第七十四話 第二回イベント19
第二回イベント、七日目続きです。
投稿が遅れて大変申し訳ございませんでした。
もしかしたら来週から投稿頻度を週五から週四に落とすかもしれません。
それでは、引き続き本作品をお楽しみください。
『さて、東側は確か醤油差しさんが担当してたはずだけど……』
私が上空から東側の戦場を見渡すと、蟻たちとプレイヤーが入り交じった大乱戦となっていた。どうやら背後に現れた蟻たちに対処しきれなかったみたいだ。
フレンズを飛ばして蟻たちの数を減らしつつ、醤油差しさんを探す。
『見つけた』
醤油差しさんは杖を持って攻撃魔法を扱う魔法後衛職プレイヤーで、彼の周りにいる蟻はドッカンドッカン吹き飛んでいく。恐らく爆発系の魔法を使ってるんだろう。
醤油差しさんの魔法に巻き込まれないようにしつつ、上空から醤油差しさんに声をかける。
『醤油差しさん! 大丈夫ですか!?』
「ミオンさんか! なんとかね! こう数が多いと、魔法の使いがいもありますよ! 【プロード】!」
醤油差しさんが杖を構えると、その先端になにやら文字のようなものが浮かび上がり、同じような文字が蟻の頭上に現れ、爆発を起こす。
爆発はその蟻を吹き飛ばすだけでなく、爆風で辺りの蟻たちも同時に吹き飛ばしていた。さっきのドッカンドッカンの正体はこれだね。
なるほど。爆発系の魔法は空間座標を指定して発動する魔法なんだね。
それにしても、座標指定の速度が早い。スキル+PSってところかな。
私が感心していると、ENを補給しにフレンズたちが戻ってきた。ENを急速充電して、再びプレイヤーたちの援護に向かわせる。
『助けは要ります?』
「僕の方はまだ余裕があるので大丈夫ですが、他のプレイヤーが心配です! そちらの援護をお願いします!」
『了解です!』
私は戦場を一瞥し、プレイヤー側が不利になっている場所にフレンズを向かわせる。これで少しは持つだろうか。
スラスターを噴かせて、私が直接行かないとマズそうな場所を目指す。勢いを乗せたまま人型形態にモードシフトした私は、まさに倒れたプレイヤーに噛みつかんとしている蟻の頭部に蹴りを入れた。
蟻の頭部に深々と突き刺さった足を引き抜くと、ビクンと跳ねたあと光の粒子に変わっていく。
呆然としているプレイヤーは放っておいて、周りの蟻たちの対処に入る。
ショートライフルを両手に持ち、ウィングバレルも展開した。それらを周囲の蟻たちにロックオンし、トリガーを引く。
ビームの雨あられが蟻たちを襲う。頭を、腹を貫かれた蟻たちは耳障りな鳴き声を上げて光の粒子に変わっていった。
フレンズを四基ほどこちらに戻して、呆然とこちらを見ているプレイヤーを再起動させる。
『ほら、しっかりして!』
「へぶぶぶぶぶぶ」
頬を何度か叩くと、目の前の男性プレイヤーは正気を取り戻したようで、「あれ、生きてる……?」と不思議そうな顔をしていた。
『とりあえず周りの蟻は片付けたから、あとは自分でなんとかしてね!』
「片付けたって……あ、ああ。分かった」
少し上擦ったような声を上げるプレイヤーを残して、私は空へと飛び立つ。ある程度高度を上げたところで飛行形態にモードシフトし、次の戦場へ向かう。
そこでフレンズたちが戻ってきたので、再び急速充電。
まだEN残量にはまだ余裕があるけど……これを何回も続けるならどこかで休まないと。
眼下の戦場を確認しながら飛んでいると、何匹かの羽根付きがこちらに飛んでくるのが見えた。羽虫が空を飛んでいるのは鬱陶しいとか、そんなところだろうか。
グレモリーがチラリと私を見てクスクスと笑った。
私はそれを見てフッ、と笑う。
いいね。テンション上がってきた!
羽根付きたちの方へ振り向きつつ、人型形態にモードシフトする。また、同時にメニュー画面も操作し、人型形態に戻った瞬間に腕部パーツを切り替えた。
右手には展開状態のディ・アムダトリア。左手には展開状態のマギユナイト・ライフル。既に左右のリングはマギユナイト・ライフルの前方に展開済み。
ウィングバレルとフレンズたちも全基展開させ、翼を広げて滞空しつつピッピッピッと羽根付きたちをロックオンしていく。
どうせならと、他のプレイヤーに向かっている羽根付きも同時にロックオンする。
『当たれぇっ!』
全ての砲門が火を、否、ビームを噴く。
放たれたビームたちは狙った通りに羽根付きたちの頭部を貫き、その身体を光の粒子に変えていった。
ライフルフレンズが仕留め損ねた羽根付きは、責任をもってソードフレンズが仕留めていく。
『次ぃっ!』
再び複数の羽根付きをロックオン。トリガーを引く。
ナーフされたとは言えリングの増幅効果は凄まじく、その射程も比べ物にならないくらいに伸びていた。
時折立ち位置を変えつつ、羽根付きを狙っていく。
私のENが半分になる頃には、東側だけでなくほぼ全域に散らばっていた羽根付きを光の粒子に変えていた。
「な、なんだと……ぐっ!?」
驚愕の表情を浮かべるグレモリーに、リングで増幅されたビームをぶっぱなす。
ビームはグレモリーの左目に当たったらしく、「おぉぉ……」と左目を押さえながら呻いていた。当たり所がよかったみたいだ。
「このっ、ゲロカスがぁ!」
グレモリーが私に向けて口を開く。その中にかなりの魔力が込められていると感じた私はすぐさま装備を変更。飛行形態にモードシフトして、加速しつつ高度を上げる。
「【悪魔の咆哮】!」
グレモリーの口内から放たれたのは、禍々しい色の咆哮。紙一重のところで咆哮を避けて、グレモリーの様子を確認する。
グレモリーは咆哮を放ちつつ、私を見て笑っていた。
そして、咆哮を放ったまま顔の向きを変える。グレモリーが放っていた咆哮がその向きを変えて私の方へ近付いてくる!
『って、それ持続式なのっ!?』
「身の程を弁えなさい、ゲロカスの羽虫ぃ!」
『くっ、おぉぉぉぉぉっ!』
グレモリーの咆哮に捕まらないように右へ左へ、上へ下へと縦横無尽に動き回る。私のすぐ後ろを黒と紫が混じったビームが追いかけてくるんだから堪らない。
「このっ、しぶとい!」
『絶対にくらうもんかぁぁぁぁぁぁっ!』
私とグレモリーが一進一退の攻防を繰り広げる中、カンナヅキさんの声が響く。
「――今のうちにグレモリーに攻撃だ!」
「しかし、俺たちにあのビームが向いたらどうする!?」
カンナヅキさんの言葉に反応したのはクラッドさんだろうか。その気持ちも分からなくはない。
私だって必死に避けてるけど、当たったらどれだけのダメージが入るのか。想像しただけで怖くなってくるよ。
「クラッド、よく聞け。今のグレモリーはミオンにご執心だ! グレモリーがいつまであの攻撃を続けるのか分からないし、ミオンがいつまで避け続けられるかも分からない。なら、このチャンスを逃す手はねぇ!」
「僕も同感です。今のうちにありったけの攻撃をぶつけましょう。グレモリーが攻撃に怯めば、ミオンさんを襲っているあのビームも止まるはずです」
カンナヅキさんと醤油差しさんの言葉に、小さく「分かった」と答えるクラッドさん。
前方に羽根付きはおらず、後方の蟻たちもほぼ全滅状態。陣形を整えて、グレモリーと対峙するプレイヤーたち。
当のグレモリーはずっと私に向かって咆哮を放ち続けてるけどね。てかほんとにいつまで続くの!?
「攻撃開始ぃ!」
「「「『「おうっ!!!」』」」」
そしてプレイヤーたちから色とりどりの魔法や、試作魔機装のバズーカ、アーツなどが放たれていく。
その一つ一つは大したダメージがなくても、着実にダメージは与えられている。
やはり試作魔機装の《悪魔特攻》は効くのか、バズーカが当たる度にガックンガックンHPバーが減っていく。
……まだ私を追いかけてくるんだね!?
『こうなったらどこまでも逃げ切ってやる!』
「ゲロカスがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
『……ゲロカスゲロカスうるさいなこの悪魔!』
悪魔の咆哮、もといゲロカスビームを避け続ける私。これ、もしかしなくても狂乱モード(主に、特定の条件下でボスの攻撃が熾烈になること)入ってたりする? もしくはペナルティだったり?
フレンズは全基収容したし、スラスターに全てのENを突っ込んでるけど、凄まじい勢いで残りENが減っている。
このままENが尽きたらあのゲロカスビームに呑み込まれるだろう。
……それまでにはこのゲロカスビームが収まってることを祈るしかないか。頑張って、みんな!
私の祈りが通じたのか、五本あるHPバーのうち一本が削れ、二本目の半分に差し掛かった頃、私の背後から迫ってきていた圧力が消える。
チラッとグレモリーを確認したら、私を追ってきていたゲロカスビームは綺麗さっぱりなくなっていた。
……ふぅ。なんとかなったみたい。ENの残量は……二割ってところね。ひとまず休まないと……ここまでENが減ったのは初めてかもしれない。ENがないと空も飛べないし、試作魔機装も動かせないからね。
ヴィーンとぬんぬんさんがいる後衛に戻り、その場に座りこんだ。
「お疲れ様。ミオンの様子はバッチリと録画に残しておいたよ」
「お疲れ様です! ミオン様の動き、凄かったです!」
『ありがと。いやぁ、逃げるのに必死で反撃もできなかったよ。攻撃属性は魔法だろうから多少は軽減できるだろうけど、あれに当たってたらどっかに墜落してたんじゃないかな』
「墜落……で、済めばいいけどね」
『まぁ、高高度落下ダメージで即死に戻りだろうねぇ』
そう考えると、やっぱり危なかったね。ヒヤヒヤものだ。
まぁ、半分楽しんでやってたところもあるから。アニメみたいな動きができて満足だ。
さて、戦況はどんな感じかなっと。
「押せ押せー!」
「そこです!」
「今のうちにダメージ稼げよー!」
「二本目のバーを削り切ったぞ!」
どうやらグレモリーが立ち直るまでにかなりのダメージを与えたようだ。残りHPバーは三本まで減っている。
正気に戻った(?)グレモリーは忌々しそうに表情を歪めながら、眼下のプレイヤーたちを見回した。
腕を引いて構えた……なぎ払いか?
「くっ、羽虫共が……!」
「反撃くるぞー! タンク、構え!」
「その程度……ちぃっ!」
「後衛、攻撃再開!」
グレモリーのなぎ払いは前衛のタンクプレイヤーによってダメージを軽減され、再び後衛プレイヤーによる攻撃が始まった。派手なエフェクトがドッカンドッカン輝いている。
「ほい、ほい、ほいっと!」
ぬんぬんさんは《魔法器術》で槍の形にした魔法を、ガ〇ダムのビームジャベリンのように投擲していた。
いやぁ、便利なスキルだね。しかもかっこいいし。
「――ふっ!」
ヴィーンはアローの特性である魔力の矢を生成して放っている。ギリギリまで引き絞られてから放たれる矢のダメージは、無属性とはいえ侮れない。
むしろ、各種属性の耐性が効かない分厄介な攻撃だろう。親方によってちょくちょくアップデートもされてるようだしね。
さて、私のENはどのくらいまで回復したかなっと。んー、四割弱かな。もう少し様子を見たいところだ。
こういう時に、MPポーションとか使いたいって思うよね。その分自動回復が優秀なんだけどさ。
「……ふぅ。羽虫程度に少し手こずって、精彩さを欠いていましたか。いけないいけない。ですが、存外強い羽虫なのは認めざるを得ないでしょう」
グレモリーの声。どうやら次のステージに進んだみたいだ。
現在の残りHPバーは二本半。ちょうど半分くらいまで削れてるね。
次はどう来るのか。休んでいるとはいえ、ボスから目を離すことはできない。
「ですので、少しだけ本気を解除しましょうか。むん!」
全身に力を込めるグレモリー。すると、その身体がみるみるうちに大きくなっていき、現在の1.5倍……およそ15mほどにまで巨大化した。
腕も、女の細腕から鋭利な爪が伸びた悪魔の腕へと変貌している。
背中にも小ぶりだが新たに翼が生えていた。翼の強度によっては強力な盾になるだろう。なにせ、あの大きさだからね。
まさに、HP減少によるボスの形態変化だ。しかもHPバーが二本半から三本に回復している。
「では、第二ラウンドと参りましょう」
「なぎ払いに気を付けろよ! ダメージはさっきの比じゃねぇぞ!」
「新しい攻撃にも気を付けてください! 大技の兆候があれば下がることも忘れずに!」
カンナヅキさんたちの指示が飛ぶ。もう少しENが回復したら攻撃に参加しようか。
グレモリーとの戦いは、中盤戦に突入しようとしていた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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