第七十八話 第二回イベント23
第二回イベント、七日目続きです。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
「気合い入れろよ! HPとMP管理はしっかりとな!」
「MPの少なくなってきた人は、試作魔機装から降りて下がってください!」
「タンクは特に気をつけろよ! 交代のタイミングを間違えるなよー!」
カンナヅキさんたちの声が響く。
私は魔機人の初期スキルで自動でMP……じゃなくて、ENを回復する《自動供給》スキルを取得してるからずっと試作魔機装に乗っていられるけど、他の種族だとMP回復系のスキルって貴重だからね。
しかも今はイベント中で、各自が元々持ってるであろうMP回復ポーションも持ってきてない限りは使えない。
採取できる素材でもMPポーションは作れるけど、そこまで数を作れてるわけじゃないって話だ。
今までも何回かタンクプレイヤーや遊撃プレイヤーは、MP残量を管理しつつ交代しながら試作魔機装に乗っていた。後衛も試作魔機装から降りてるプレイヤーが多いし、これからはダメージ量が落ちるかもしれないね。
その分、私たちで火力を出せるといいんだけど。
「惨たらしく死になさい!」
ファイティングポーズを取っていたグレモリーが動く。
右の手のひらに魔法陣を出現させ、それをスライドさせる。
空中に留まるように増えていく魔法陣。グレモリーが身体の正面から側面にかけて腕を動かし、いくつかの魔法陣を宙に浮かばせた。
その魔法陣はクルクルとグレモリーの身体の周りを飛び回るだけで、ビームなどは放ってこない。
一体どういう行動なんだろうか?
考えられるとすれば、敵が近付いてきたら自動で迎撃する魔法陣か、自身の攻撃に合わせて相手を攻撃する魔法陣か。
純粋に強化の魔法陣ってことも考えられるけど、今までグレモリーが使ってきた魔法陣を見てると、自己強化の魔法陣とは思えない。
ここからだと小さすぎてよく見えないけど、今までのと同じ魔法陣な気がする。ってことは、あれからはビームが発射されるはず……なんだけど。
他のプレイヤーたちも現れただけでなにもしてこない魔法陣を不気味に思いながらも、HPバーを削るために攻撃を再開するようだ。
新しく試作魔機装に乗り込んだタンクプレイヤーを中心に、様々な攻撃がグレモリーを襲う。
もちろん私も警戒しつつ、バズーカで攻撃していく。
グレモリーは魔法陣をまといつつ、後衛プレイヤーからの攻撃を避けていった。いくらタンクプレイヤーが詰めているって言っても、相手は巨体だ。
さすがにら四倍近い身長差は伊達じゃなく、タンクプレイヤーも踏みつけを恐れて近くまで寄れていないのが現状で、グレモリーが自由にステップを踏むくらいの余裕はあるみたい。
「いつまでも、守ってばかりじゃっ!」
グレモリーは華麗に後衛の魔法攻撃やバズーカの一撃を避けつつ、タンクプレイヤーに接近する。
その巨大で鋭利な爪を振りかぶり、薙ぎ払う。
薙ぎ払いを受けたタンクプレイヤーたちはブレードでその一撃をガードするものの、衝撃を殺しきれずに勢いのまま吹っ飛ばされた。
穴を開けたままなのはマズいと他のプレイヤーがカバーに入り、グレモリーは舌打ちをしつつ元の位置へと戻っていく。
「グレモリーの動きがよくなってるね。巨体にも関わらずあの俊敏な動きだ。今までみたいにバカスカと攻撃は当てられないだろうね」
『ここからは後衛よりも前衛の攻撃で削っていくしかないかな』
グレモリーの動きを見つつ、ヴィーンとダメージを与える方法について話していく。
最初に比べて目に見えて後衛の攻撃の量が減っているし、密度が少なくなったからかグレモリーに攻撃が当たらなくなっている。
HPバーの減少も緩やかで、このまま後衛メインで戦っているとジリ貧で勝てなくなりそうだ。
カンナヅキさんたちも私たちと同じ結論に至ったのか、後衛にMPの消費を抑えるように通達が届いた。それに合わせて、前衛のタンクプレイヤーと遊撃プレイヤーの比率が変わる。
今まではタンクが八の遊撃が二くらいの比率だったけど、今の編成はタンクが六の遊撃が四だ。その分前衛の攻撃の手数が増えて、グレモリーに与えるダメージ量が増えているようだ。
「ちぃっ!」
その証拠にグレモリーが忌々しそうな表情を浮かべて舌打ちをしている。嫌がっている証拠だ。
さて、私たちはどうしようか。
ヴィーンは元々あまりMPを使わないし、ぬんぬんさんは珍しい自動MP回復系のスキルを持ってる。私は言わずもがなだから、私たちはダメージソースとして活躍はできそうだけど……ここは指示に従っておこう。
私たちがよくても、他のプレイヤーたちのことを考えたらここはEN温存だ。なにが起こるか分からないしね。
特にこのグレモリー戦は色んなことが起こってるから、またなにかあってもおかしくない。
というわけで、私はここからじっくりとみんなの戦いの様子を見てるとしようかな。私たちの出番はあとにあるだろうから。
「俺だって、負けられねぇ!」
「おうおう。いつになく気合が入ってるじゃねぇか、ルフ!」
「ま、ミオンやフルールの姐御の活躍を見ちゃうとなぁ」
「いやいや、あの二人はなんかこう、次元が違くね?」
「うるせぇ! あの二人が活躍してるんだ、俺だってなぁ!」
ルフさんはグレモリーの動きを読んで、試作魔機装のブレードで的確に攻撃を加えていく。その動きに派手さはないけど、とても堅実で確実な一撃だ。《悪魔特攻》と持ち前のスキルが火を噴き、グレモリーにダメージを与えていく。
「ルフにばっかかっこつけさせるかよってんだ!」
「俺たちだってなぁ、やるときゃあやるんだよ!」
「滅神機姫がなんぼのもんじゃい! 格闘女帝がなんぼのもんじゃーーーい!」
「なんなの、こいつら、急に動きが……羽虫の分際で!」
「「「「「羽虫舐めんなゴラァ!!!」」」」」
「ぐぅぅぅぅぅぅ!」
ルフさんを中心とした息の合ったコンビネーションアタック。確実にダメージを与えて、自身は被弾しないように立ち回る。
言葉にすると簡単だけど、実際にやるのは難しい動きだ。しかもそれを複数人と動きを合わせている。見上げるほどの巨体を相手にすごい胆力だ。
しかし、その連撃も長くは続かなかった。
「ぐっ、なんだ、急に息苦しく……」
「なんでこんなに状態異常受けてんだ!?」
「は、はひってふほへへぇ……(ま、まひってうごけねぇ……)」
突然動きの止まるプレイヤーや、目に見えて動きが悪くなるプレイヤーたち。
状態異常……ステータスを確認してみるけど、私のステータスはいたって正常だ。
ヴィーンやぬんぬんさんに確認してみると、二人とも軽度の毒状態だということが分かった。
どうして突然状態異常なんかに……って、前衛が危ない!
私は咄嗟にカンナヅキさんに向けてフレンドチャットを送っていた。
『カンナヅキさん!』
『グッ、ミオンか……その様子だと気付いたようだな』
『はい。私はなんともないんですけど、ヴィーンとぬんぬんさんが軽い毒状態に。カンナヅキさんの方は?』
『ふぅ。今状態異常回復薬を飲んだとこだが、俺は猛毒に一部石化、暗闇の状態異常を受けてた』
随分と酷い状態異常だ。それらを回復するためには万能回復薬か、それぞれに対応した状態異常回復薬が必要になる。
カンナヅキさんの口ぶりから一度に治したと思われるので、使ったのは万能回復薬だろうか。イベントフィールドでも素材を見かけたからそれで作ったものだろう。
『これは俺の仮説だが、この状態異常はグレモリーに近いやつほど酷いものになる。前衛連中が軒並み麻痺でダウンしちまった』
『そうですか……原因はやっぱり、あの粘り着くようなオーラですかね?』
『だろうな。だが、ミオンに状態異常が効かないならこれほど嬉しいことはねぇ。一人で前衛に上がってきてくれないか?』
『了解です。ひとまず空から援護します』
『助かる』
私はカンナヅキさんとのチャットを切り、ヴィーンとぬんぬんさんに前衛に出ることを伝える。
「まぁ、それしかないだろうね。私たちが一緒に行っても、状態異常で動けなくなるだけだ。ミオン、ガツンとやってくるといい」
「ファイトです、ミオン様!」
『……ありがと。じゃ、行ってくる!』
私は試作魔機装をインベントリにしまって空を飛ぶ。
最初に飛んだ時よりも空気が重いというか、嫌な感じだ。このまとわりつくようなねばねばしたオーラ、嫌いだな。
私はふぅ、と息をついて飛行形態にモードシフトする。フレンズたちを射出しながらグレモリーに向けて飛翔する。
「来ましたか、デク人形!」
『羽虫からランクアップしたみたいだけど……全然嬉しくないねっ!』
「まずはお前から落としてあげましょう! 私も、似たようなことができますから!」
私がフレンズを展開したのと同時に、グレモリーの周囲を回っていた魔法陣がそれぞれ独立して動き始める。そして、私のフレンズたちを標的に定めて襲い始めた。
すかさずフレンズたちを動かして魔法陣から逃げようとする。だけど魔法陣はどこまでもフレンズたちを追いかけ、ビームを放ってくるようだ。
魔法陣の対処をフレンズに任せ、私は飛行形態のままグレモリーと、相対する。とりあえず、前衛を立て直す時間くらいは稼がないとね。
またあのゲロカスビームを放たれたらと思うと怖いけど……そんなこと言ってられないか。
さぁ、グレモリーとガチのタイマンだ。……やってやるさ!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
感想の方は近日中に返していきたいと思いますので、もうしばらくお待ちください。
続きもどうぞ、お楽しみください。




