞳を見つめながら踊り続けた。

サクラは体の力が抜けたのか俺を見ながら最初よりもスムーズに踊れるようになっていたのだ。


暫く踊っていると楽しそうに踊るサクラの様子が変な事に気付く。

そして含み笑いを漏らし出したので踊りながら声を掛けてみると、間延びした話し方をしてきた事でこれは酔っているのではと思い至った。

サクラにそれを聞いてみると本人は酔ってないと言い張っているが、どうやらシャンパンをグラス一杯飲んでいたらしい。

やはり酔っていると判断し丁度曲も終わった事で俺はサクラを少し休ませようと思ったのだが、俺から離れたサクラが膝から崩れ落ちそうになったのを見て咄嗟に支えた。

サクラを見るとどんどん顔色が悪くなり額に冷や汗をかき始めている。

そして視界が回ると言いながらそのまま意識を失ってしまった。

俺は焦りながらサクラの名を呼ぶが一向に意識が戻る様子も無かった為、サクラを横抱きに抱え上げ舞踏会場をすぐさま出ていき城にある客室に駆け込んだ。


客室にあるベッドにサクラを優しく寝かしすぐに侍医を呼ぶ。

呼ばれた侍医はサクラを診て、お酒を飲んで急激に動いた事が原因だったようだがただ酔っ払っただけで他には特に問題は無いと診断を下す。

そして一晩安静にして寝れば大丈夫だろうと。ただ、明日起きたら頭痛が酷い可能性があるらしく薬を処方して出ていった。

俺はベッドで眠るサクラの髪を漉きながら問題無いことにホッと息を吐く。

その後侍女に看病を任し俺はサクラの眠る客室を後にしたのだった。

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