心を折る作戦
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相手の補給線をぶった切り、物を運ぶ商人も撃滅し、村からも必要物資を買い漁ってく戦術は、思った以上にシュトナイザリオン王国に刺さっている。
俺たちは完全に略奪者の一団となっている。マクファウスト子爵領にも当然の様に盗賊がいるが、商人に手を出されることは殆どない。
と言うか、定期的に狩ってしまっているので、ここ1年程は殆ど見なくなってしまった。まあ、旧アワーバック伯爵領の話なんだけどな。
マクファウスト侯爵領での盗賊被害は、1月に30件も無い。1日に1回襲われるのかどうかという所なんだよ。それも境界付近で襲われるというのがあるだけだ。
盗賊は、冒険者が執拗になって狩っている。マクファウスト侯爵領でも、マクファウスト子爵領でも、盗賊の討伐賞金が大きいのが理由だな。1度盗賊が出たと噂になると、大量の冒険者が押しかけていくから、盗賊の逃げ場がない。
それだけ街道の重要性を解っているという事なんだよ。盗賊がいるとなると、商人が逃げるし、冒険者を雇うにも金がかかり過ぎる。
それだけ物価が上がる事に繋がるんだよ。だから物価を上げないためにも、盗賊の討伐は冒険者の良い稼ぎになる様に値段を設定していた。
だから、通常の貴族領でもある程度は盗賊対策に冒険者を置いていたり、兵士を雇用していたりするんだが、今は戦争中。そんな余裕は辺境伯家には無い。
全軍で攻めているとはいっても、ある程度の治安維持に必要な人員は残しているだろう。だが、それでは足りない。数も機動力も足りない。
こちらは馬で移動をしている部隊もある。5人1組で行動させているんだけど、そもそもの兵士の練度から違うのだ。相手にならない。だから、補給物資が大量に砦に集積されていた。自分たちの補給物資を使わないでも良いくらいには集まっている。
ただウェンリー兵士長は、敵から巻き上げた補給物資には手を付けずに、手紙を添えてアルローゼンに全て送っていた。
毒を盛られている可能性があるからと言って、全て鑑定魔法か鑑定スキルを使ってから補給物資として持たせてくれと書いてある。……正直、そこまでするのかと言いたくもなったが、ここまでしてやられている以上は、警戒してもおかしくないだろうと言っていた。
補給物資は何よりも大切な物だ。それが無ければ戦えない。それなのに毒を盛るのかと思ったが、ウェンリー兵士長は私ならやると言っていた。
こいつの頭の中はどうなっているんだろうな。ここまで徹底的にやる奴はなかなかいないぞ。敵でなくて本当に良かったとは思っているが。
「さて、南の砦も落とした訳だが、どうするんだ? 継続して砦を攻めているのは変わりないが、今後の大方針はある程度決まっているだろう? 中方針と小方針を教えてくれ」
「良いですが。まあ、大方針は言わなくても解っているでしょうが一応、戦争の圧倒的勝利が大方針です。そもそも負けると面倒なので、勝つことを前提としてます。ここは良いですよね?」
「まあ、圧倒的なのかどうなのかという差はあるにしろ、勝利で終わる事が望ましいのはその通りだ。それに向かって邁進するというのが正解だろう」
「ですね。続いて中方針ですが、ミッチェルハーロウ公爵派閥の戦線を押し上げるというのが中方針です。これもそこまで難しい事ではありません。数にはお互い利がない以上は普通は防衛戦を望みます。そこを私たちが攻めていけば良いので」
「一応聞くが、攻める方が3倍の数が必要なのは知っているよな? その数を用意して攻める訳ではないんだから、不思議な所なんだが」
「やり様ですけどね。補給の無い大戦力が戦力になるのかってのが問題ですよ。腹が減って動けない兵士を兵士として数えるのか。そういう事ですよ」
「それも含めて、本来は3倍の戦力が必要になるはずなんだがな。後方を抑えるのも難しい筈なんだぞ? 普通は砦を迂回して手間暇かけてやる事だからな」
「それに関しては、1つでも砦を落とされた向こう側が悪いんですよ。戦線が構築されているのであれば、いくら私だってこう簡単には補給路を断つ事なんて出来ませんでしたから。やっぱり機動力があるのは良いですよね。もっと馬を導入しませんか?」
「馬が育つまで我慢だな。馬も簡単に増えてくれるわけではないし、そもそも馬を育てているのが派閥でも少ないんだ。本当はアンジェリオニジ公爵派閥から引き抜きたかったんだけど、隣接地には無かったからな。これに関しては仕方がない」
「そうですよねえ。とまあ、こんな感じで補給路を断ちつつ、派閥の侵攻を進めていくのが中方針になります。小方針は、落としていない砦をしっかりと落とすことですね」
「それに関してはそうだろうな。砦を落とさないと次に進めない。それは解っている。各方針も解りやすくは言ってくれたが、その先だ。もう少し未来の話をしてくれ」
「うーん。何事も目の前の問題からなんですけどね。まあ気持ちは解りますけど。やる事としてはそこまで変わりはないですけど、後詰めが来たら、占領を開始していきます」
「ラウレーリンに頼んだ兵士がどの位来るのか、だな。50万人は硬いとは思っているが、どのくらいまで出すのかが解らない。俺なら100万人は出してたはずだ」
「ラウレーリン様ですからねえ。ハインリッヒ様よりは思いっきり出してくれるんじゃないですかね? 具体的には解りませんが」
「その可能性は十分にあり得るな。何処まで出してくれるのかは解らないが、大量に来ることは間違いない。その為の準備はどうなっているんだ?」
「資金も何もかも用立ててくれとは言ってあるので、本当にがっつりと持ってきてくれると思うんですが、とりあえずは100万人で計算していますけどね。侯爵領1つ分は占領したいと思っているんですが、それだけだとまだ足りないんですよ」
「いや、何が足りないんだよ? 人手ももうすぐ来るし、時間もそこまでない訳じゃないだろう? まだ人手が足りないのか?」
「足りないですよ。人手が。狙い通り辺境伯家は潰せるでしょうけど、それだけというのも考えものでしょう? 敵が逆らう事がないくらいにやらないと」
「十分な戦果だと思うぞ? 辺境伯家を潰すと言う事は。侯爵家5つ分と思ってもおかしくはないんだからな。それで戦果が足りないのか?」
「貰える名誉としての戦果は足りますけど、相手の心を折るには、もうちょっと戦果が欲しいです。具体的には、恐らく隣接していたのは2つの辺境伯家だったと思いますけど、それを2つ程潰してさらに準男爵レベルを100くらい潰しておきたいです」
「それだと辺境伯家3つ分くらいになるからな? 国土の8分の1くらい食い潰す気か? それだけやられれば、確かに心が折れるとは思うが」
「欲を言えば、王都は落としておきたいんですよ。そうなると、国土の2分の1くらいを占領しないといけないので、統治の面から言っても難しいんですよね。そこまでの貴族家を興す余裕は、ハースベック王国にも無いでしょう?」
「確実にないからそれは止めてやれ。最悪王領にする事もありだろうが、文官が足りないな。圧倒的に人材不足になって、餓死者が出る」
「それは望むところでも無いので、辺境伯家を2つ潰す程度でいいかなと思っているんですが、それだけだと心が折れない様な気がしてならないんですよね。人の心ってのは意外と折れにくくできているんですよ。魔物はそもそも心を持っていないので、こういう事にはならないんですが」
俺にはウェンリー兵士長が人の心を持っているのかが心配になってくるんだけどな。よくもまあ味方でいてくれたと思う。
敵に居たら悲惨なことになったんだろうな。何をしでかすか解ったものじゃない。兵数の劣勢なんかを考えないでひっくり返されそうだ。
今回は、与えられた兵の数がそこそこ良い所であって、質がもの凄く高いからある程度自由に出来ているんだろうが、こいつを本気にさせるとどうなるのかが恐ろしいな。




