塩精製の方法を変える
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コーヒーというものは、黒い苦いお茶だな。コーヒー豆とは言うが、実際は種だ。豆に似ているから豆と呼ばれているだけのものではある。
昔は飲んだことが無かった。コーヒーというのは、暖かい地方でしか育たず、また雨が降らないといけないらしいのだ。雪が降る地域は適さない。
大魔境が開拓されていた過去では、奥地に住んでいた。だからコーヒーなんてものは高級品だったのだ。今ではそうでもないんだが。
そんなコーヒーなんだが、好みが分かれるんだよな。豆の加工の方法で味が全然違うものになってしまう。美味いコーヒーを飲もうと思うと、作り手が同じように作るしか無いんだよ。そこまで厳密に管理されたコーヒーは中々ないんだ。
日によって味が変わる。それが当たり前の飲み物だ。普通のお茶でも多少の違いが出るものだが、コーヒーは本当に何から何まで変わってしまうんだよな。
個人的には好かない。だが、飲むと気分が切り替わる様な感じがする。書類仕事の後に飲むと気分が切り替わっていいなどとも言うし、書類仕事の最中に飲むと集中力が上がると言う者もいる。なんともまあ不思議な飲み物なんだよ。
そして、こっちに来てからは偶にコーヒーを飲むようになった。この暑い時期に、熱湯で入れたコーヒーを飲むなんて馬鹿らしいとは思うんだが、これもまたいいんだ。
苦味が色んな事を押し流してくれる。煮詰まった時には毎回飲んでいる気がするな。毎回味が違うから、今日のはどんな味だろうかと考える事もある。
だが、今日はそんなコーヒーの入れ方に注目してしまった。コーヒー豆を粉にするのはいい。それにお湯をかける訳なんだが、そのままだと豆がコップの中に入ってしまう。
それを防ぐために布でコーヒー豆を包んでお湯をかけることによってコーヒーを入れている訳なんだが、それを見て、ふと思ったことがある。
コーヒーを入れる際に、コーヒー豆をコップの中に入れて入れると、当然だが豆がコーヒーの中に紛れ込む。それが雑味になるんだよな。
だから布でコーヒー豆を包んでその上からお湯をかけることによって、コーヒー豆をコップに殆ど入れることなくコーヒーを入れられるんだ。雑味がない方が美味しいのは解り切っている。その工夫が大事なことなんだ。
それを塩の精製で応用できないのかという話だ。今やっている作業は、コーヒー豆をコップの中に入れてお湯を注いで作るコーヒーの中からコーヒー豆を取り出そうとしている。
1つ1つ取り出そうとしているから効率が悪く、魔石も余分に使ってしまうし、効率を上げても更に魔石を使うという悪循環に陥っている。
では、考え方を変えようではないか。コーヒーの中からコーヒー豆を取り除く方法がある。それが布を挟むと言う事なんだよ。
コップからコップへ移し替える時に、布を1枚挟むとコーヒー豆が取れてしまう。まあ、小さいものは素通りするんだが、それは置いておこう。
塩に例えればどうだ? 塩はコーヒー豆よりも小さいものだ。見えないからな。だが、水よりは大きいのではないか。もしかしたら小さいのではないか。そう思う。
水と同じ大きさであれば難しいと思うんだが、大きさが違うのであれば、布を挟むことで分けるように、塩と水を分けることも可能なのではないか。たった今、それを思い付いた。故に聞く。そんな事が可能なのかと。
「なあ、コーヒー豆を入れないために、布で包むよな。コップからコップへ流し込むのに、布を挟むとコーヒー豆が取れるよな。塩でも同じことが出来ないか?」
「……塩で同じこと、ですか?」
「ああ、例えばの話になるんだが、水と塩の大きさが違ったとしよう。そうすると、水の方が小さい場合、水が通るけど塩は通らない穴を開けておけば、水は下に流れ込んで、塩はその布の上に残るだろう? 逆の場合だと塩は下に行くが、水は上に残る」
「っ!? そうか! 水の中に塩が入っていることは解っている! それを今までは熱することで水だけを排除していた。そうじゃなくても分離させるだけで良かったんだ!」
「ああ、水だけが、もしくは塩だけが通る穴を開けておけば! 圧倒的な早さで水と塩を分けることができるかもしれない!」
「同じ大きさであれば無意味かもしれない。それでも、違うのであれば効率よく塩だけを、水だけを得られるかもしれない。これは試してみる価値があるでしょう!」
「とりあえず落ち着いてくれ。コーヒーを飲んでから作業をしよう。折角コーヒーを入れて貰ったんだ。良い発想を貰ったんだ。まずはそのことに感謝をしながらコーヒーを飲もうじゃないか。そうしたら、全員で考えるぞ。どんな魔道具にするべきなのかを。どうすれば効率が最高になるのかを。まずは試作品を作ってみる。それからだ」
水が大きいのか、塩が大きいのか。それは解らない。解らないが、同じ大きさということは無いだろう。ならば、通す通さないが出来る筈なんだよ。
一瞬の閃き、こういう事があるんだよな。何事も無い事から着想を得る。頭の中を空っぽにした時に入ってくるものが、宝石の事もあるんだよ。
完全に盲点を付かれた形だ。そんな事も何も考えていなかった所にポンと投げ入れられた石ころが宝石だったなんて。
コーヒーを飲み、試作品を作ってみた。水が大きいのか、塩が大きいのかをまずは調べないといけない。そこから調べて始めて実用品を作っていける。
「試作品7号機は駄目でした。両方とも通ってしまいました。これは、思った以上に小さいのかもしれないですよ。目で見えないことがこんなに難しいとは思ってもみませんでした。次はおかしいくらいに小さくしてみます」
「……試作品12号機です。これでもまだ水も塩も通ってしまいました。もう、穴と言うものを通り越した何かだと思っていたんですが、まだ通るのか」
「……試作品15号機です。もしかしたらと思って完全に閉じてみました。そうしたら水も塩も流れませんでした。やはり穴は必要だと言う事ですね」
何度も何度も試作品を作り込んだ。水の大きさも塩の大きさも解らない。だが、もの凄く小さなものであると言う事は確信できた。後はそれを何処まで微調整すれば良いのかを繰り返すだけの作業になる。魔道具職人の腕の見せ所だ。
基準は彼らの中にはあるんだろうが、まずもって目で見えないのが問題なんだよ。塩水と水が同じように見えるんだから、仕方がない。
ただ、解ったことは、塩は水の中にある時と、水から出した時では大きさが変わっていると言う事なんだよ。どう頑張っても白い粉の大きさが大きく見える。目の錯覚なのかは知らないが、これはどういう事なんだろうか。
試作品を作りに作って数日、もう無理なんじゃないかとも考え始めた時、1人の魔道具師が声を上げた。奇声にも似た声を張り上げて言った。
「出来たああああああ! 遂に! 遂にやったぞ。完全な水が出来た! という事は!? 塩も出来ているはず! っしゃあああああ! 出来たぞおおおおおおおおおお!」
試作品204号機、遂に水だけを通す膜が出来上がった。目に見えないくらいの大きさの筈だが、やり遂げたようだ。という事は、塩の方が大きいと言う事なんだろうな。水が通って出てきたと言う事なんだから。
出来たのは嬉しい。だが、これから考えないといけないことがある。それは効率が良いのか悪いのかなのだ。
出来たのは素晴らしい事なんだ。素晴らしい事なんだが、既存の方法よりも効率が悪い場合は却下になってしまう。ここまでの事をやってくれてもだ。
さて、効率の方はどの位のものなんだろうか。今までの常識を覆すくらいの効率が出てくれてば、今叫んだやつも報われるんだけど。




