第七話 試作型異界式腕部、そして
今回は少し長めです。
ダンジョンを発見し、それをクリア。とんでもない素材アイテムを手に入れ、ヴィーンさんという綺麗で頼れるエルフのプレイヤーとフレンドになったフリファン初日。
あれから時は進み、現実時間で一週間ほどが経過していた。その間、新しいスキルの獲得に素材集め、スキルレベル上げなどをヴィーンさんと行っていた。お互いに生産スキルも覚え、私としては理想に向けて一歩ずつ進んでいる感じだ。
現在私は《鍛冶》スキルのレベル上げをしており、ヴィーンさんはゲーム内掲示板を覗いている。
私はあまりゲーム内掲示板は読まないタイプなのだが、ヴィーンさんは情報を集めるために頻繁に見ているらしい。そこで得た情報なんかを共有してくれるので、私としてはとても助かっている。
やはりと言っていいか、掲示板では魔機人は不遇種族として扱われ、新規で魔機人で始めたプレイヤーにこのゲームを楽しみたいなら種族を選び直すところから始めろ、と言ったようなアドバイスが目立つようだった。
確かに魔機人は最初は辛いけど、慣れれば大したことはないと思うけどなぁ。パッシブカテゴリーの《敏捷強化》を選ぶだけでかなり楽になると思う。たしかにちょっと周りが見えにくかったり、動きがぎこちなかったりはするけど。
トンテンカン、とリズムよく鎚を振るっていく。リズムよくと言っても、未だに私の身体は動かしづらい錆び朽ちたパーツなんですけどね。
今作成しているのは矢に使われる鏃。ヴィーンさんから「せっかく《鍛冶》スキルを取ったのなら、鍛冶の練習として私の矢を強化してほしいね」というお願いを受けて作っている。
外部サイトの鏃の画像を見ながら鎚を振るい、形を整えていく。初めの何回かは失敗して素材が光となって消えてしまったが、今ではなんとか失敗扱いにはなっていない。鍛冶初心者が作るには難しいのか、スキルレベルがガンガン上がっている。
鏃を作るための素材は私自身が《採掘》スキルで掘り出した鉱石なので、失敗を気にせず鎚を振るえるのは嬉しい。素材がなくなったらまた取りに行けばいいだけだしね。
街に行けない(行かないだけとも言う)私がなんで鍛冶ができているのかと言うと、全てはガレージ様のおかげでした。
なんと、フレーバーテキストだと思っていたパーツ作成に役立つ道具の中に鍛冶の生産設備が入っていたのだ! これには私もびっくりしたね。
つまり《パーツクリエイト》を十全に扱うためには、生産スキルの存在が必須だったわけだ。まぁ、パーツを作るためには金属を加工しなきゃいけないわけだからね。そのために《鍛冶》スキルが必要だっていうのは納得できる話だ。
そうして私が作った鏃はヴィーンさんのもとへ渡り、《木工》スキルで作り上げた木の棒と鳥の羽根(これはモンスターではなく野生動物から取れる素材)を《合成》スキルで合成され矢となる。
《採掘》で取れた鉱石は主に鉄鉱石で、この工程を経て鉄の矢になるわけよ。
[武器・矢]鉄の矢 レア度:C 品質:D-
ATK△△
どうやらヴィーンさんは私と同じく耐久値の減らない初心者用装備を使っていたみたい。矢も本数が減らない初心者用のものだ。もちろん攻撃力はお察しなので、これを機に切り替えるつもりらしい。
ちなみに新しく追加された品質は、生産されたものに対する評価みたいなものだ。もちろん品質の高いものの方が能力的にもいいものになる。これは、生産スキルを取得した際に追加された情報だね。
どうして装備を新しく切り替えているかと言うと、私たちが拠点にしているこの散華の森にはさらに中層、下層と呼ばれる奥地が存在しているらしい。そこに生息するモンスターは今いる〈散華の森・上層〉の比ではないようだ。
この情報も攻略掲示板に載っていたらしく、そこに出現するモンスターの種類や行動パターンなども共に載せられていたという。俗に攻略組って呼ばれてる人たちだね。ゲームにおいて最前線のプレイヤーだ。
ベータテスターだった兄さんも攻略組の一人なんだろうけど、未だにゲーム内では会っていない。家では食事の時とかに顔を合わせてるが、お互いの近況を話すだけでゲーム内で会おうという話にはなったことがない。
私もこのままの姿で会うつもりはないし、向こうも私と会うまでに差を付けるつもりなのだろう。いい歳してるが負けず嫌いな兄さんなのだ。
日課になっている鏃作りを終えた私はヴィーンさんのもとへ作り終えた分の鏃を手渡す。
『ヴィーンさんこれどうぞー』
「ん? ああ、ありがとう。では、私も生産活動に勤しむとするかな」
軽く微笑むだけでこの破壊力。未だにヴィーンさんの笑顔には慣れないなぁ。変な声が出ちゃいそう。
っと、私もやることやらないとね!
『よし、やるか!』
ヴィーンさんに作ってもらった木製の椅子に座り、目下練習中の《パーツクリエイト》を起動させる。
《パーツクリエイト》の素材庫の中にはダンジョンボスを倒して手に入れた装甲板とフレーム、そしてアーティファクトの残骸が入っている。
一回分の報酬では足りなかったので、戦闘系スキルのレベル上げのついでにあのダンジョンに通っている。今ではピンチになることなく【アーティファクト・ソードマン】を倒せていて、パーツ作成のための素材も順調に集まっていた。
問題があるとすれば《パーツクリエイト》で、これが恐ろしく難しい。
パーツの作成には直接モデルを触って作っていくのだが、少しでも気を抜くと変な形になってしまうのだ。力加減が難しいというか、妙に柔らかかったり、硬かったりする。もちろん失敗した素材は消えてしまうので、その分ダンジョンに挑むことになるわけだ。
しかも素材庫に入れるために一々ENを込めなければならないため、失敗して素材を無駄にすることは避けたい。
『んー、モデリングは私のアバターを参考にできるから楽なはずなんだけどなー』
《パーツクリエイト》でパーツ作成を行う際、見本として私のアバターのモデルが表示される。後はその通りに形を作ればいいだけなのだが、操作が難しく作成は遅々として進んでいない。
現在は魔力を込める効率を上げる為に腕部パーツを作成しているところだ。完成度を高めるために魔導石も使いたいところだが、数が限られている上に《パーツクリエイト》が上手くいかないこともあって手が出せずにいた。とても貴重な魔導石を無駄にすることだけは避けたいからね。
「そういえばミオン、君はロボットが好きなのだろう?」
『ええ、大好きです!』
「ふふ、即答か。なら、プラモデルとかは作らないのかい?」
『プラモですか? ええ、作りますよ。一つ組み上げるのに時間がかかるので、フリファンばかりの最近は買っても積みっぱなしですけどね』
「ふむ。それなら《パーツクリエイト》もプラモデルのように作れたりしないのかい? そちらの方面に疎い私が言うのもなんだけどね」
『プラモのように……なるほど』
ヴィーンさんの意見に、思わず目が点になる。それは考えたこともなかった。たしかにプラモみたいに小さいパーツを組み合わせて大きなパーツにしていくことができればかなり楽に作れるのではないだろうか?
あとはギミックをどんな風にして組み込むかだね。
『ヴィーンさんありがとうございます! おかげでなんとかなりそうです!』
「ふふ、お礼なんていいよ。ミオンが強くなるのは私にとってもいいことだからね」
爽やかな笑顔を向けてくれるヴィーンさん。はわぁ〜、ええ笑顔やぁ〜。廃ゲーマーには眩しすぎる……。
私は《パーツクリエイト》に向き直り、大きくパーツを加工するのではなく、小さく複数のパーツにわけて作成していく。サイズに気を付けて装甲板を切り取っていき、形を整える。
え? こっちの方が難しそうだって? HAHAHA、プラモデラー舐めるなよ。やり方さえ確立させてしまえばこっちのもの。
しかし、現実でプラモ同士をくっつける際の噛み合わせを気にしなくていいのはありがたい。よくその部分を折って泣く泣く接着剤を使っていたのはいい思い出ね。
フレームパーツに成型した装甲パーツを取り付けていく。プラモのように、といってもHG方式ではなくRG方式だ。さすがにフレームパーツなしで中身がスカスカなのはいただけない。モナカ割りとか論外だね。試作型とはいえ、ある程度の強度がないとお話にならないから。
魔力を込めたことによりフレームや装甲それぞれに魔力の通りがよくなっているが、念には念を入れてポイズンスネークの皮で魔力を通すケーブルのようなものも作った。
[素材・アイテム]蛇皮の魔導ケーブル レア度:U 品質:C 魔力伝導率:C-
もちろん魔力を込めているので強度的にも問題はない。本番ではもう少し質のいい素材を使いたいところだけど……。
余談だが、このケーブルを作るために《裁縫》のスキルを取った。ケーブルとはいえ皮製品だからね。縫い合わせる技術が必要だったわけよ。
ま、とにかく今回はENの消費率を下げる腕部パーツを作れればいいからね。完成度を高めるのはそれからでよし!
アバター作成時に設定した装甲の開閉ギミックも取り付け、関節の可動にも問題は見られない。試作品だし、色は特に決めなくてもいいかな。
しばらく形を微調整して、《パーツクリエイト》による新たなパーツが生み出された!
[パーツ・腕部]試作型異界式腕部・右(左) レア度:EX 品質:B- 魔力伝導率:B+ キャパシティ:0/6(0/6) 耐久値:E+
ATK△ DEF△ MDEF△△
スキル:《魔力浸透》《魔力伝導》《耐久低下大》
異なる世界の技法を用いて作成された腕部パーツ。魔力の浸透率と伝導率に優れ、既存のパーツとは比べ物にならないくらいの魔力適性を持つ。
ただしこの技法で作られたパーツは耐久値が少ない。
《魔力浸透》:このパーツを使用して魔力を込める時に対象の質を上昇させる。
《魔力伝導》:このパーツを使用して魔力を込める時の魔力消費を抑える。
《耐久低下大》:このパーツの耐久値を大幅に下げる。
おっほ! スキル持ちのパーツきたァ! しかもどっちもなかなかに使い勝手のいい効果じゃないですか!
それになんと言っても魔力伝導率! まさかのB+ですよ! 今の錆び朽ちたシリーズがF-だから、14段階も上がったのか! 品質もいいし……うぇへへへ、笑いが止まらないとはこのことですなぁ。
説明欄の異なる世界の技法っていうのは、プラモをもとにした作成方法のことかな? 細かいパーツに分けて作るわけだから、耐久値が低くなるのも無理はないか。フレーム有りでこれならHG方式で作ってたらどうなってたんだろう。グッジョブ私!
キャパシティが錆び朽ちた腕部に比べて少ないのは、骨格となるフレームがあるからかな。錆び朽ちた腕部にはフレームが存在してなかったものね。
キャラクタークリエイトの時にはフレームが存在してたから、時間が経ってフレームは錆び朽ちてなくなってしまったんだろう。そういう設定のはずだ。
パーツの名前も決められるけど、このパーツはこのままでいいかな。試作品だし、わかりやすさ重視で。
さて、とりあえず換装しますかね。実際に装備したらどうなるのかな。
私はインベントリに入った試作型異界式腕部を錆び朽ちた腕部と入れ替える。
『おぉ〜。錆びてない! 朽ちてない!』
私の肩から下が異界式腕部に変わり、真っ白い機体色が目に映る。試しに動かしてみるが、錆び朽ちた腕部と比べて動きがスムーズになっており、明らかな違いを体感できた。
腕部以外は未だ錆び朽ちたシリーズなので部位ごとの動きの違和感がすごいが、ここまで変わるのか。思わず顔がニヤけるのを感じる。ニヤける顔ないけどね!
「完成したんだね。ふむ、本当に動きが違うな。全身取り替えたらとんでもないことになりそうだ」
『んー、でも全身をこの異界式に変えるわけにはいかないんですよね』
「ほう。それはなんで?」
『この作り方だと、著しく耐久値が落ちてしまうみたいで……』
「なるほど、初心者用武具は耐久値の心配をしなくていいからね。それは困ったな……」
二人してパーツを見ながらうんうんと頭を唸らせる。これから作るのは戦闘用のパーツなので、どうしても耐久値が必要になる。
しかし、この技法でないと現状パーツを作ることができない。残念ながらこの方法以外にパーツを作るための技法を知らないので、この技法のまま耐久値を上げなくてはならないわけだ。
「ふむ。今までよりも魔力の通りがよくなったんだろう? なら、素材の時だけではなく、パーツを作る時の部品一つ一つに魔力を込めていけばいいのではないかな?」
『素材庫に入れる前と、パーツを噛み合せる直前の二回で魔力を込めるってことですか?』
「うん。そうすれば、強度が倍になったりしないかなと思ったんだ。魔力コーティングの二重構造、みたいな。浅知恵だけどね」
『なるほど。試してみる価値はありそうですね』
ありがとうございますとお礼を言い、《パーツクリエイト》へと戻る。素材庫に入れる前の装甲板やフレームに魔力を込めると、今までとの違いがよくわかる。
まず、魔力を込め終わるまでの時間の速さ。今までは素材一つに魔力を込めるのに一分ほど使っていたのが、今では二十秒ほどに短縮されている。
次に、必要魔力量。今までは素材一つに魔力を込めた場合最大ENの半分を持っていかれたが、今では5%ほどになっている。この速さと消費量なら、今までの数倍のペースで魔力を込めることができるね! さすが魔力伝導率B+!
一通りの素材に魔力を込め、素材庫へと入れる。あとは、魔導石も使ってみようかな。一番レア度の低い八八式魔導石をいくつか使ってみよう。感覚的な話になるんだけど、他の二つの魔導石は今使っても失敗する感じがする。なんだろう、職人の勘ってやつ?
魔導石をそのまま素材庫に入れようとして、ふと考えた。これも魔力を込めてからの方がいいのではないかと。そうと決まれば早速、魔力を込めるぜ!
ごっそりと身体の中からなにかを持っていかれる感覚の後、魔導石が眩いほどの輝きを放つ。
[素材・アイテム]活性八八式魔導石 レア度:UR- 魔力保有量:2000/2000
エネルギーに変換された魔力が刺激し、活性状態となった魔導石。周囲の魔力を吸収し、自身の魔力を回復させる特徴を持つ。
また魔力の属性も自由に変化させられるようになり、これを使用してパーツや武装を作ればエネルギーの変換効率が上昇する。
なんかできちゃった!
ほぼ全てのENが持っていかれたけど、これだけ性能が上がるなら安いもんだぜひゃっほい!
この書き方からして、これを使ってパーツを作るとエネルギーの変換効率がよくなってEN自動回復も付くのかな。
じゃあ早速パーツの方を作っていこうかな。いくつか試作品を作って方向性を定めていこう。
こうなった私は誰にも止められないぞぅ! 私は今から、パーツ生産の鬼になる!
「……ふふ、とても楽しそうだね、ミオンは」
『ん、なにか言いました?』
「いいや。ただ、楽しみだな、とね」
『私も、どんなパーツになるのか今から楽しみです。しばらく《パーツクリエイト》してますね!』
「ああ。落ちる時間までは邪魔しないよ。いつもの時間でいいかな?」
『はい、お願いします!』
「では私も生産活動に戻ろうかな。矢のストックはどれだけあってもいいからね」
そう言うとヴィーンさんは自分のスペースへと戻っていく。さあ、私もやるか!
目指せ始まりの街! 目指せ〈散華の森・中層〉! 現時点での最高のパーツを作ってやるぞ!
[所持スキル]
《魔機人》Lv.31(5up↑)《武装》Lv.29(4up↑)《パーツクリエイト》Lv.--《自動修復》Lv22《自動供給》Lv.23(11up↑)《刀剣》Lv.30(MAX)《鑑定》Lv.-- 《感知》Lv.14《直感》Lv.25《敏捷強化》Lv.27(4up↑)《採掘》Lv.21(20up↑)《鍛冶》Lv.25(New)《裁縫》Lv.12(New)
残りSP49
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