第七十三話 第二回イベント18
第二回イベント、七日目続きです。
昨日は更新できなくて申し訳ありません。これからも更新ができない時は活動報告の方で報告させていただきます。
それでは、引き続き本作品をお楽しみください。
「さて、ようやくここまでやって来たか……」
突如現れた翼竜と協力し、羽根付きたちを倒したあと。
仕事は終わったとばかりに去っていく翼竜たちを見送り、私たちは封印の地へと辿り着いていた。
ちなみに、《テイム》スキルを持ったテイマープレイヤーが翼竜の【テイム】(モンスターを手懐けて仲間モンスターにするアーツ)に成功し、空戦の戦力アップしたのは嬉しい誤算だ。
テイムされた翼竜はテイマープレイヤーによく懐いているらしく、さっきも首元の鱗を触られて嬉しそうにしていた。こうやって見ると、翼竜も可愛く思えてくるね。きっと彼らはこれからワイバーンテイマーとして有名になっていくだろう。
まぁ、テイマープレイヤー以外には懐いてないから、触ろうとしたプレイヤーが吹っ飛ばされるのは当然のことだ。派手に吹っ飛んだ割にダメージが少ないから、いい防具を着ているのだろう。
悪魔の封印は、結晶のようなもので覆われているみたいだ。すでにいくつかヒビが入っていて、封印が解けかかっているのが見て取れる。
時間でヒビも大きくなっているので、時間が経てば結晶が割れて復活することだろう。
今は草原、山脈、大森林区域のトップ同士で作戦を考えているところだ。
そんな場になんで私がいるかって? 前回のイベントで悪魔と直接戦ったプレイヤーだからって呼ばれた感じだ。
と言っても、カノンやクラリスの話を聞いてる感じ、同じ悪魔でも戦い方が違うんだよね。しかも今回のは巨大な女性型悪魔だ。どんな戦い方をしてくるのかなんて予想しようもない。
今のところ話に上がっている戦闘方法は、タンクプレイヤーが試作魔機装に乗り込んで前衛を担当。悪魔の攻撃を捌きつつ、後衛のプレイヤーでダメージを与えていくというものだ。
タンク以外の前衛プレイヤーには遊撃という形で隙あらば近付いて攻撃、狙われる前に離脱というヒットアンドアウェイで戦ってもらうらしい。
まぁ、一番無難な戦い方だね。相手の出方次第で様々な対応が取れるのが強みだ。仮にタンクプレイヤーが大ダメージを受けても、一時的に前衛プレイヤーがタンクの代わりを務めることも可能だしね。
それに、試作魔機装自体が結構大きいから、戦闘に参加できるプレイヤー数も少なくなる。一定時間で交代しつつ戦う予定で、仮にある程度のプレイヤーが死に戻っても十分に倒せると踏んでいるようだ。
他に特に案も出なかったので、ひとまずはこの戦い方で戦ってみることになった。私の役目は後衛からバズーカで撃ちまくる後衛ポジション。
場合によっては前に出て戦うかもしれないね。
各自別れて自分のポジションにつく。
後衛の私の近くには、同じく後衛のヴィーンやぬんぬんさんが居た。どうやら二人とも、試作魔機装のバズーカではなく、自前の攻撃手段で攻撃するようだ。
「私たちはミオンほどMPに余裕があるわけではないからね」
「MPポーションは持っているとはいえ、試作魔機装に乗ってたら消費量がバカにならないので……」
『なるほどね。じゃあ二人とも、私の肩かコックピットの上に乗りなよ。あ、バズーカを持ってる方の肩には乗らないでね。衝撃で落とされちゃうかも』
「いいのかい? 助かるよ」
「ありがとうございます、ミオン様!」
『いいっていいって』
私はその場でしゃがんで二人を手のひらの上に乗せ、ヴィーンを左肩に、ぬんぬんさんをコックピットの上に乗せる。
その場でバズーカを構えたり、動いてみたりして、二人が振り落とされないか確認していく。
どうやら、急に走り出さない限りは大丈夫みたいだね。最悪の場合、二人を両手で保護して走ろう。バズーカ? 二人が死に戻るくらいならその場に捨てていくよ。
『お前ら! 準備はできたか!』
私たちの準備が終わった頃、カンナヅキさんから全体チャットが入る。プレイヤーたちは思い思いの返事を返していた。準備が終わっていないプレイヤーはいなさそうだ。
『これから俺たちは、このどデカい悪魔を倒す! 作戦は先ほど伝えた通りだ!』
『この七日間のサバイバルも、この戦いを残すだけになりました。みんな、悔いのないように全力で戦いましょう!』
この声は醤油差しさんかな? 最終決戦の雰囲気に、みんなのテンションが否応なく上がっていく。
『俺たちの全力を以て、かの存在を打ち倒す!』
『怯むな、戦え! そして、危険だと思ったら一歩退く勇気を持て!』
『このイベントの最後を、私たちの勝利で彩りましょう!』
みんな、三人の言葉を目を輝かせて聞いている。拳に力が入り、足は駆け出したくてうずうずしている。
今か今かと、その時が来るのを待っていた。
そして、バリィンというなにかが壊れる音と共に、声が聞こえる。
「――あらあら、羽虫がいきがっちゃって」
女性の声。聞き覚えのある声だ。
壊れたのは悪魔の封印されている結晶。その結晶の中から現れたのは、とても美しい顔をしている女性だ。
腰の長さまで届くような銀髪。真っ赤な血を彷彿とさせる赤い目。
そしてなによりも、その美しい顔に似合わない醜悪な表情を、彼女は浮かべていた。
それは、嘲笑。
私たちプレイヤーを嘲笑うかのような酷薄な笑みを浮かべていた。
「でも、ひとまずはお礼を言っておきましょう。あなたたち羽虫のおかげで、私に施された封印を無理なく解くことができました。羽虫も、役に立つものです」
羽虫、羽虫ね。
私たちは悪魔にとって所詮、その程度の存在ってことだよね。
でも、その余裕がどこまで続くかな?
私たちは、強いよ。
「いいでしょう。私を解放してくれたお礼に、私の手で直々に葬ってあげます。……ああ、私はなんて優しいのでしょうか。羽虫程度には、私の手で逝くことなど、過ぎた幸福でしょう」
『『『プレイヤーを舐めてんじゃねぇぞ(るんじゃありませんよ)、このクソ悪魔!』』』
『総員、戦闘準備!』
「では、私の慈悲を与えましょう」
『戦闘、開始!』
「「「「『おうっ!!!!!!!』」」」」
そして悪魔……グレモリーとの戦闘が始まった。
戦闘開始と共にグレモリーの頭上にHPバーが伸びていく。その数は五本。さて、一発目でどれだけ削れるか。
まずは私たち後衛がグレモリーにダメージを入れる!
『ヴィーン、ぬんぬんさん、いくよ!』
「ああ。あの女には、私も少し腹が立った。まずはその顔に矢を突き立ててやろうじゃないか」
「私のミオン様を言うに事欠いて羽虫ぃ……? こいつ、絶対許さないっ!」
あ、なんか二人ともすごいやる気っぽい。いや、私もやるんだけどさ。
ヴィーンはOC001-アローを構えて、光の矢を生成していく。それをアローに番えて、力の限り引き絞り、矢を放つ。
ぬんぬんさんは、いつも剣の形にしている魔法を巨大な砲塔の形にして、巨大な弾を撃ち放つ。見た目はすごいMPを使ってるように見えるんだけど、これでも普段と変わらない消費量なんだとか。そりゃ試作魔機装に乗らないで普通に魔法使うよね。
私も負けじも、右手に構えたバズーカを狙いやすいグレモリーの胴体に向けて、トリガーを引く。
放たれた魔力の奔流が、狙い通りにグレモリーの胴体に向かっていった。
「ぐっ……!」
その他にも、様々な遠距離攻撃がグレモリーに飛んでいき、その全てがヒットする。私たちの攻撃が多段爆発を引き起こしてグレモリーが仰け反った。
試作魔機装の攻撃は《悪魔特攻》が乗るからダメージもそこそこ高いはずだけど、 どれだけのダメージになったかな?
「どんなもんじゃーい!」
「悪魔がなんぼのもんよ!」
「おらおら、撃って撃って撃ちまくれぇ!」
爆発の煙も晴れないうちにプレイヤーたちは攻撃を重ねていく。光の矢が、魔法が、バズーカが、息つく暇もなく撃ち込まれていった。
爆発が起こる度にグレモリーは苦悶の声を上げる。煙でHPバーが見えないけど、そこそこのダメージを入れられたんじゃないかな?
『後衛、攻撃止め! MP回復のために一時待機!』
『前衛、なにがあっても攻撃を後ろに通すなよ!』
クラッドさんとカンナヅキさんの指示が飛ぶ。私たちはグレモリーを警戒しつつ、攻撃の手を止めた。
前衛のタンクがブレードを構えつつグレモリーの出方を伺う。さて、どれくらい減ってるかな?
やがて、煙が晴れる。グレモリーの頭上のHPバーは、一本目の三分の一程度が削れているようだ。
まぁ、大ボス相手にこの火力なら申し分ないかな。問題は、相手の攻撃だけど。
仰け反っていたグレモリーがググッと体を起こす。その表情は、愉悦に歪んでいた。
「いい。いいですね。羽虫にしてはよくやります。容赦のない攻撃、とてもグッドです。……では、私もお返しと行きましょう。まずは、ベルちゃんから借りた子たちでも出しましょうか」
グレモリーが指を弾くと、私たち後衛の後ろに光が現れる。
その光はやがて魔法陣を描き出し、そこから幾度と戦った蟻たちが召喚された。
ギチギチと顎を鳴らして、私たちを見据えている。向こうはやる気満々だね。
だけど、これは少々マズイ。
『ちっ、後衛を狙われたか! 遊撃プレイヤーは今すぐ後衛の援護に向かってくれ!』
「させるとお思いですか? この私の顔に傷をつけたのです。まさかその程度でお返しになると、思っていないでしょうね?」
グレモリーが再び指を弾くと、グレモリーの周りに魔法陣が浮かび上がり、そこから羽根付きが飛び出してくる。
その数は十匹。数は大したことないけど、その強さは通常の蟻の何倍にも及ぶ。
タンクプレイヤーに攻撃力はあまりない。これで遊撃プレイヤーは羽根付きの処理に回らないといけなくなった。
『羽根付きまで!』
『遊撃プレイヤーは羽根付きを優先! 後衛、蟻共はなんとかなるか!?』
『分からないけど、できる限りやってみますよ!』
『頼む!』
カンナヅキさんのチャットに私が返す。頼まれちゃったけど、なんとかできるかな?
幸い蟻単体の強さはそこまでじゃない。ただ、今回は戦場が広すぎるっていうのと、未だに魔法陣が光って蟻たちを生み出し続けてるっていうのが厄介だ。
試しにバズーカで狙ってみるけど、蟻たちは倒せても魔法陣は壊れなかったから、全ての蟻を吐き出すまでは止まらないだろう。
とりあえず、試作魔機装じゃ取り回しが悪いね。武装も少ないし。
『ぬんぬんさん、コックピット開けるから右肩に移動して』
「分かりました!」
ぬんぬんさんが右肩に移動したのを確認して、私はコックピットハッチを開く。
コックピットを出て、そのまま浮かび上がる。上空から戦況を確認するためだ。
前衛の方は問題ない。いくら羽根付きが通常の蟻より強いって言っても、遊撃プレイヤーの数で押し切れる。
問題は後衛だ。グレモリーを囲むプレイヤーを囲むように四方から蟻たちが攻め寄せてきている。ちなみに、私がいるのは南側になるね。
む、東側がちょっと危ないか。ここはヴィーンやぬんぬんさんに任せれば大丈夫だろう。
『二人とも、ここは任せてもいい?』
「それは構わないけど……行くのかい?」
『うん。ちょっと東側がマズイ』
「分かりました! ミオン様が戻ってくるまで、ここは私が死守します!」
『ありがとう。じゃ、行ってくる!』
私は飛行形態にモードシフトして、東側の戦場を目指す。
ちらりとグレモリーを見ると、彼女はプレイヤーと蟻たちが戦う戦場を眺めながらチロチロと舌で唇を舐めていた。
貴女の余裕の表情、絶対に歪ませてやるんだから。
その決意を胸に私は、東側の戦場へ急いだ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




