第八十二話 第二回イベント27
第二回イベント、七日目続きです。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
〈レイドボス:悪魔グレモリーを討伐しました〉
〈戦闘の貢献度に応じて報酬をインベントリへ送ります〉
〈戦闘の貢献度一位のミオンに特別なアイテムを送ります〉
〈グレモリーの書を入手しました〉
〈悪魔の討伐に成功しました〉
〈最終目標の討伐に成功しました。これにより、第十一サーバーの第二回イベントは終了します〉
〈イベント順位などの詳細は、七日目が終了次第発表されます〉
〈七日目終了まで、このフィールドをお楽しみください〉
グレモリーを完全に倒したことの証明か、ボス討伐のログが流れる。どうやら、これでイベントは終了みたいだ。
それに、戦闘貢献度一位も貰っちゃったね。個人的にはフルールさんかなって思ってたんだけど。
んー、また悪魔魔法の書かれた本なのかな? それとも、魔法じゃないスキルだったりするんだろうか。もしそうなら、習得できそうだけど。
私がグレモリーの書について考えていると、不意に肩を叩かれる。そっちを見ると、ヴィーンやぬんぬんさん、他にもたくさんのプレイヤーが全身で喜びを表していた。
……まずは、ボスを倒したことを喜ばないと、か。
「ミオン様ミオン様! やりましたね!」
『うん。なんとか勝てたよ……』
「しかし、今回のボスも強かったね。ミオンの装甲、わりとボロボロじゃないか?」
ヴィーンの言葉に、改めて自分のパーツを見てみる。《自動修復》スキルでHPや耐久値は回復していっているものの、そこには確かに激戦の跡がうかがえるように数多くの傷がついていた。
『ま、ボロボロ具合で言ったら、一回目のイベントに比べたらね』
「あの時は両腕と両足がなかったからね。それと比べたら、まだマシな方かな」
くすくすとヴィーンは笑う。それにつられて私も笑った。
そこで私は、インベントリにしまったパーツを改めて取り出す。
『うわぁ……』
「ボロボロですね……?」
私が取り出したパーツをぬんぬんさんが覗き込むようにして見る。私が取り出したのは、いつものブラッドラインの腕部パーツとマギユナイト・ライフル、ディ・アムダトリアの三つ。
ライフルとディ・アムダトリアには特に問題はなさそうだけど、残りの腕部パーツが問題だった。
あの時は気づかずに今の腕部パーツに変えたけど、もしあのまま使ってたら戦闘中にバラバラに壊れてたかもしれない。それくらい、その腕部パーツはボロボロだった。
耐久値を確認してみると八割近く削られているようで、限界までチャージした一撃を片手ずつで放つのはブラッドラインと言えども無理があったようだ。
うーん、カノンのヴォルカニクみたいに装甲を厚く……いや、それだとブラッドラインのシルエットが崩れちゃうかな。それに、F・ブラッドラインと組み合わせることを考えると、あまり大きくしすぎるのも問題だ。
ま、今回のイベントでいいものも手に入ったし、それで新しいパーツを作るのも悪くなさそうだね。
激戦を共に乗り越えた相棒たちに『ありがとう』とお礼を告げてインベントリへと戻す。このイベントになにを持っていこうか悩んだけど、これらを持ってきたのは正解だったみたいだ。
私は改めて騒いでいるプレイヤーたちを見る。
彼らの中心にいるのは、やっぱり最後の一撃を決めたフルールさんだ。みんなが胴上げをしようと近づけば、フルールさんの拳や蹴りで返り討ちにあっていた。ちなみに、全員男性プレイヤーだ。
カンナヅキさんはクラッドさんや醤油差しさんと一緒に今回の戦いの分析をしているみたい。
よかったところや反省点などを話し合って、次のイベントやそれぞれのギルドでの戦闘に備えているようだ。
「姐さんは胴上げさせてくれないし……こうなったらミオンちゃんを胴上げだぁ!」
「「「おう!」」」
『えっ、私!?』
ドカドカと近づいてくるプレイヤーたち。
フルールさんに近づいた時は下心が見え隠れしていたみたいだけど、私に対しては純粋に胴上げをしたい気持ちが前面に出ており、無下にすることもできない。
結局私にできることは、胴上げの邪魔にならないように背部パーツをインベントリにしまうことだけだった。
「さっすが滅神機姫!」
「あんたがいてくれて助かったぜ!」
「ビールありがとよ!」
「「「ありがとう!!!!」」」
『なんかビールの実を見つけたことの方を感謝されてる気がするんですけどぉ!?』
「はっはっは! 気のせいだ!」
「「「ビールバンザーイ!!!」」」
『隠しきれてないっ!!』
そんな胴上げが終わったあとは、このイベントフィールドから去る時を待つだけ。
《料理》スキルを持ってる人はつまみに料理にと忙しそうにしている。
逆に《料理》スキルを持っていない生産職プレイヤーは、そのまま宴会に参加したり、最後まで採掘するぞと山脈区域に向かったりしていた。
なお、その際にワイバーンテイマーがプレイヤーたちの運送役になったことをここに記しておく。宴会を楽しみたい様子だったけど、有無を言わせぬ生産職プレイヤーたちにはなにも言えなかったみたいだ。合掌。
残りのプレイヤーたちはビール片手に宴会だ。お酒の飲めない未成年組に対しては果実ジュースを作って渡している。
もちろん私は未成年組なのでジュースを貰ってゴクリ。あ、甘くて美味しい。
どうやら宴会場はグループ別に別れてるようで、酒飲み共のグループと、純粋にお酒を楽しむグループ、あとは、未成年組を含めた料理を食べるグループだ。
『うまい……うまいっス……』
『魔機人の姿で食べると、美味しさが違う……』
「おうおう、もっと食え食え!」
「美味しそうに食べてもらえると、作る側としても嬉しいわ」
「よし、なら次はハンバーグでも作ろうか」
『『ハンバーグ!!!』』
タクトとマノンは美味しい料理を片っ端から食べ回っているようだ。その気持ち、分かるよ。私も、普通に食べるご飯よりも魔機人の身体で食べるご飯の方が美味しく感じるもの。
「イベントが終わったら、早速ミオン様のギルドにお邪魔しましょう」
「だね。なんでも、非魔機人プレイヤーでも空を飛べるように色々開発してるって話、親方さんから聞いたよ」
「夢が広がるでござるな……」
「「「そしてなによりもミオン様のギルドに入れるのが大きい!!!」」」
「絶対にぬんぬんには負けないわ……」
「ええ……」
「で、ござるな……」
そう言えば、ヒイロさんたち三人はこのイベントが終わったあとに【自由の機翼】に入ることになってたね。ぬんぬんさんもうちのギルドに入ってくれるようだし、第二陣の中でも強いプレイヤーが入ってくれるのは大歓迎だ。
それに彼女たちの戦い方は色々と参考になる部分もある。新しい武装やパーツを作る際には手伝ってもらうかもしれないね。
「あの、少しいいだろうか」
『ん……って、えっと、シュヴァルくん、だっけ』
「はい。あの時はありがとうございました」
そう、スネークソードに手を当てながら頭を下げるシュヴァルくん。
私は慌てて頭を上げさせて、お礼を言われるほどじゃないということを伝える。
『それで、わざわざどうしたの?』
「……その、ぬんぬんさんたちがミオンさんのギルドに入るって話を聞いて……お、俺も入れてもらえないかな、と」
そう、シュヴァルくんは俯きがちに言う。
シュヴァルくんは第二陣のプレイヤーながら、スネークソードという扱いづらい武器を手足のように扱う。そんな彼が入りたいって言うなら、止める筋合いはないかな。と言うより、むしろ入って欲しい!
『もちろん! ギルド【自由の機翼】はシュヴァルくんを歓迎するよ!』
「……っ、ありがとうございます!」
ぱぁっ、と花が咲くような笑顔を見せてくれたあと、恥ずかしそうに俯いてお礼を言ってくれる。
ちょうどそのタイミングでルフさんがシュヴァルくんを探していたようで、詳しい話は戻ってからねとシュヴァルくんをルフさんの元へと送り出す。
いやぁ、このイベントだけで色んな素材と、新たな人材を確保することができて嬉しいな。
新しく入ってくれた人たちは、それぞれ特殊なスキルを持っている。それらの要素を魔機人のパーツや武装に取り込めれば万々歳かな。もちろん、仲良くなった人たちがうちに入ってくれて嬉しいって気持ちもある。
『……長いようで、短かったかな』
私は手に持ったグラスのジュースを飲み干して、周りを見る。
日付が変わり次第、このイベントフィールドから移動することになるだろう。
そして、私たちはいつもの日常に戻っていく。
第二回のイベントは、とても楽しかった。
だからかな。楽しかった祭りが終わっていくようなこの感覚。ちょっと、寂しい。
私はその寂しさを誤魔化すように、この後のことを考えていた。
イベントが終わったら、イベントポイントの発表だろう。
最後のボスも倒したし、そこそこのポイントは貰えてると思うんだけど、他のサーバーはどうなんだろうか。
どうせなら、一位がいいけどな。
他のサーバーには、カノンやクラリス、ユージン兄さんやナインさん、ダリベさんだっているだろう。
私も頑張ったように、きっとみんなも頑張ってるはず。
せめて、共に過ごして、共に戦ったみんなの頑張りが形になりますように。
私はそう願いながら、宴の喧騒を楽しみつつ、甘い果実ジュースを飲み干していった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




