片思いの人に質問
連載版で使う予定のネタを散りばめたものです。連載版が始まる前に書いた物ですので、その点ご了承ください。
※『○○の質問』を対話形式で。いつもの二人。
※活報に載せる予定だったけど、短編並に長くなってしまったのでこちらで。
※『彼女の笑顔が見たい誕生日』直後くらいの時系列。
「マティウス君。ちょっとこの後いいかしら?」
「何だよ?」
今日の護衛の仕事を終え、部屋に帰ろうとしたところでタニヤが声をかけてきた。
「とりあえず後で君の部屋に行くわね」
「だから何なんだよ。それに俺は良いと言っていないわけだが」
「まーまー。それは部屋に行ってからの秘密ってことで。一言だけ言っておくと、今夜は無礼講ってところかしら」
無礼講って、もしかして酒でも飲むのか? いや、この国では酒は18から飲めるから特に問題はないわけだが。それにしても珍しい誘いだな。ていうかそれならアレクも呼んだ方が良くないか?
しかし俺のその悩みは杞憂に終わるのだった。
「……おい、何だその赤い眼鏡は。それに見たこともないような変な格好をしてやがるし」
宣言通り俺の部屋に現れたタニヤは、灰色のタイトな膝上スカートに着替え、なぜか眼鏡をかけていた。靴も踵が尖ったバランスの取りにくそうな物を履いており、手には書類らしき物を抱えている。
「これは『スーツ』という、今U国で絶賛流行中の服なのよ。何でも異世界から降ってきた英雄が着ていたとか。これを装備すると仕事ができる女になれるらしいわ。あ、ちなみにこの眼鏡は伊達眼鏡だから」
「どうでもええわ」
タニヤはそこで手に持っていた書類の一枚を取り出し、声高らかに宣言した。
「というわけで、片思いの人に突撃! 質問コーナーですっ!」
「何だそれ!?」
いきなり何だ? 質問コーナー? 面食らう俺の眼前にタニヤはペンを一本突き出すと、にこやかな顔で言葉を継げた。
「では早速1問目。あなたのお名前は?」
「どうしたんだ突然。その歳でボケたのか?」
直後、左の足の甲に鋭い痛みが!
「いだーーーッ! その尖った靴で足を踏むな!」
「私はボケてはいません。で、君の名前は?」
「マティウスだっつーの!」
「いらないことは言わず、君は淡々と私の質問に答えればいいの。わかったわね?」
「…………」
何か釈然としない。いつも突飛な行動をするこいつだが、今夜はそれ以上に酷いぞ。そもそも今夜は無礼講じゃなかったのかよ?
しかし俺が口を開く前に、タニヤがまたしても質問を口にした。
「続いて第2問。性別は?」
「俺が女に見えるのか? お前目がヤバ――」
キッと射抜くその眼光は、恐らく岩をも貫く威力。
「……何でもねーよ。男だよ」
「まぁいいわ。第3問。あなたは何歳?」
「18歳。この国では大人に分類される年齢だな」
ちなみにタニヤは俺より一つ上のはずだ。年上のくせにこの落ち着きの無さは何とかならんのか。
「マティウス君、今何考えたのかなー?」
「な、何も! ほら、次だ次。どうせまだあるんだろ!?」
「ふーん? それでは第4問。相手は何歳?」
「相手? 相手って誰だ?」
「もちろん、君の好きな人のことよ」
「いいっ!? な、何でそんなことを聞くんだよ!?」
「そりゃあ、この企画が『片思いの人に質問する』というものだからね」
勝手にそんな企画を立てんなや。こいつのペースに乗せられるのは嫌だが、後でどんな脅しをかけてくるかわからんし、この茶番に付き合うしかねーんだろうな。はぁ……。
しかしこいつは俺の想い人を知っているとはいえ、やはり改めて聞かれると恥ずかしい。だが俺に拒否権はなさそうなので渋々と答える。
「16歳……」
「つい先日大人の仲間入りをしたのよねー。あの愛らしさで大人とか反則よね?」
その意見には大いに同意だが、沈黙は金、ということで黙っておく。
「無視しないでよ。じゃあ第5問。相手のこと何て呼んでる?」
ここで名前言わすのかよ……。
「……ティアラ。許可は取ってあるからな? でないと王族を呼び捨てとかしねーよ」
「そういえば姫様のことを名前で呼んでいるのって君だけよね。……むっ。ここで私のスキル『侍女の勘』が発動! もしかして二人の間で何かあったわね?」
「な、何もねーよ! ただ名前で呼んでくれって言われただけで……」
「ふーん? へー?」
「とにかく今はそのことについては忘れろ! まだあるんだろ!?」
「もちろん、まだまだ色々な質問が目白押しよ。それじゃあそのことについては後日たっぷり聞くことにするわ。気を取り直して第6問。相手からは何て呼ばれてる?」
「マティウス」
あ。今俺の脳内でティアラの声が再生された。……彼女、声も可愛いんだよな。
「何ニヤけてるのよ。まぁ大体想像はつくけど。第7問。あなたの性格は?」
「性格? 考えたことがないから一言で表せねえな。真っ直ぐ?」
「強いて言うならいじられ系じゃないかしら?」
「……をい」
絶対零度の視線を向ける俺にビビったのか、口笛を吹いてわざとらしく誤魔化す金髪侍女。
「さ、さぁ第8問よ。相手の性格は?」
逃げやがったな……。
「控え目で恥ずかしがり屋だな。あと優しい」
そして可愛い。
「うんうん。本当に姫様って優しいわよね。第9問。相手の外見は?」
「桃色の髪に琥珀色の目。あと小さい。もう全体的に小さい」
そして可愛い。
「確かに姫様は小柄よね。君が長身だから並ぶと余計小さく見えるわ。じゃあ第10問ね。あなたと相手の関係は?」
「王女とその護衛だ……」
身の程知らずもいいとこだよな……。でも好きになってしまったんだから仕方がない。
「私は君の身分違いの恋を応援しているわよ」
「どうせ面白そうだからとか、そんな理由だろ」
「…………」
「せめて形だけでもいいから否定しやがれ!」
「それはひとまず置いといて第11問。好きになったきっかけは?
「ちょっ――。そんなことまで言わせんのかよ!?」
「言いたくなかったら別にいいわよ。代わりに私が答えてあげるから。何せ君が落ちる瞬間をバッチリ見ていたからね。あの時姫様が君の――」
「だーっ! ストップストップ! 言うよ! 自分で言うからお前は黙ってろ!」
こいつに任せたら絶対にいらん尾ビレ背ビレをくっつけるに決まってる!
「その、俺なんかを気遣ってくれたうえ、可愛い笑顔を見せられたからだよ……」
……何この羞恥プレイ。恥ずかしすぎるんだが。新手の拷問か。
「確かに姫様のあの笑顔は反則よねぇ。私も男だったら間違いなく惚れてたわ。では12問。あなたの理想のタイプは?
「性格が良い奴だな」
「ふーん……」
「な、何だよ?」
「いや君のことだから『そんなこと考えたことがねーし』とか『好きになった奴が理想のタイプだ』とか言いそうだったから、ちょっと意外だったのよ」
「普通に考えて性格最悪な奴は嫌だろ」
「まぁ確かにそうね。では13問目。その人はあなたの理想のタイプに当てはまっている?」
「がっつりと当てはまっているな」
「そうね。姫様の誰にでも優しく接する態度は私も見習いたいところね」
「本気でそう思ってんなら、まず俺に接する態度を何とかしやがれ」
俺がそう言った途端、目線を明後日の方向に飛ばす金髪侍女。
……こいつ、絶対見習う気ねーだろ。
「次、14問。その人とデートしたことある?」
「ねーよ……」
一度でいいからしてみてーな……。
「第15問。YESの人はどこに行った? NOの人はどこに行きたい?」
「城下町をブラブラとしてみてーな。あ、でも山や野原でのんびりってのもいいかもしれない。そ、そしてそのまま外で――」
※妄想の世界に浸った彼が鼻血を噴出した為、しばらくお待ち下さい。
「ここでお決まりの鼻血ありがとうございます」
いや、礼を言うな。
「ちなみに雑巾はたくさん準備してあるから遠慮はしないで」
「やけに用意がいいな……」
「何せ仕事ができるようになる『スーツ』を装備中だからね。任せてちょうだい。第16問。理想のデートは?」
「誰にも邪魔されず(強調)二人きりでいられるならぶっちゃけ何でもいいんだが」
「何よう。どうしてそんな目で私を見るのよう」
その無駄にでかい自分の胸に聞いてみやがれ。
「えっと、次は17問目ね。明日急遽デートすることになったらどこに行く?」
「えぇっ!? ど、どうしよう!? 城下町をブラブラしてみてーとか言ったけど、よく考えたらそれだけじゃダメだよな。と、とりあえずレストランとか? いや、でもあいつ王族だから毎日良い物食べてるだろうし……」
「いや、マティウス君、本当に行くわけじゃないからもっと落ち着いて――」
「てことはやっぱり海だな! 砂浜で待て~、追いついてごらんなさいアハハウフフとはしゃぎながらじゃれ合ってその後……」
※再度妄想の世界に浸った彼が鼻血を噴出した為、しばらくお待ち下さい。
「君ってスイッチ入ると凄いわよね。色々と」
「…………」
新たに手渡された雑巾で鼻を押さえつつ、俺は項垂れる。自分の頭の中だけではせめて幸せでありたいんだから、別にいいじゃねーか。
「続いて第18問。相手の好きなところは?」
「全部!」
「うわ。即答ね」
「当たり前だろ」
「19問目はその逆よ。相手の嫌いなところは?」
「ないな!」
「これも即答ね」
だって彼女の全てが可愛いし!
……っていうのは恥ずかしいからこいつには言わない。
「第20問よ。相手の体で好きな部分は?」
「か、体!? お、俺はまだ彼女の全てを見たわけでは――」
「いや、そういうんじゃなくて、印象でいいから」
「えっと、む、胸……」
何か空気がちょっと冷えた感じがするのは気のせいだろうか。
「マティウス君って基本正直よねぇ」
「いいだろ別に。あとは腰だな。細くて折れそうなのにちゃんとくびれてるところが何かそそる。あ、でもワンピースの裾から覗く太腿もいいんだよな。いやいや、細いけどぷにゅっとしてそうな二の腕も捨てがたい。小振りだけど形の良いお尻も柔らかそうでーー」
※彼が鼻血を(ry
「……君って結構えっちぃよね」
男はみんなこんなもんだろ? え? もしかしてこんなこと考えてんの俺だけなの? 違うよな?
「それじゃあ第21問目にいくわよ。思わずドキッとしちゃう相手の仕草は?
「読書の時、ページをめくる手が何か色っぽい。あと上目遣いで俺を見上げてくる時とか」
「確かに、あの上目遣いは私もちょっとドキドキしちゃう時があるわー」
「ええっ!?」
こ、こいつ実は同性もいけるタイプだったのか! 知らなかった! ま、まさかこんな身近にライバルが!?
思わず後退りする俺に、タニヤが慌てて取り繕う。
「いや、違うから。そういう意味じゃないから。小動物みたいに可愛くて思わず抱き締めたくなっちゃうのよ」
「あぁ」
なるほど、そういう意味か。良かった。それにしても同性までも虜にするティアラの可愛さは凄いな。
「では22問。告白する気ある? 」
またえらく直球な質問だなおい。
「……したら迷惑じゃねーかな……。それに拒絶された時のことを考えると怖いし」
「で、する気はあるの? ないの?」
「ねーよ」
「そうなんだ。ふーん……」
まだないけど、気持ちが押さえきれなくなってしまった時には言ってしまうかもしれない……。
「第23問。告白したことがある? そのとき何て言って告白した?」
「俺これが初恋だから、今までの人生で告白したことないんだよな」
「へぇー意外。てっきりフラれまくってきた失恋のスペシャリストかと思っていたのだけど」
「何その勝手なキャラ付け!? っつーかどうしてフラれる前提なんだよ!?」
「いや、何か君って大雑把そうだし。相手のことをあまり知りもしない内に特攻して玉砕、みたいな?」
こいつの中では俺ってそんなイメージだったのかよ……。何か納得いかねーぞ。
「24問目いくわよ。相手に言われたい言葉は?」
「だ、大好き、とか……」
うおおぉぉおぉおおおッ! 想像したら嬉しいけど恥ずかしい!
「ストレートだけに君の気持ちがよくわかるわね。第25問。恋人同士になれたらまずは何がしたい?」
「ええっ!?」
「いや、だからもしもの話だから。希望を存分にぶちまけちゃっていいのよ」
「そ、そうか。そうだな。まずは無難にベッドインから……。――って全然無難じゃねぇ! い、今のなし! まずはあれだ、こいつは俺のっていうマーキングだ! ってぐああああっ! だから何でそっち方面なんだよ俺!?」
思わず頭を抱えて仰け反る俺を達観した目で見ながら、タニヤがポツリと呟いた。
「……やっぱり君、えっちぃわぁ……」
もう否定できません……。
「第25問目。愛したい? 愛されたい?」
「そりゃ両方に決まってんだろ」
「強いて言えば?」
「うーん、愛したい方かな」
一日中くっついて頭をもふもふしたり、色々なところをなでなでしたりモミモミしたりかふかふしたり――っていかんいかん。それじゃあペットみたいだ。
やはり愛するというのは、○○で○○を○○して○○に――。
「へい雑巾一丁お待ち! もう何を考えていたのかは面倒くさいから聞かないわ」
徐々に俺の扱いが雑になっている気がするんだが。っつーかそろそろ俺も血が足りなくなってきた。ふらふらする。
「26問目はちょっと踏み込むわよ。その人と結婚したいと思う?」
「いぃっ!? そ、そこまで考えたことねーんだけど!?」
「じゃあ今考えて」
「そ、そりゃできたら、その……し、してぇけど……。で、でもあいつは王女で、俺はただの護衛だし……」
一生ティアラが隣にいてくれるなんて、幸せなんてものじゃない。でも、それは現実的に無理な話だ。
思わずしゅんと項垂れた俺の頭に、タニヤがペンの先をピシッとぶつけてきた。
「そういう反応は母性本能をくすぐるからやめなさい」
「……お前にそんなものがあったことに俺は今驚いてーーーーッ!? だ、だからその靴で踏むのやめやがれ!」
「ふんだ。27問目! その人を思って泣いたことがある?」
あれ? 何か怒ってる?
「そこまで女々しくはないぞ」
「そうなんだ。毎晩泣いているのかと思った」
「いや、どちらかと言うと夜は泣くっていうより――」
「ストップ! 何か危険な香りがするからそのことについてはもう黙ってちょうだい。さっきも言いたかったんだけど、一応ここは全年齢版なの」
えっと。夜は切なくなって胸が痛くなる、って言おうとしただけなんだが……。こいつの方がいやらしいこと考えてんじゃねーの?
……いや、でもそれも間違ってはいないから否定はしねーけどさ。
「気分転換代わりに第28問。ライバルはいる? いるならどんな人?」
「たくさんいるだろうな。貴族の連中とか彼女の地位を狙っている奴らが」
「私としてはアレクとライバルに――」
「お前まだそんなこと言ってんのかよ! どうしてそんなにアレクにこだわんの!?」
「えー。だってやっぱり目の前で三角関係を観察したいじゃない」
迷惑すぎる。もうアレクにチクってやろうかな……。
「29問目。何か共通した趣味を持っている? 例えば?」
「ない……」
がっくりと床に手を付き、落ち込む俺。そういえば彼女と共通で楽しめる話題とか何一つないことに今さら気付いた。
「君も読書すればいいじゃない」
「無理! そもそもあいつが読んでいるのって、帝王学についてのうんたらかんたらとか、この国の歴史大全とか、民衆と王族の心理的違いとか、難しそうなのばかりなんだぜ!?」
「うーん。確かに、君は絵本でやっとってレベルぽいし、話は合わないかも」
その絵本すらほとんど読んだことがねーんだよ……。俺が文字を読む時は、仕事で必要な書類に目を通す時くらいだ。うあ、何かちょっと本気でへこむ。
「ま、本気で姫様のことが好きなら何か1冊でもいいから読んでみれば? そして読んだ本を姫様にも渡すの。これで共通の話題は確保できるわ」
「でも、読書レベル1の俺が読んだ本をあいつに渡しても――」
「優しい姫様がその本や君を無碍にすると思う?」
「……思わない」
確かにそうだよな。ここは俺も頑張って何か読んでみるべきか。
「質問コーナーが恋愛相談に変わっちゃってるわ。流れを戻すわよ。第30問。1日にどれだけその人のことを考える?」
「ずっと考えてる。だって目の前にいるんだし」
「部屋に帰ってからも考えてるんでしょ?」
「まぁな」
「第31問目はなかなか過激な質問よ。体だけの関係を求められたらどうする?」
「あ、あいつは絶対にそんなこと言わねーよ!」
「そうね。間違いなく言わないでしょうね。でもそんな状況になる可能性もゼロとは言い切れないかもしれないわよ?」
「そんな状況って、どんな状況だよ」
タニヤは両手を胸の前で組むと、まるで夢見る少女のように瞳をキラキラとさせながら続けた。
「念願叶って姫様とらぶらぶな関係になった君。でも姫様は別の国の王子と婚約させられるの。それでも君のことが忘れられない姫様……。ある日の夜、君を人気のない路地裏に呼び出した姫様。そして――」
「だあぁぁ! ちょっと待て! やけに生々しいというか具体的すぎんだろその状況!」
むしろ未来予想図に思えてきたじゃねーか!
「えー、例えばの話なんだからいいじゃない。で、そんな状況で姫様に求められたらどうする?」
「ぐっ――!? そ、そりゃ、断れないだろうな……」
「そうでしょうね。じゃあ32問目いくわね」
「ええっ!? やけに引っ張ったくせにそれで終わり!? なんというあっさり感!」
「何? もしかしてもうちょっと具体的に答えたいの?」
「い、いや。もう結構です……」
これ以上続けると俺の方も妄想が広がりそうなので素直にやめておこう。
「で、相手のことをどれだけ知ってると思う?」
「言われてみれば、そこまで知らないのかもしれない。俺よりお前の方が詳しいだろ」
「確かにそうね。君より私の方が長く姫様と一緒にいるもの」
そこでタニヤは威張るようにふんぞり返る。……くそ、ちょっぴり嫉妬。
「……別にいいんだよ。これから知っていけばいいだけのことだ」
「その前向きなところは君の良い部分だと思うわよ。第33問目。相手はあなたのことをどれだけ知ってると思う?」
「あんま知らないんじゃね? 俺も自分のことはあまり人に話さねーし」
「そうね。君の過去とか興味あるんだけどな」
「聞いてもつまんねーぞ」
人に話せるような明るい過去でもねーし。かといって悲壮なものでもねーし。
「人の過去に楽しいもつまらないもないわよ。今の君を形成している片鱗が知りたいなーって思っただけよ」
「…………」
「あら、どうしたの? ボーっとしちゃって」
「たまにお前、大人っぽいこと言うよな」
「し、失礼ね! まるで普段が大人じゃないみたいな言い方しないでよ! 34問目いくわよ。あなたにとって相手はどんな存在?」
「太陽。天使。女神。……何だよ?」
「いや、真顔で言わないでちょうだい……」
質問に答えただけなのに引かれるとか、何か納得いかない。
「だ、第35問。相手に恋をしてる日々を色に例えるなら何色?」
「赤かな。たまに黄色が邪魔してくるけど」
「ほほぉ。へへぇ」
しまった! 思わず本音が。
「ち、ちなみに情熱の赤だ!」
「聞いてもいないことをわざわざどうも……」
う゛っ――。目が据わってやがる。ここは早く流すべきだと俺の本能が叫んでいるぞっ。
「つ、次の質問は?」
「……まぁいいわ。36問。この恋はずっと続くと思う?」
「彼女の傍にいる間は続いていると思うぞ。仮に離れたとしても――続いているんじゃねーかな……」
「男の恋は名前を付けて保存、女の恋は上書き保存、って別の世界では言うらしいしね」
「ほ、保存? どういう意味だ?」
「うーんと、トランプのカードで例えるなら、男はカード(好きだった人)を横に並べる、でも女はカードを上に重ねるってところかしら」
「ええっ!? そ、そうなのか!?」
「まぁ全員に当てはまるわけじゃないけど、そういう傾向が強いってことは間違いないわね」
なるほど。男女の違いは色々と奥が深いんだな……。
「第37問目よ。その人といるとき幸せ?」
「当たり前だろ」
視界に入るだけで目が幸せ。近付くと甘い香りがして鼻も幸せ。可愛い声で呼ばれたら耳が幸せ。笑顔を見せられたらウルトラハッピーだよ!
――って今最後の方、変なもんが俺に乗り移ったぞおい! 今の俺の言葉じゃねーから!
「何か君の頭の中が面白そうなことになってそうで気になるけど38問。今会いたい?」
「あぁ。ってかさっきから何だこの微妙に恥ずかしい質問は」
「実はね、既に君の部屋の外に――」
「え、ええええええっ!? 待て待て待て待て!」
な、何だよそれ!? もしかして今までの全部聞かれてたってことか!? まさかこいつ、最初からこれが目的で!? やべー! ど、どうしよう!? 心の準備が全くできていない!
まるで檻に入れられた猿のように無駄に部屋を徘徊する俺。だってこんな状況落ち着いていられるか!
「なーんてうっそぴょーん。素晴らしいリアクションありがとうございました♪」
「…………」
タニヤ……。てめぇ……。俺をおちょくりやがったな……。温厚な俺も今のはさすがにちょっとキたぞ……。
「ちょっ――!? マ、マティウス君? な、何だか背中からどす黒いオーラが立ち昇っているんですけど……。聞いていないわよ。君がそんなオーラの使い手だったなんて……」
「二度とそんなふざけたことをぬかす気がなくなるまで、恐怖のどん底に落としてやる……。脇腹グリグリ攻撃からいくか? それとも膝カックンか?」
「うあああ!? ご、ごめんって! さすがにやり過ぎました! すみませんでしたっ。反省してますぅ!」
「……本当だな?」
「えぇ本当よ! だからその微妙にセクハラっぽいおしおきは勘弁してください」
まぁ脅しはこれくらいでいいだろう。
「じゃあ真面目に第39問。この恋は報われると思う?」
だからこういう心を抉る質問はやめてくれって……。
「たぶん、無理だろ……」
「どうしてそう思うの?」
「いや、だってまず身分が違いすぎるし。そもそもあいつが俺のこと好きになってくれる要素が皆無だろ」
「そうかなぁ。今のところ、割と姫様に良い印象与えてると思うんだけど」
「ほ、本当か?」
「あくまで私がそう思うってだけだけど」
でも変に期待しているとダメだった時のダメージがでかいから、無理だと思っておくことにする。
「そろそろ質問も佳境よ。40問目。後悔はしたくない?」
「そりゃ、まぁ。……って暗に当たって砕けろって言ってるだろこれ!?」
「んー? タニヤわかんない☆」
その『てへぺろ☆』はやめろ。お前がやると何かイラッとくる。
――あ、でもティアラに一度やってみてもらいてぇな……。恐らく殺人級の可愛さだろう。ちなみになぜ殺人級かというと、俺が可愛さで悶えて心臓が止まるかもしれないからだ。
「気を取り直して第41問。相手を思って一句詠んでください。」
「一句って何だ?」
「私もよく知らないけど、この紙に書いてあるのが例文らしいわ」
そう言いつつ、タニヤは手に持っていた書類の中から一枚の紙を俺に手渡してきた。その紙には短い一文が書かれているだけだった。
『マツシマや ああマツシマや マツシマや』
「なるほど。要はリズム良く文章を並べればいいってことだな?」
「そうみたいね」
よし。いっちょやってみるか。
『あぁティアラ どうしてそんなに 可愛いんだ』
………………。
部屋に渡る静寂が心に痛い。
「えーと、今のなかったことにしてもらえねーかな……」
「それは無理な要求よマティウス君。時間というものは進めることも戻すこともできないの」
「いや、真面目に答えんなや。余計恥ずかしいだろうが」
「じゃあ君の恥ずかしさ軽減のため、私も一句詠んであげる」
『姫様に 恋する護衛 良いおもちゃ』
「ちょっと待てい」
「最後の42問目。お疲れ様でした。最後に感想をどうぞ」
くそ、無視かよ。
「本当に疲れたぞ……。でもまぁ、あいつに対する気持ちは再確認できたかな」
「結構赤裸々に語ってくれたし、私としてもからか――コホン、いじり――ケフン、とにかく話のネタになりそうな収穫があって嬉しい限りよ」
誤魔化すのが下手くそすぎんだろこいつ……。
「さぁ、終わったんならさっさと出て行ってくれ」
「あら、どうしてよ。もっとお姉さんとお話しましょうよぅ」
「お前最近俺の部屋に来すぎなんだっての。変な噂流されてあいつの耳に入るようなことになったら嫌だろ」
「なるほど。確かにそういう色恋の噂って、本人の与り知らぬ所でトンデモ設定つけられつつ広がりやすいものだものねぇ。でも、それはそれで面白い展開になりそうだけど――」
「頼むから本気でやめてくれって!」
「冗談だって。私にだって選ぶ権利はあるんだから」
「何気にそれ失礼じゃね?」
「君だって似たようなこと言ったでしょ」
「……ハハハ」
「……フフフ」
顔は全く笑っていない乾いた笑いを互いに洩らしつつ、俺の部屋で繰り広げられていた変な企画はお開きとなったのだった。
↓質問はこちらからお借りしました。
『片思いの人に50の質問』
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