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長らくスランプ気味で、小説を書く気持ちが減退しており、休みをとれば書く気持ちがもどるかなと期待していたのですが、むしろ悪化しました。すみません。
やる気スイッチは故障中、心は砂漠化、頭の中身は乾ききったスポンジ状態です。
とりあえず一話更新してみましたが、次回の更新は未定です。
申し訳ありません(土下座)。
ラウリは周囲に転がる数多の無残な魔物の躯を見回してから、自分の手にはまる指輪を呆然と見下ろした。
指輪はもちろんウィルヘルミナの作った魔法具で、今なお薄く輝きを放っている。
(先ほどのあれは、この魔法具が発動したということか? それにしてもこれはいったい…)
ラウリはもう一度視線を周囲に廻らせながら、空いている方の手で前髪をクシャリとかき上げた。
必死に頭の中を整理しようと試みる。
辺りに転がる魔物の遺骸は、全て溶けかけていた。
だが、それらは熱――――火界魔法によるものではない事は一目瞭然だ。
何故なら、表皮に火界魔法特有の焼け焦げた跡がついていないからだ。
かといって、雷界、氷界、風界、闇界などの魔法の痕跡とも全く違う。
ラウリは脂汗を浮かべながら、改めていまだ輝きを放ち続ける指輪を見下ろした。
(これはウィルヘルミナが作った魔法具だ。だから、失われた叡智ではない。とすると、私が知らない攻撃魔法が付与されているという事になる)
「私が知らない攻撃魔法となると、かなり限られてくる。可能性として一番高いのは、聖界一位魔法ティターンか?」
そうつぶやいてラウリは考え込んだ。
(以前読んだ文献に、地界一位魔法は万物を貫く神裁の槍、聖界一位魔法は魔を滅する聖なる光との記述があった。先ほどの魔法具の発動時には、地界魔法で守り固められていたから視界を遮られて、実際の発動状況を見ることはできなかったが、これらの魔物の死骸に残る痕跡を見る限り、おそらく聖界一位魔法で間違いない)
そう結論付けると、ラウリは両手で頭を抱えるようにして長いため息を吐きだした。
「いったいなんという魔法具を作り出したんだウィルヘルミナ…」
(これは危険すぎる魔法具だぞ。使い手が扱い方を間違えればとんでもなことになる。この世に存在させてはならない類の魔法具だ)
頭を抱えたまま首を横に振り、のろのろと手を下ろすと、再び己の指にはまる指輪を見下ろす。
「指輪はまだ輝いている。つまりこの魔法具は、まだ発動途中という事だ。この後にいったいどんな仕掛けをしてあるというのだ…」
ラウリは額に脂汗を浮かべながら息をのんだ。
「先ほどの状況を鑑みるに、どうやら発動条件は氷界三位魔法だったようだが、それはおそらく私用に作った魔法具だからだろう。私の切り札である氷界三位魔法を使うような危機的状況で発動するように設定したに違いない。しかし、ではこの後は、いったいどんな条件で発動するようにしてあるのだ? 参ったな…これでは迂闊に魔法を使うことができぬ」
しばし立ち尽くすが、指輪にそれ以上の変化はない。
やがてラウリはフウと息を吐き出した。
「まだ魔法具の光は消えぬが、これ以上魔法を使わなければ発動することもないだろう」
そうつぶやいて周囲を見回す。
「近くに生きている魔物の気配はない。ならば一度戻るか」
ラウリは、諦めたように踵を返し、本陣の方向に向かって一歩踏み出した。
キデニウス一行は、周囲をたくさんの魔物に囲まれて、進むも退くも難しい危機的な状況に陥っていたその時、突然まばゆい光が差し込み視界を奪われたが、やがて目を開けると状況は一変していた。
大挙していた魔物たちの全てが、半死半生の状態で大地に横たわっていたのだ。
突然の出来事に理解が追い付かず、全員が呆然と立ち尽くす。
そんな中、キデニウスが一足先に我に返った。
「この好機を逃すな。魔物にとどめをさすのだ」
キデニウスの言葉に、呆けていた魔術師たちが我に返る。
指示に従って皆が動き出した。
魔術師たちが周囲の魔物を一掃している間に、キデニウスは改めて周囲を見渡す。
無数に横たわる魔物は、光を浴びたであろう部分が溶けており、死んだものもいれば瀕死のものもいた。
しかし、生きているとはいってもかろうじてという状態で、放っておけばそう長い時間かからずに死ぬのは間違いない。
「先ほどの光が魔物をこんな状態にしたのだろうが、あの光はいったいなんだったのだ」
呟いてキデニウスは考え込む。
人に対しては全くの無害で、魔物ののみを攻撃する光。
どこかでそんな文献を目にした記憶はあったが、すぐには思い出せなかった。
やがて魔物にとどめを刺し終えると、タニヤがキデニウスの側にやってくる。
「キデニウス様、終わりました」
声をかけられ、キデニウスは思考を切り上げた。
「では出発しよう」
キデニウスは、すぐに死の山に向かって出発しようとしたが、タニヤが躊躇いつつ口を開く。
「キデニウス様、実は先ほどの光について考えていたのですが、あれはもしかしたら聖界一位魔法ティターンという可能性はございませんか?」
その言葉に、キデニウスだけではなく周囲にいた魔術師たちも驚愕に目を見開いた。
「ティターン?」
キデニウスは、半ば呆然とかすれた声でつぶやきながら再び考え込む。
「言われてみれば、確かにそうだな。魔物を滅する聖なる光。まさしくその通りだ。だが…」
キデニウスは、信じがたいといった様子で首を振った。
「もしその通りだとすると、聖界一位魔法を契約できた人間がこの世に存在することになる。そんなことがあり得るのか?」
タニヤ自身も半信半疑といった様子で周囲を見渡す。
「おっしゃる通り、常識的には信じがたい事です。ですが、ではこの状況にどう説明を付けたらよいのでしょう。あの光は、我々には全くの無害でした。しかし、魔物に対してはこれほどの効力を発揮しています。あの光は、ここから離れた場所で発動していました。にもかかわらずこの状況なのです。神話で語られる聖界一位魔法であればこそ成しえる奇跡ではないでしょうか」
タニヤの言葉に、キデニウスは息をのんだ。
「確かにそうだが…しかし…」
キデニウスは言葉を濁し、何かをためらうようにして口を閉じる。
タニヤは一度考えこみ、硬い表情で死の山のある方向を見つめた。
「これは単なる想像ではありますが…もしかしたら先ほどの光を発動させたのはギルデン卿かもしれません。光が発せられた方向は、ギルデン卿がいらっしゃると思われる場所です。死の山付近は人里から遠く、壁からも離れているため、討伐隊の布陣はされていません。おそらく現在ギルデン卿以外の人間は、立ち入っていないはずなのです」
タニヤの言葉に、キデニウスは一度口を引き結んだ。
そして詰めた息を吐き出しながら首を横に振る。
「カルペラ卿、想像で軽々しく決めつけるものではない。ギルデン卿が優れた魔術師であることは私も承知しているが、しかし、聖界一位魔法の契約はあまりにも荒唐無稽な話だ。彼の方であっても無理であると断言できる。それに、よくよく考えてみれば、聖界一位魔法ではなく、失われた叡智が使われたという可能性もある。むしろその可能性の方が現実的で、納得がいく説明になるのではないだろうか。聖界一位魔法の存在は、あくまでも神話の中のでの話。到底人に扱えるような力ではない」
キデニウスがきっぱりと言い切ると、タニヤはうつむいた。
タニヤはまだ納得のいかない様子だったが、キデニウスは気持ちを切り替える。
「これ以上の議論は不毛だ。とにかく今は、ギルデン卿の救出を優先させる。出発するぞ」
キデニウスが鋭い声で告げると、一行は再び死の山を目指しはじめた。




