第七十五話 第二回イベント20
新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
では、第二回イベント、七日目続きです。
新年も引き続き本作品をお楽しみください。
「見た目以上にリーチが長いぞ! 攻撃範囲を見誤るなよ!」
クラッドさんの声。どうやら、グレモリーのなぎ払いにも変化があったようだ。
腕が長く、太くなり、爪も伸びたために攻撃範囲が想像以上に広くなっているみたい。タンクプレイヤーたちに指示を出している。
タンクプレイヤーたちには辛いかもしれないけど、ここは頑張ってほしいところだ。少なくとも、後衛や遊撃プレイヤーにあのなぎ払いは受け止められない。
変化前のグレモリーの攻撃は、なぎ払い、叩きつけ、踏みつけ、魔法攻撃の四種類がいくつかのパターンに分かれていたようだが、変化後のグレモリーの攻撃パターンはかなり読みにくくなっているようだ。
まず、そもそものなぎ払い、叩きつけの攻撃範囲と威力が違う。身体と腕が大きくなったことによる影響が大きい。
踏みつけ自体も身体が大きくなったことで攻撃範囲と威力が増している。
魔法攻撃にいたっては、今まで使っていた各属性の魔法ではなく、闇属性のビームのようなものを魔法陣から撃ち出すようになった。
このビームの威力がまたとんでもない。魔法防御力の低いプレイヤーだとこの一発をくらっただけで瀕死だ。
幸い、このビームは未だにタンクプレイヤーにしか放たれておらず、また、タンクプレイヤーたちの魔法防御力はそれ以外のプレイヤーの魔法防御力と比べてかなりのものになっているので、一発で瀕死になることはない。
のだが、このビームは一度に複数展開が可能で、もし複数のビームに同時に狙われでもしたらタンクプレイヤーと言えども死に戻りの危険がある。
その場合は回りのタンクプレイヤーが庇うしかない。幸いなのは、ビーム魔法は対象がかなり分かりやすいので庇うことができずに死に戻ってしまったということがないことかな。
ビームの属性は闇属性のようで、タンクプレイヤーの装備によってはダメージが軽減されているみたい。まぁ、現時点で属性耐性装備って貴重な装備だから、攻略組とかそこら辺の最前線プレイヤーだろう。
……あのビームよりも強いゲロカスビームをくらってたらどうなってたんだろうか。咄嗟に上に逃げたから被害はなかったけど、あれが地上に向けられてたらと思うと……怖いね。
また、小さな翼も厄介だ。
グレモリーの身体の大きさに対して小さな翼と言っているが、恐らく片翼で2mから3mくらいの大きさはあるだろうか。
それらの翼が後衛の魔法攻撃を防御したり、遊撃プレイヤーの攻撃を跳ね返したりと、盾やマントの役割を果たしている。
翼からなにか飛んでくるんじゃないかと身構えていた私からしたら拍子抜けだけど、これはこれでダメージが減るのでよろしくない。
「光属性、または聖属性の魔法を持ってる人はその属性で攻撃してください! 明らかにダメージの減りが違います! 恐らく弱点属性です!」
「属性アーツを持ってるやつも、もし光属性のアーツがあったらガンガン使ってけ! 持ってないやつは試作魔機装のバズーカだ! まずは一本、減らすぞ!」
「「「おう!」」」
後衛プレイヤーと遊撃プレイヤーに指示を出し、自らも光属性の魔法を撃ち込む醤油差しさん。どうやら《悪魔特攻》の乗ったバズーカよりも醤油差しさんの放つ光属性魔法の方が威力は上みたいだ。
しかも、バズーカよりも連射が効く。その分MP消費も激しいけど、試作魔機装に乗っててもMPは常時消費するからどっこいどっこいだろう。
「なら、私も光属性魔法にします!」
ぬんぬんさんは今まで放っていた爆発系魔法の【プロード】ジャベリンでなく、光属性の魔法で槍を作り出す。
「【ライトボール】!」
魔法を唱えたぬんぬんさんの手のひらに、光の球体が姿を現す。本来であればそれを撃ち出すところ、ぬんぬんさんは《魔法器術》スキルの力で槍の形に作り替えていく。
槍の形になったそれをギュッと掴み、力を込めて投擲する。
【ライトボール】ジャベリンとなったその槍は見事にグレモリーの身体に突き刺さり、霧散する光と共にダメージを与えていった。
「ぐ、うぅぅぅ!」
効いてる。プレイヤーたちが攻撃方法を変えてから、与えるダメージ量が加速しているようだ。翼による防御も、光属性の攻撃は多少なりとも貫通してしまうみたい。
特に、刺さりやすい形状の光属性攻撃は効果大だ。
「【ライトボール】! 【ライトボール】! んんっ、【ライトボール】!」
【ライトボール】ジャベリンを三連続で投げつけるぬんぬんさん。魔法を武器の形にして投げつけるっていうとんでもない攻撃方法だからか、普通に当てるよりもダメージが大きい。
スキル自体に補正がかかってるんだろうけど、その威力は魅力的だ。なによりかっこいい。
「光の矢よ!」
ヴィーンの持つアローから光属性の矢が生み出され、弦を引き絞り、放つ。
山なりに飛んで行った光の矢は見事にグレモリーの身体に突き刺さる。
本来であれば無属性魔法攻撃の矢を生み出すアローだけど、親方の度重なる改良によって、属性鉱石を消費して一定時間その属性の矢を放てる仕様になっていた。
今のヴィーンは光鉱石を砕いていて、それにより光の矢を放っている。どうやら、最初に持ってくるアイテムのうち二つを鉱石系のアイテムにしていたそうだ。
どんな敵が出てもいいように光鉱石と闇鉱石を持ってきているらしい。
確かに、その両方の属性の攻撃が効かない相手なんて現状いないからね。私たちとPTを組むって分かってるからこその判断だ。
さてさて、私のEN残量は……七割ってところか。
これくらいなら、戦えるね。
今まで休ませて貰った分、働くとしますか!
私はその場で立ち上がり、ぐるぐると肩を回す。別に機械の身体だから凝るってことはないけど、いつもの癖だ。
インベントリから試作魔機装を取り出して、コックピットに乗り込む。
『システムオールグリーン。試作魔機装、起動!』
ヴン、とメインモニターが点灯する。動きの調子を確かめて、グレモリーに向かってバズーカを構えた。
『どっせい!』
撃ち出された魔力弾はズガァン! とグレモリーの身体に当たりダメージを与えていく。自動回復量と消費EN量を考えて、回復するEN量を調整しながらバズーカを撃ち込む。
そのままバズーカを撃ってたら少しヘイトを稼ぎすぎてしまったようで、グレモリーの魔法陣ビームが私に向かって飛んでくる。
魔機人の魔法耐性を侮ってるわけじゃないけど、わざわざ攻撃をくらうのも面倒だ。できる限り迎撃させてもらおう。
私は左腕にブレードを装備して、私に飛んできたビームを切り裂く。
多少の抵抗はあったものの、ブレードにも魔機人の魔法耐性が乗ったのか、《悪魔特攻》のおかげかは分からないけど、ブレードによって切り裂かれたビームが私の後方に向かって飛んでいき、爆発を起こす。
それを見たぬんぬんさんは両手を上げて、キラキラした目で私を見てくる。
ヴィーンの方は関心半分呆れ半分といったところか。
「さすがはミオン様! かっこいいです素敵です!」
「それ、ビームも切れるのかい?」
『切れちゃったねぇ……っ、次来るよ!』
ビーム発射の予備動作。今度は二つの魔法陣が煌めき、二本のビームが時間差で撃ち出された。
なんだか私に対しての攻撃だけ容赦がない気がするんだけど気のせいかな? グレモリーがすごい顔で睨んできてたけど気のせいだよね?
まぁ、私に攻撃が集中するならその分他のプレイヤーが動きやすくなるからいいんだけどさ。……私になにかボスを惹き付けるなにかがあるのかな?
まず、最初に飛んできたビームをブレードで弾く。
弾いた時、ビームの飛び先が誰もいないフィールドなのを確認する。これで誰かに当てちゃったら問題だからね。
続く第二射。今の私はブレードを振り切ってる状態なので、そのビームは甘んじて受ける。
もちろん受ける場所も胴体やコックピットのある背中じゃなく、ブレードを持っている側の腕で受けた。
衝撃でコックピットが揺れる。
揺れが収まった後、急いで試作魔機装の耐久値を確認した。
……全然減ってないね。魔機人の魔法耐性って結構大きいみたい。これなら、ある程度ビームは無視してもよさそうだ。少なくとも、二十回ほどくらっても問題はないレベル。
カメラからも機体にダメージがないことを確認した私は、再びバズーカを撃ち込んでいく。
多少の被弾は覚悟の上、だ。手数で攻める!
まだまだ戦いは続く。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞ、お楽しみください。




