表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

赤のピアス

※本編に上手く組み込めなかったやつ






 いつものように本を読んでいたティアラが不意に顔を上げ、俺へと視線を投げかけてきた。


「どうした?」

「あの、マティウスはどうしてその赤いピアスをしているのかな、と思って」

「ん? これか? これはその――」


 今までスルーされてきたのに、まさかいきなりこれについて聞かれるとは。俺は左耳を触りながら、どう説明したものかと思考を巡らせる。


「うーん、何て言やいいかな。若気のイタリってやつ?」

「まだ若いのに何を言ってるのよ」

「いや、だってこれを付けたのって十の頃だし」


 俺のその説明を聞いたタニヤは、納得したようにあぁ……と小さく呟く。


「俺、自分の髪色が好きでなくてさ。あまり注視されたくねーっつーか。髪の色と対になる色が耳にあったら目立ちそうだし、そっちに目が行くかなって。……そんな単純な理由だよ」


 あの男と同じ色のその髪を見るだけで吐き気がする――。

 子供の頃に何度も何度も母親に言われた、その言葉。それが原因で、俺は自分の髪色が嫌いになった。

 染めようとしたこともあるが、金がかかるし面倒臭そうなのでやめた。苦肉の策でピアスを空けるというところに行き着いただけの話だ。


「私は、マティウスの髪の色、好きだよ」

「え?」


 ティアラの口から出た「好き」という言葉に、俺の心臓の速度が一気に二倍速になる。いや、わかっている。別に俺のことが好きという意味ではないことくらいわかっている。


「まるで町の外に広がる草原みたいだもの」


 鮮やかだけど穏やかな色で、見ていると落ち着くよ、といとも簡単に言ってのけるティアラ。

 ……くそ。ダメだ。今は彼女の顔を見ることができそうにない。

 瞬時に赤く染まったであろう顔を隠すため、俺はふいっと首を横に回す。しかしそこでニヤニヤした顔のタニヤと目が合ってしまった。イラッとしつつ首を180度回す。今度は壁際に佇むアレクと目が合ってしまった。相変わらずの無表情のまま、彼女は両の指を合わせたハートマークを作って俺へと見せてくる。

 何だよこの二人の連携プレーは……。口元が引き攣りそうになるのを堪えながら、俺は仕方なくティアラへと視線を戻す。


「……ありがとう」


 そして蚊の鳴くような声で彼女に礼を言った。ティアラはそれに小さく微笑んで応えると、また本を読む作業へと戻った。

 彼女が好きだと言ってくれたから、これからはこのライトグリーンの髪色も、好きになれる――かもしれない。

 くすぐったくなった心を誤魔化すように、俺はしばらくの間首を無意味にかき続けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ