第八十一話 第二回イベント26
第二回イベント、七日目続きです。
それでは、引き続き本作品をお楽しみください。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
肩で息をしているグレモリー。どうやらさっきの一撃は相当堪えたようだ。
ふと、私は周囲の空気が元に戻っていることに気づく。あの、ねばねばしたような嫌なオーラが、消えている。
チラッと周囲のプレイヤーを確認すると、オーラによる状態異常は治ったようで、みんなは急いで回復薬などを飲んでいた。
改めて私は地上に降りる。
『とんでもない威力っスね……』
『タクト、お疲れ様』
事前に退避していたタクトが、私に話しかけてきた。
そのタクトは、酷い有様だった。両腕はぐしゃぐしゃに潰れて、背部パーツも全身もボロボロだ。
それでも、タクトの声音は明るい。
『タクトは一回下がってた方がいいね。向こうにヴィーンたちがいるから、そっちに下がって』
『でも……』
『タクトに助けられたからさ。今度は私に助けさせてよ』
『ギルマス……分かったっス!』
タクトは体勢を立て直しつつある前衛プレイヤーたちにもみくちゃにされながら、後衛へと下がって行った。
私はそんなプレイヤーたちを指示しているカンナヅキさんの元へと向かう。
「おう、ミオン!」
『カンナヅキさん、無茶しすぎですよ』
「無茶してなんぼだろうが。とにかく、無事でよかったぜ」
『それはこっちのセリフですよ。でもまぁ、ありがとうございます』
「いいっていいって。それよりも、グレモリーだ」
『そうですね』
私たちは会話もそこそこにグレモリーを見上げる。
弾け飛んだ両腕が痛むのか、時折身体を震わせるグレモリー。
息は荒く、その場から動く気配も、こちらに対して攻撃を仕掛けてくる気配もない。
「……どうする?」
カンナヅキさんの問い。私はそれに『分かりません』と答えて続ける。
『もし、これがチャンスタイムなら攻撃を再開したいところですけど……もしこれがこっちの体勢を立て直すためだけの時間なら、攻撃するとペナルティモードになる可能性もあるんですよね』
「ああ、前のミオンを追尾してた威力のヤバそうなビームか」
『そうです。正直、あのビームは私でもくらいたくないですね。小さい方なら自動回復でどうとでもなるんですが……』
「で、待つか、攻撃するか、か……」
私たちはグレモリーを見上げて悩む。未だにグレモリーが動き出す気配はなかった。
HPバーにも動きはない。つまり、回復行動じゃないってことだ。
息を整えてるだけ……に、しては長いよねぇ。
「……くくく、あはは、あーっはっはっはっは!」
私たちがこれからの行動に悩んでいると、不意にグレモリーが笑いだした。
体をのけぞらせて、空に向かって笑う。その様子は、少しばかり気味が悪かった。
すると、切断されていた腕部に、黒い光が集まる。
グレモリーのHPバーが二割ほど減り、その光から新しい腕が伸びてきた。
……ナメック星人かなにかなのかな、悪魔って。
「羽虫、デク人形……いいえ、人間ども。よくぞ、ここまで私を傷つけましたね。これは、認識を改める必要がありそうです」
そう言って、その顔に笑みを浮かべるグレモリー。
どうやら復活した腕はさっきまでの強靭な腕ではなく、元々の人間のような腕に戻っていた。
気づけば足も元に戻っている。それどころか、徐々に身長も縮んでいるように思えた。
「大きければ強いと思っていましたが、そうでもないようです。なら、私にとっての最適な大きさはなんでしょうか?」
「そんなの知るかよ」
グレモリーの問いに、代表してカンナヅキさんが答える。
その答えにくつくつと笑ったグレモリーは、その身体を徐々に小さくしていく。
20mくらいあった身長は、5mほどの大きさになったところで止まる。
「あなた方が使う兵器とやらと同じ大きさです。これくらいが、私にとってのベストサイズでしょうか」
そう言ってにっこりと笑うグレモリー。
さすがにこの大きさまで小さくなられると、試作魔機装の前衛プレイヤーで取り囲むなんてことはできなくなったね。かと言って、《悪魔特攻》なしでHPバーを削り切るのは厄介だ。
もう一度チャージショットを当てればいいように思えるけど、さっきよりも的が小さくなった分当てづらくなってる。近距離でチャージなんてできないし、これは困ったな。
そう思っていると、カンナヅキさんの隣にいつの間にかフルールさんが立っていた。
「フルール、来たか」
「ええ。でも、私の試作魔機装は動かしすぎでガタがきてるわよ?」
「そこは俺のを使えばいい。ほら、トレードだ」
「ギルマスのを……なんかちょっと嫌です」
「その反応は普通に傷つくんだが?」
「ま、この際選り好みは言ってられないから、早くしてね」
「……」
カンナヅキさんは無言でフルールさんとやり取りを交わす。
そして準備が整ったのか、ライフルを構える私の横にやってきた。
「というわけで、共闘よ」
『どこがというわけなのか分からないんですけど……これは、あのグレモリーは私たち二人で倒すってことでいいんです?』
「ええ。ギルマスから許可は貰ったから」
そうウインクして話すフルールさん。
うん、まあ、それなら大丈夫か。さりげなく私も巻き込まれてる気がするけど、今更だね。
ふぅ、と息をついてインベントリを操作する。
「あ、あらあら、あなたたち二人で私の相手を?」
ちょっと戸惑ってるような、怖がってるような、そんな声音で話しかけてくるグレモリー。
その視線は主に私のライフルに向けられているようだった。ああ、さっきのあれが堪えてるのか……。
私はフルールさんと顔を見合わせて、グレモリーに向けて首を縦に振る。
グレモリーの表情が引き攣るのと同時に、私たちは自分の試作魔機装――フルールさんのは借り物だけど――に乗り込む。
私はブレードとバズーカを、フルールさんは拳を構えた。
私たちがファイティングポーズを取ったからか、グレモリーもまた両腕から鋭い爪を伸ばして構える。
「ひとまず私が突っ込むから、ミオンは後ろから援護よろしく」
『はいはい』
それだけ言うとフルールさんはグレモリーに向かって突っ込んで行った。
私はため息をつきつつブレードをしまってバズーカと、この状態でも動かせるフレンズたちを起動させる。
ふわり、と私の背後に浮き上がった十六基のフレンズたち。
拳を構えて突っ込むフルールさんをサポートするようにフレンズを動かす。
「せいっ、はっ、せいっ、やぁっ!」
「くっ、なんですかこの動きは……もしかして、ミュルメコレオが倒されたのは不良品だったからじゃ……」
「私の、実力、ですっ!」
「ぐぅっ」
フルールさんの拳を受けて思わず仰け反るグレモリー。その隙を逃さずバズーカの一撃をぶちかまし、フレンズたちで追撃するのを忘れない。
仰け反った体勢からさらに攻撃を受けたグレモリーはその場ではたたらを踏み、フルールさんの追撃をその身に受ける。
ロボットとは思えないほどに俊敏な動きを見せるフルールさんの試作魔機装。なんか、シャイ〇ング・フィンガーとか放てそうだよね、フルールさんなら。今度おすすめしてみようかな。
私とフルールさんのコンビネーションにグレモリーはなにもすることができず、そのHPバーを減らしていった。
残りHPは一割と言ったところか。
「な、なんなんだ、この人間は……」
どうやらグレモリーは、フルールさんの尋常じゃない格闘スキルに怯えているようだ。
当の本人はグレモリーのHPバーを確認しつつ、最後の一撃を入れるために軽快なステップでグレモリーに近づいていく。
私も、グレモリーが逃げないようにグレモリーの背後をフレンズで固める。
周囲は日が落ちてきたのか、茜色に輝いていた。どうやら、かなりの時間グレモリーと戦っていたらしい。
でも、その戦いもそろそろ終幕だ。
周りのプレイヤーたちは、もはや観戦モードだ。いや、確かに武器などは構えたままなんだけど、どことなく雰囲気というか、空気が違う。
「さぁ、行くわよ!」
「ひっ……や、やってやりますぅ!」
グレモリーはお得意の魔法陣ビームをフルールさんの周囲に展開するものの、その全てを回避していくフルールさん。
それらはフルールさんの前には時間稼ぎにすらならず、再びグレモリーとフルールさんの拳打の応酬になる。
……これ、私は手を出さない方がいいかな。なんか、そんな気がする。
女と女の一騎打ちというか……フルールさんから手だし無用、みたいな雰囲気を感じるんだけど。
私はフレンズたちを警戒のために残すものの、私自身既に観戦モードに入っていた。
キャットファイトと言うにはあまりにも恐ろしすぎる女の戦い。私はその戦いを特等席で見守る。
「がっ……」
そして、ついに決着の時が訪れた。
フルールさんの鋭い蹴りが、グレモリーの防御を貫く。
衝撃に声を漏らすグレモリー。その隙を逃さんとばかりにフルールさんは追撃する。
全身に浴びせるように放たれる拳と蹴り。《悪魔特攻》と各種スキルの補正が乗ったフルールさんの攻撃にどんどんHPバーは削れていき、そのHPバーがゼロになる。
スパァン! と音を立てて寸止めされる拳。
ブワッとグレモリーの髪の毛が翻り、瞬間、グレモリーは膝をついた。
その場で、キラキラとした粒子に変わっていくグレモリー。
「ふ、ふふ。まさかこの私が人間たちに倒されるとは……思いもしませんでしたよ。ですが、調子に乗らないことです。この私はこのまま滅びますが、他の私は生きていますからね。もしかしたら、再び相見えることになるかもしれません」
「それってどういう……」
フルールさんがその言葉の真意を聞き出そうとした時、既にグレモリーはそこにはいなかった。
「よっしゃーーーーーー!」
「勝ったぞーーーーーー!」
「第三部完!」
「イベントクリアだーーー!」
「うおおおおおおおおお!」
「宴じゃ宴じゃーーーーー!」
グレモリーを倒し、勝鬨を上げるプレイヤーたち。
だけど、グレモリーの最後の言葉を聞いた私とフルールさんは、お互いに顔を見合わせてため息をつくのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。
第二回イベント編も、そろそろ終わりですね。




