第七十六話 第二回イベント21
第二回イベント、七日目続きです。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
「ちぃ、やはりあの羽虫はひと味違いますか!」
そう叫んだグレモリーは、広範囲に放っていた魔法陣ビームを取り消し、私に向けて複数の魔法陣を展開してきた。しかも、魔法陣の位置は自由に決められるらしく、私の周囲に魔法陣が展開される。
一、二発ブレードで弾いても残りは当たるだろうし、なによりその一撃がコックピットに当たったらどうなるかまでは分からない。
あくまでもさっきのダメージは、肩部の装甲に当たったダメージ。これが直接コックピットに当たるのは避けたいところだ。
いやらしいことに今回も時間差でビームが撃ち出されているようで、魔法陣の展開速度に若干の差がある。
はっきり言って、とても面倒臭い。
でも、考えてる時間もないか。
とりあえずコックピットに当たりそうなビームだけを弾いて、後は装甲で受けよう。
「消えてしまえ!」
『ぐ、うぅ!』
まずは、上空三方向からのビーム。コックピットを狙った一つはステップで避け、残りの二つは装甲で受ける。
襲い来る衝撃。揺れるコックピット。
それでも、受けたダメージは皆無だ。爆煙で周りが見えづらいくらいか。
「そら! そらそら!」
『ちぃっ!』
立て続けに発射される魔法陣ビーム。今度は時間差で四発ずつ、計八発のビームが私を狙う。
《直感》スキルに従ってコックピットを狙っているものだけを避け、弾き返す。
連射されたビームを装甲で受けると、思わず試作魔機装がたたらを踏んだ。
くっ、威力がさっきよりも上がってる。このままだとジリ貧になっちゃいそうだ。
「攻撃の手を緩めるな!」
「ミオンさんには悪いですけど、今のうちに攻撃です!」
「ミオンの死を無駄にするなよー!」
『いや、まだ死んでないんですけど!?』
どうやら、グレモリーの攻撃が私に集中している間にボスのHPを削ってくれているようだ。確かに、さっきよりも格段にHPバーが減るペースが早くなっている。
グレモリーはその攻撃に忌々しそうな表情を浮かべるものの、私を狙うことはやめてくれないようだ。どうやら、私へのヘイトはその攻撃よりも高いみたい。
しかし、このままあの魔法陣ビームをくらい続けるのもよくないし、私自身やられっぱなしってのも嫌だ。なにか手はないかな?
んー、あ、そうだ。試作魔機装で避けきれないなら、降りちゃえばいいんだ。魔機人なら的も小さいし、空も飛べるから避けきれるはず。
それに、ちょっとやりたいこともできた。このゲームならではの戦術が使えるかもしれない。
そうと決まれば早速行動開始だ。次の魔法陣ビームの攻撃に合わせて始めようか。
さっきよりも多くの魔法陣が現れて私を狙う。その第一射が発射されたその瞬間。
『オープン、マギアーム!』
「なんだと!?」
コックピットを開き、その状態で固定したまま試作魔機装をインベントリに入れる。掛け声はなんとなくだ。
そしてそのまま飛行形態にモードシフト。試作魔機装を狙った魔法陣ビームは空を切る。
「なら、当たるまで撃ち込むまで!」
第二射、第三射の魔法陣ビーム群が発射された。私はそれを高速機動で回避し、グレモリーの元へと向かう。
魔法陣は私を追っかけてきているみたいで、続々とビームが発射されていく。
私はその場でスラスターを噴かせて高度を上げる。これで私を狙ったビームがグレモリーに当たってくれたらめっけもんだ。
「ダーク・スナイプを避けて私に当てようとしているのでしょうが、私が私の魔法をくらうとでも?」
『ですよねー』
そうは問屋が卸さないとばかりに、グレモリーの身体に当たりそうなビームがねじ曲がる。さすがに自滅は狙えないか。
でも、私の狙いはそれじゃない。グレモリーの頭上高くまで上昇した私は人型形態にモードシフトして、インベントリから試作魔機装を取り出す。
そのままコックピットに乗り込んで、ブレードを構えた。
『チェェェェェェェンジ、マギアームワンっ!』
掛け声はなんとなくだ。別にマギアームツーやマギアームスリーがあるわけじゃないよ? ただ、こういう攻撃をする時の様式美かなって。だってその方がかっこいいし。
やっぱ戦闘中に変形合体できる魔機装を作るべきかな。設計図さえ作れれば作れると思うし。まぁ、その設計図を用意するのが大変なんだけどね。
まさか頭上から空を飛べない5mもある試作魔機装が降ってくるとは思ってなかったようで、グレモリーは呆然としたような、ぽかんと口を開けた表情を浮かべてその場で固まっていた。
ただ、魔法陣ビームだけは自動追尾式なのか、私の後を追っかけてきているようだ。だけど、一度上空に昇ったからか、下に降りてくるまで時間がかかっているようだ。
なら、今のうちに!
『マギアァァァァァム、ブレェェェェェドっ!』
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
高高度から落下しながらの斬撃、《悪魔特攻》付き。その一撃はグレモリーを深く切り裂き、大ダメージを与えることに成功する。
地上に降りた私は再び試作魔機装をインベントリにしまって、ヴィーンたちのいる後衛に戻った。いつまでもここにいたらタンクプレイヤーたちの邪魔になるからね。
目に見えてHPバーが減ったようで、プレイヤーたちの攻撃にも気合いが入る。特に今は大ダメージでグレモリーが怯んでいる状態だ。まさにボーナスタイムみたいなものだろう。
どうやらあの防御に定評のある翼も動きが散漫のようだ。今ならある程度攻撃は当て放題だろう。
既に魔法陣が私を追いかけてこないことを確認した私は、安心して後衛の位置まで戻った。
「お疲れ様。まさかあんな方法があるとはね」
「空を飛べるミオン様ならではの攻撃ですね!」
『ははは。多分、空を飛ぶ魔機人なら同じことをやってると思うけどね』
「ミオン様以外にも空を飛べる魔機人プレイヤーが?」
『うん、いるよ。私と同じくらい強くてかっこいい人がね』
あの、漆黒の叛逆者、ダリベさんならこれくらいやっても不思議じゃない。いや、あの人なら絶対やる。こんな絶好のチャンスを逃すとも思えないし。
さて、後衛に戻ったことだし、後衛の仕事を始めますか!
『さ、じゃんじゃん撃つよ!』
「そうだね。ダメージは与えられるときに与えた方がいい」
「ですね」
再び試作魔機装に乗り込んだ私は、《悪魔特攻》の乗ったバズーカを何発も撃ち込んでいく。
グレモリーの残りHPバーは二本と五分の一程度。もうすぐ三本目のHPバーが削りきれるだろう。
ヘイトを集めすぎてる私がグレモリーの攻撃を集中して受けているからか、今のところ少量の死に戻りを出すだけで済んでいる。
だけど、イベントのボスがそう簡単にやらせてくれるとも思えない。相手の行動をは細心の注意を払っておかないとね。
グレモリーのHPバーの三本目が削り切れた。そして怯み状態も終わったのか、攻撃を弾き返すようになった翼と両腕。
さすがにボスがいつまでもダウンしているなんて思ってないから、衝撃はない。さて、どう行動する?
グレモリーは戦いで乱れた髪の毛を整えて喋り出す。
「たかが羽虫と、ヒト型種族を侮っていたようでふ。今のお前たちは、昔の羽虫共とは違うと言うことですか」
ボスの会話シーンなので、誰も攻撃を挟まない。
こういう時に攻撃してもいい結果にならないのは、みんな色んなゲームで経験済みなんだろう。
ボスによっては大変なことになるからね。会話シーンが終わるまで静観の構えだ。
私? もちろん攻撃なんてしないよ。
もし攻撃して、またあのゲロカスビームで狙われたらと思うと……とても攻撃する気はおきないね。
「私をここまで傷つけたこと、誇りに思いなさい。そして、そのまま死んで逝きなさい」
グレモリーの体に変化があった。
まず、さらに身体が大きくなった。さっきまでが15mくらいだったのが、20m近くまで大きくなっている。
さらに普通の女性のような脚だったものが、太く、強靭になり鋭利な爪が生え揃った。まさに腕の変化と同じ感じだね。
また、翼の枚数も増えたようで、二対四枚の少し大きめの翼に変化しているようだ。
側頭部からは捻れたような、まさに悪魔の角と言うべきものが生えてきて、肌の色も色白から褐色に変わっていく。
これが彼女の本当の姿なのだろうか? でも、今の姿はフリーザ様で言うところの第三形態だ。あと一形態くらい姿を残していても不思議じゃないね。
「私にこの姿を取らせたこと、褒めてつかわそう。そして、そのまま死ね」
フィールド全体を、闇のオーラのようなものが包んでいく。特に私たちに悪影響を与えるものではないみたいだけど、周囲の雰囲気がおどろおどろしく、暗い雰囲気に変わっていった。これじゃまるで、太陽を失った世界みたいだ。
私は改めて深呼吸する。
さて、第三ラウンド開始ってところかな?
私たちは改めて己の得物を構え直す。まずは、グレモリーの行動パターンや攻撃方法がどんな風に変わったかの確認からだね。
私たちはグレモリーの一挙手一投足を見逃さないようにしながら、攻撃を待った。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




