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リベンジ・誕生日プレゼント

『彼女の笑顔が見たい誕生日』のその後の小話的なものです。

完全にコメディー。

 それはティアラの誕生日から三日経った朝のことだった。


「姫様」

「なぁに? アレク」

「オレ、気付きました。オレが誕生日に差し上げたあの下着は、普段使いには向いていない、ということに」


 アレクはそこで苦渋の表情を作ると、拳を握りつつティアラにそう告げる。

 ……いや、それはあげる前に気付け。どう見てもあれは紐だったろうが。


「確かにあれが活躍できそうなのはもう少し先の話よね。そもそも姫様、勝負下着の意味もわかってらっしゃらないみたいだったし」


 俺の横にいたタニヤが小声でポツリと呟く。

 ……でもまぁ、あれから毎日俺の頭の中では、ティアラはあの危ない下着を身に付けているんだけどな!


「ということで、改めてもっと実用的なプレゼントをご用意致しました。どうぞ貰ってください」

「ええっ!? 私はアレクの気持ちだけでも嬉しかったのに、そんな……」

「遠慮は無用です。これはオレが勝手にしているだけのことです」

「アレク……」


 そこでティアラの頬がほんのりと赤く染まる。

 知らない奴がこの状況を見たら、ティアラがアレクに惚れたようにしか見えないだろう。だがティアラはかなりの恥ずかしがりなだけだ。アレクに落ちたわけではない。

 いや、そう思わせてくれ……。なまじアレクの容姿がカッコイイだけに、ちょっと俺も自信がなくなってきた。


「ドゥルルルルルルル」


 突然、アレクは巻き舌を始める。いきなりどうしたんだこいつ。行動が謎すぎる。ついに壊れたのか。


「何だそれ?」

「雰囲気を盛り上げるための、自主ドラムロールだ」

「さいですか……」


 無表情のまま再び自主ドラムロールを開始したアレクは、そこで身に付けていた紺のマントを脱ぎ捨てる。続いて上着のボタンに指を掛け――。


「ちょっと待てーッ!? なぜいきなり脱ぎ始める!?」

「いや、プレゼントを(ふところ)に仕舞ったままだったものでな。オレとしたことがうっかりしていた」


 アレクが喋る度に自主ドラムロールが途切れるので、いまいち盛り上がりに欠ける気がするんだが。

 しかしどうでも良いけど、巻き舌かなり上手いなこいつ……。

 とか思っている間に、アレクは上着も脱ぎ捨てていて既に上半身は下着姿になっていた。おい、懐が消滅してんじゃねーか! どこにプレゼントを仕舞ったんだよ!?

 以前タニヤに下着を借りていただけあって、(あらわ)になったアレクの二つの膨らみはなかなかの大きさだ。だが服を着ると全くと言っていいほどそれは分からなくなる。俺が初見でこいつのことを男と勘違いはするほどに。

 ……良く考えたら着痩せしすぎじゃね? これも女体の神秘なのか……。

 アレクは相変わらずの無表情のまま、胸の谷間にするりと指を入れた。

 おい。もしかしなくてもそこに仕舞ってんのかよ。そこは懐とは言わねー! ティアラも何か言ってやれ! と彼女に視線を移すと、ティアラは顔を真っ赤にしたままアワアワしていた。突然のアレクの奇行に狼狽しているようだ。

 ……相変わらず恥ずかしがりだな。でもそこが可愛い。

 ティアラはうろたえつつも自分の胸にペタペタと手を這わせ――そしてしゅんと落ち込んだ。可愛い。心配するな。俺が揉んで大きくしてやるよ! と言ってやれないのが悔しい。


 そこでアレクの自主ドラムロールが止まった。視線を彼女に戻すと、胸の谷間からスルスルと何かを引っ張りあげているところだった。


「パンパカパーンツ!」


 おいいいっ!? 口で効果音つけやがったし! っていうか最後の『ツ』はいらねぇだろうが!?

 しかし俺のその考えは間違っていたことに気付く。

 アレクの手に握られていたのは、その言葉通り、純白のパンツだったのだ……。


「ていうか何でまた下着!?」

 

 どうしてアレクはティアラに下着をプレゼントしようとするんだ。何がそんなにこいつを下着へと駆り立てているのだ。実はお前、下着界の使者だったりするのか!?

 あとせめて包みやがれ。パンツそのままを剥き出しにして渡すな!

 と俺がツッコむより先にアレクが口を開いた。


「シンプルですが姫様に似合う可愛いデザインだと思います」


 確かに俺も可愛いと思うよ。真ん中に小さなリボンが付いていて可愛いと思うよ。風のイタズラでめくれ上がったワンピースを「ゃんっ」と言いつつ押さえているんだけどそれでも白い三角地帯が見えちゃってるティアラを俺が瞬時に想像してしまうくらいに可愛いと思うよ! でもそういう問題じゃねぇ!

 ……あ、いかん鼻血出そう。


「しかも安心してください姫様。何とこの下着……」


 アレクはそこで静かに目を閉じる。

 何だ? 実は凄い機能が備えられているのか? 無理矢理脱がされると防御壁が発動するとか? いや、それは何か嫌だな。


「綿100%なのですっ」


 閉じていた目をクワッ! と見開きながらアレクは言い切ったが、いや、それどうでもいいだろ!?

 しかしその直後、ティアラの方角からトゥンク……という恋にときめいちゃったみたいな音が!

 いやいや何かおかしいって効果音! 何でそこでときめいちゃうの!? だがティアラ相手だと俺もツッコめない!

 ティアラ、いい子だからこっちの世界へ戻っておいで! そいつらと同じ世界まで堕ちたらダメだ!


 俺は懸命にティアラに念を送る。どうやらその念が届いてくれたらしく、ティアラはちょこちょこと小走りで俺の方まで寄ってきてくれた。

 おかえりティアラ! やっぱりお前は天使!


「マティウス、鼻血出てるよ。大丈夫?」


 おおぅ……。ナンテコッタ。さっきティアラのパンチラを妄想した時のやつか。てか本人を目の前にして何考えてんだ俺。


「やっぱり下着は綿100%が安心よね。何より肌触りが落ち着くもの」


 腕を組みうんうん、と頷くタニヤ。


「そう。普段使いなら綿100%に優るものなし」

「だよねー。あ、そういえばアレク、この前また新しいブラを――」


 そのまま下着談義に花を咲かせる二人。

 もうダメだこいつら! ツッコミが追い付かねー! 早くティアラをこいつらから隔離しなければ!

 ティアラを連れてそろそろと寝室へと逃げようとしたところで――しかし俺は、ティアラの目が『二人の会話に混ざりたいの』という色をしていることに気づいてしまった。

 そう、まるで夢見る乙女のようにキラキラと――。キラキラと……。キラキラキラキラッ!






 結局俺は三人の下着談義が終わるまで、一人窓の外の景色を眺めていたのだった。

 空が青いなぁ……。

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