第八十話 第二回イベント25
第二回イベント、七日目続きです。
長かった第二回イベント編もそろそろ終わりが見えてきました。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
『な、なんでタクトがここに……』
そこまで言って、私はハッとタクトの装備を思い返す。
まだ飛行ユニットはギルドメンバー全員には行き渡ってないはず。だから、このサーバーにいる魔機人で空を飛べるのは私だけだと思ってたんだけど……。
今のタクトが装備してるのはマギアグライダー……前の第一回イベントで使った、空を滑空するためのパーツだ。
もちろんそれだけじゃ空を飛べないけど、誰かに飛ばしてもらうなら話は別だ。
恐らく、カンナヅキさん辺りに飛ばしてもらったんだろう。でも、私を守るためだけにそんなことをするなんて……。
『って、タクト、そのままじゃあなたが!』
『大丈夫っス!』
そう力強く言ったタクトは、グレモリーの拳を真っ向から受け止める。
金属のひしゃげるような音と、タクトのなにかに耐えているような声が聞こえた。
いくら魔機人と言っても、あんな重量級の攻撃を真っ向から受け止められるわけがない。それでもタクトは、踏ん張りの効かない空中でその身を使って攻撃を受け止めていた。
目当ての私を倒せずに、忌々しそうな表情を浮かべるグレモリー。
「このっ、なんです、これは!」
『言ったっスよ……やらせないって』
「……まぁいいです。まずはお前からですよ。そのままスクラップにしてやります!」
『タクト!』
『俺のことはいいから、ギルマスは体勢を整えるっスよ!』
『……っ!』
そうだ。タクトに突き飛ばされた私の身体は落下し続けてる。
……そんなことにも気づかないなんて、結構動揺してたみたいだね、私。
私はスラスターを噴射させて姿勢を制御、そのままタクトの元へと向かう。
さっきの音、多分タクトの腕部パーツの耐久値がゼロになって壊れた音だ。いくら私を助けるためとはいえ、そんな無茶な使い方をしたらあっという間にHPまで燃え尽きてしまう。
と、そこでカンナヅキさんの叫び声が聞こえた。
「ミオン! タクトの覚悟を無駄にするな!」
『無駄って……!』
私は思わず背後の地上を振り向く。
そこには、肩で息をしながら斧を振り切った体勢のカンナヅキさんがいた。
多分、フルールさんを飛ばした時みたいにあれでタクトを飛ばしたんだろう。
「あいつは、自分で納得して、お前を助けるためにあそこに行ったんだ! そして、俺たちもな!」
カンナヅキさんはそう言うと、斧を肩に担いで真っ直ぐにグレモリーを見据えた。
そして、そんなカンナヅキさんの周りに集まる命知らずなプレイヤーたち。
あの位置だと、状態異常は猛毒状態だけだったかな……って、十分やばい状態異常だよ!
そんな毒状態をものともしないでカンナヅキさんたちは武器を構えた。
「さすがに、また任せっぱなしってわけにもいかねぇだろ。プレイヤーとしても、男としてもよ」
「そうだぜミオンちゃん!」
「俺たちの見せ場も残しといてくれや!」
「状態異常がなんぼのもんじゃい!」
「麻痺なら俺には効かねぇからな!」
「それを言うなら、俺には石化は効かねぇぜ!」
「ま、毒はくらうけどな!」
「「「はっはっは!」」」
そう上機嫌に笑うプレイヤーたち。
そうか、恐らくあそこに集まってるのは、動けなくなる麻痺か石化のどっちかの状態異常を無効にできる装備を持っているプレイヤーたちの集まりってわけか。
それでも、猛毒状態でHPが尽きちゃうんじゃ……。
『HPは大丈夫なんですか!?』
「それがよ、このゲーム毒や猛毒によるダメージじゃ死なねぇんだ。つまり、どんなに毒をくらってもHP1で生き残るってわけよ」
『一発小突かれただけで終わりじゃないですか! それどこのスペランカーですか!』
「だから、俺たちのことは心配するな! それに、ミオンのところのサブマスも遠くからでも援護するんだって張り切ってたぜ!」
『ヴィーン……』
「ミオン! 俺たちのことは気にせず、好きにやれ! そんであの悪魔をぶっ倒してやれ!」
そう言いながら、拳を突き上げるカンナヅキさん。
私はそれに合わせるようにして、拳を突き出す。
好きにやれ、か。なら、本当に好きにやらせてもらおう。
私は再びタクトに向き直る。
『タクト! 私からはただ一つ! 絶対に死ぬな!』
『……そりゃまた、無茶な命令っスね……でも、分かりました! このタクト、絶対に生き残るっス!』
『よし!』
私は飛行形態にモードシフトして、グレモリーの頭上を目指す。その際、フレンズたちを回収するのを忘れない。
グレモリーは舌打ちをしたものの、私に向けて魔法陣ビームを寄越すことはなかった。私よりも先にタクトを倒してしまおうってことだろうか。
でも、そっちには私たちの頼れる仲間が向かった。私はこのまま空の高みを目指す!
しばらく空を昇っていき、ある程度の位置まで来たところで人型形態にモードシフトする。
どれくらい昇ってきただろうか。だいたい100mくらい? それくらいは上に昇ってきた気がするよ。
私はこの距離でもなお確かに視認できるグレモリーを視界に収めながら、装備を変更する。
腕部をブラッドラインのものへ、武装はいつものマギユナイト・ライフルとディ・アムダトリアだ。
腕部のリングをマギユナイト・ライフルの前に、ディ・アムダトリアのリングはそのまま起動する。
スラスターを噴かせて滞空しながら、両の銃口を眼下のグレモリーへと向けた。
マギユナイト・ライフルをマギスティアモードに変更、そのままチャージを開始する。
地上ではアーツや魔法が飛び交っているのか、派手な色や光が見えている。
私はその中心に居座る、悪魔グレモリーに照準を合わせた。
ゆっくりと、深呼吸をする。こんなところにまでグレモリーのオーラが広がってるとは思ってなかったから、空気があまり美味しくないね。
外すわけにはいかない。これで仕留められるとは思ってないけど、大ダメージを与えてダウンさせるくらいのことはしたいな。
あわよくば、このオーラが消えてくれれば万々歳なんだけど……。
グレモリーを照準内に収めたまま、チャージ開始のためのトリガーを引く。
『ターゲット、ロックオン。対象、悪魔グレモリー。魔力充填、60……75……85……90……100%を突破』
まだだ。マギスティアモードなら、もう少し溜められるはず。
私はじっと照準の先のグレモリーを見据えながら、その時を待った。
そして、その時はきた。
『120……140……魔力充填150%! これ以上は無理か!』
私はカンナヅキさんとフレンドチャットを繋ぐ。どうやら、しぶとく生き残ってるようだ。
『カンナヅキさん! これからどデカいのを撃ち込みます! 巻き込まれないように退避お願いしますね!』
『おう! お前ら! 一時退避だ! ミオンがやらかすぞ!』
『ちょ、やらかすってなんです!?』
そのまま切れるフレンドチャット。くそっ、切られた!
分かりましたよ! なら、盛大にやらかすとしますか!
ピーピーと甲高い音を立てて警告するマギユナイト・ライフルを無視して、ディ・アムダトリアのチャージも開始する。こっちはマギユナイト・ライフルと違ってチャージ時間は短い。
さて、こんな時の台詞は……っと!
『往生しやがれぇぇぇぇぇぇっ!』
トリガーを離す。
すると、溜め込まれた魔力が銃口の前に集まりエネルギーの球体を作り出す。
その球体からリングに向けて発射、増幅される。
激しい音を立てて放たれた、リングによって圧縮増幅された細いビームがグレモリーを目指し、そして――
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
私の放った圧縮ビームはグレモリーの両肩にぶち当たり、激しく光を散らす。そのまま両肩を貫通したビームは身体の中を蹂躙し、激しい爆発を起こす。
グレモリーを中心に爆煙が舞う。私はチャージした分を全て吐き出すと、もしもの時のために腕部と武装をF・ブラッドラインのものへ戻した。
うーん、爆煙でHPバーが見えない。今のでどれくらい削れたんだろうか?
第一回イベントの最後、サブナックだったっけ。あいつに放った時よりも威力は高いはず。あの悲鳴からして、効いてることは間違いないはずだけど。
ショートライフルを構えながら高度を下げていき、煙が晴れるのを待つ。
『……まだ、生きてるか』
煙が晴れたそこには、肩から先が千切れ飛んだ、少し小さくなったグレモリーがいた。
肩で息をしているのか、激しく上下に揺れる。
断面はポリゴンのようなもので彩られ、さすがに肉とか骨とかが見えることはなかった。
グレモリーの両腕は、そのまま光の粒子に変わっていく。
残りのグレモリーのHPは、最後の一本の半分ほどまで削られていた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
エピローグを含めて、第二回イベント編はあと5話くらいで終わるんじゃないかと思ってます。増える場合も減る場合もありますが……。
それでは、続きもどうぞお楽しみください。




