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カイル・ラズ・ミネルバ①

12時に1話更新しているのでまだ見ていない方はひとつ前からどうぞ。

俺の名はカイル・ラズ・ミネルバ。年は23歳だ。

このミネルバ国の王子である。俺以外に兄弟はいないが幼馴染みで同い年のシルバと言う名の騎士団長を務めている男が昔から側にいる。



俺は街に視察に行った時変な女を見掛けた。

街の者が皆俺に頭を下げているのに、一人だけ馬鹿面で突っ立って俺をじっと見てきたのだ。

女は今まで見たこともない黒髪に黒い瞳が印象に残る容姿だったが、近くにいた女に促されたのかすぐに頭を下げてきた。俺はそれを見て結局他の女と同じなのかと興味を無くしたのだ。


それから数日が経ち俺はシルバに用があって騎士用の寄宿舎に来ていた。

そこで物陰から何かを見ている女がいることに気付き怪しみながら声を掛ける。しかし、女は俺の声に全く気が付かないのかこちらを見ない。段々腹が立ってきたので思わず女の束ねた髪を掴んで引っ張った。

女は痛がりながらやっとこっちを見たのだ。

俺は女の顔を見て何処かで見たことがあるような気がして考え込み、そしてあの時の馬鹿面で俺を見てきた女だった事に気が付いたのだった。

馬鹿面で俺を見てきた女だったから『馬鹿女』と呼んでやったら、あろうことかこの女はこの俺を『馬鹿王子』と呼んできたのだ。

女は俺を王子と知っているのに敬おうとはせず、同等な立場の口調で『馬鹿王子』を連呼してきたので思わず俺もムキになって言い返してしまった。本来俺は女に対してこんな態度を示した事は無かったのに、何故かこの女に対しては最初っから紳士的な対応が出来なかったのである。それを心の中で不思議に思っていながらも態度を改めることが出来ないでいた。

そのうち女は俺を無視しだし、丁度近くに目的のシルバを発見した事で俺はムカムカしながらも女に捨て台詞を吐いてシルバに近付いたのだ。

だがその途中で何故か石に躓き派手にその場で転んでしまった。

俺はこの年で転ぶなど恥ずかし過ぎると思ったのだが、ふとあの女が見ているのではと思い女の方を振り向くと案の定口を手で押さえて笑っているのが見えたのだ。俺が真っ赤な顔をしながら睨み付けるが、女は気にした様子もなく笑いながらその場を去っていってしまった。

その場で屈辱に震えていた俺に気付いたシルバが、俺を助け起こしに来るまでずっと女が消えた方を睨み付けていたのである。



俺は城に帰った後すぐ部下にあの女の事を探させ、数日後漸く見つかったと報告を受けすぐさま女のいる宿屋に一人で乗り込んでいたのだった。

女は突然現れた俺に驚いていたが、すぐ我に返り店の奥に逃げ込もうとしていたので女の腕を掴んで引き留める。

結局諦めた女は俺に対しての口調はそのままで話だし、あろうことか人が沢山いる所で俺の醜態を口にしようとしていたので急いでその口を手で塞いだ。

そして店の奥から出てきた店主の女にこの女を連れていく事を伝え無理矢理店から連れ出したのである。


人気の無い所まで暫く腕を引いて歩いていたが、女が痛いと言ったので腕を離して立ち止まった。

確かに女の腕は赤くなっていた。少し力を入れすぎたかと罪悪感を感じたが、女が俺に女性には優しくしないと嫌われると説教をしてきたのでムッとなって基本的に女性には紳士的に接してきていると言い返してしまう。

女は俺の言葉にさらに怒りを露わにして何故自分には紳士的では無いのかと聞いてきた。


・・・やはり何故俺はこの女に紳士的な態度で接する事が出来ないのだ?


そう疑問に思いながらも口から出る言葉は女を馬鹿にする言葉だった。

結局喧嘩腰で言い合いをする羽目になり、そのうち女の名前が『サクラ』と言う名前だと言うことを知る。


サクラ・・・ここら辺では聞かない変わった名前だな。


とりあえず俺の事を『馬鹿王子』と呼ばない条件で女をサクラと呼んでやる事にしたのだが、サクラは代わりに俺を『カイル』と呼び捨てで呼んできたのだ。

俺を呼び捨てで呼ぶのは父上と母上の二人だけだったので、さすがにこんな堂々と俺を呼び捨てにする者は初めて見た。

俺が呼び捨てを渋ると『馬鹿王子』と呼ぶと言われ渋々許してやる。しかし、心の中では少しそれが嬉しいと思っている自分がいて困惑していたのだ。

サクラは俺が護衛も付けずに出歩いている事に疑問を持ったようだが、俺が強い事を教えてやると何故か呆れた顔で俺を見てきたのでその表情に納得がいかなかった。

そこでふとサクラがここら辺で見たことの無い髪と瞳の色をしている事に今更ながら疑問に思い、何処から来たのか尋ねたら凄く遠い東にある小さな『ニホン』と言う国から来たと答える。

だが俺はそんな国聞いたことが無いと答えると殆ど誰にも知れてていない国だからと言った。

そんな国から何しに来たのかと聞くと『旅行』と答えたのだがそこで疑問が沸く。

何故旅行者なのに宿屋で働いているのかと問い質せば、言い辛そうにしながらこの国で引ったくりに合い無一文になった事を告白する。

まさか自分の国でそんな犯罪が起こっていたとは驚き、城に帰ったら街の警備を強化するよう伝えようと思たのだった。

そして段々この女が哀れに思えてきたのだ。小さな国からわざわざ旅行に出てきて着いた国で引ったくりに合うなどと。

その時俺は閃いた。せっかくこの国に来たのだからこの国を観光させてやろうと。それもこの国の王子である俺自ら案内してやれば喜ぶだろうと思ったのだ。

俺はこの考えがとても良いものだと思い、遠慮するサクラを無視して腕を再び掴み街を歩き出したのである。

一応この時最初に掴んだ程強く掴まないよう気を付けておいた。



その後色んな所をサクラに案内してやったのだが、案内を始めた時間が遅かった事ですぐに辺りが暗くなってしまう。

そしてサクラは食堂の手伝いがあるから帰ると言い出したので、俺は納得出来ないながらも渋々サクラを宿屋まで送り届けたのだが、帰り際に明日も案内してやると約束を無理矢理取り付けて機嫌良く城に帰っていったのである。



次の日いつもより早く目覚めた俺はすぐに身支度を整え、すぐさまサクラのいる宿屋に向かった。

宿屋の一階にある食堂に入ると、朝の準備をしていた店主の女が俺に驚いて頭を下げてきたがそれを制し今日もサクラを連れ出す許可を先に取っておいた。

暫くそこで待っていると二階に続く階段からサクラが浮かない顔で降りて来る。そして俺に気付き頭を抱えて唸り出したのだ。


何だ?頭でも痛いのか?ならば今日は良く効くと評判の薬屋にでも案内してやろう。


そう思いまだ頭を抱えるサクラを連れて街に繰り出したのである。

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