第七十二話 第二回イベント17
第二回イベント、七日目続きです。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
『せぇぇぇぇいっ!』
飛びかかってきた蟻に向かって、右手に握ったサーベルを振り下ろす。真っ二つになった蟻が光の粒子に変わっていく。
左手のサーベルは別の蟻の頭部を貫いていて、そちらもまた光の粒子に変わった。
「さて、強化されたOCシリーズの力、どの程度のものかな?」
ヴィーンの持つ弓に輝きが宿り、徐々に輝きが矢の形を作る。
その矢を引き絞り、パッ、と手を離すと発射された光の矢が三つの翼竜に変化した。
その顎を大きく開いた翼竜たちが、蟻の頭部を的確に食い破り、光の粒子に変えていく。
ヴィーン本人はその様子に満足げだ。OCシリーズは一体どこに向かおうとしているのか……。
「はっ! せいっ! とおっ! ずえりゃぁ!」
フルールさんの拳が唸り、蹴りが炸裂する。
攻め寄せてきた蟻のほとんどが頭部を砕かれ、破裂しているようだ。まさに一撃必殺。とんでもないスキル構成してそうだね。
私も負けてられないと、私たちを邪魔しに来る蟻たちを倒していく。
私だって、通常の蟻なら一撃で倒せるんだから。羽根付きはちょっと厳しいけど。
ま、ここは木々が生い茂る森の中。さすがに小回りのきかない羽根付きはやってこないだろう。
フレンズを展開しつつ、サーベルを振り回して私たちの進路を確保する。
『スゥパァ、ロケットォ、ナッッッッックル!』
私の目の前で蟻の頭部に拳が突き刺さり、爆発四散する。
チラッと振り返ると、両腕を突き出した状態のタクトがこちらを見ていた。
『そのまま飛ぶっス!』
タクトから発射された腕部は周囲の蟻を蹴散らしつつ、的確に私たちが倒しやすいように誘導してくれている。
しばらく飛び回るとタクトの元へと戻っていき、またENが溜まりしだい発射されるようだ。
マ〇ンガーのロケットパンチよりも、ダンクー〇ノヴァのブーストノヴァナックルの方が近いかな? かっこいいね。
『私だって! 行くよ、エレメント・ダイヤ! タイプ:スラッシュ・ブレード!』
マノンもタクトに負けじと、その大きな両腕を振るった。拡張された腕部から伸びるビームの刃が蟻たちを切り裂いていく。
マノンの両腕は戦闘時に大きく変化する。
通常時は肩と二の腕の辺りに菱形のバインダーのようなものが取り付けられているんだけど、戦闘時にはそれが手の甲へ移動、展開し、ビームの爪や刃など、多種多様の攻撃手段を取ることができるようになるみたいだ。
現在は菱形の直線部分から敵に伸びるようにビームの刃が出現している。少し目を離せば、それが鉤爪のようになっていたり、その菱形のパーツを有線で繋ぎ、ヨーヨーに見立てて投げていたりと、変幻自在な様相を見せている。
武装としては、私のディ・アムダトリアやクラリスの強襲戦闘用左腕破撃爪に似てるね。一つの武装でいくつのも役割を果たしている。
「おらおらおらおらおらぁ!」
ルフさんはいつも通りその豪腕を活かした戦闘スタイルだ。
まるで小枝を振っているような感覚で大剣を振るっている。翼竜の素材で新生した大剣は蟻たちの身体をあっさりと断ち、剣の錆としていた。
「やるでござる! やるでござるよぉぉぉぉ! ミオン様にいいところを見せるでござるぅぅぅぅっ!」
霧雨さんはその背中の巨大手裏剣と刀、懐に忍ばせたクナイと《忍術》スキルを使う戦闘スタイルだ。
《忍術》スキルには特定の武器種を使うことによって追加効果が発生するものが多々有り、それらを誘発させながら木々の合間を縦横無尽に走り回り、飛び回っている。
《忍術》スキルによって投げられたクナイは敵の影に刺さることで相手に麻痺の状態異常を与え、巨大手裏剣は掠った相手に毒を与えるようだ。
だけど、彼女のメインウェポンはあくまで刀。時には順手で、時には逆手で振るわれる刀の一撃は鋭く、的確に蟻の頭を落としていった。
また、霧雨さんは《ブーメラン》スキルも所持しているらしく、投げた巨大手裏剣は大きく弧を描いて彼女の手元に戻ってくる。
巨大手裏剣は近接武器としても扱えるように真ん中の穴に持ち手が付けられているので、返ってきたそれを使って擬似的な二刀流のようなこともできるみたいだ。
これ、忍者じゃなくてNINJAじゃないかな? もしくはスレイヤーの方。全然忍んでないもんね。
「そいやっ!」
「そいやっそいやっ!」
「「「そいやっそいやっそいやっ!」」」
フルールさんのPTメンバー、もとい手塩にかけて育ててる弟子たちも強い。
みんながみんなフルールさんと同じく徒手空拳の使い手で、フルールさんに及ばないもののその打撃力は見事の一言。
装備している手甲と足甲が翼竜製というのもあるんだろうけど、本人たちの技量も目を見張るものがある。
「蜘蛛熊来るぞー!」
ルフさんの声。どうやら草原区域との境目に辿り着いたようだ。
ここを抜ければグレモリーの封印されている場所まであと少し。邪魔するモンスターは全部排除だ!
『なにが相手でも同じこと! 全て蹴散らしましょう!』
「「『おう(はい)っ!!!』」」
速度をゆるめることなく突き進む。
やがて私たちを妨害しようと現れた蜘蛛熊たちがヨダレと咆哮を上げながら突進してくる!
そして、そんな蜘蛛熊と連携を取るように動きを変える蟻たち。
さすがにモンスター同士で潰しあってくれるほど優しくはないか!
『後続は?』
「大丈夫。ちゃんと着いてきてる」
『おっけー。ならちゃっちゃとこいつらを倒してボスの元へ向かうとしよう!』
「倒し漏らしは気にするなよ! 後続のやつが片付けてくれるからな!」
「押忍!」
士気は高い。この勢いを保つためにも、さっさと進んだ方がよさそうだ。
私は武器をサーベルからライフルに切り替えて、ウィングバレルも使いながら遠距離攻撃で蜘蛛熊と蟻を倒していく。
フレンズは全基回収、もしもの時のためにEN回復を優先させておこう。
そのままモンスターを蹴散らしつつ先に進み、気付けば森を抜けていた。
私たちを囲む蟻の数も少なくなっている。その分、広い場所に出たからか羽根付きの姿を見るようになった。
一体倒すのも結構苦労するんだよねぇ。なぜか翼竜よりも耐久あるし。
「おうミオン! どうなってる?」
「あと少しだな」
『親方! カンナヅキさん!』
どうやら後続の人たちが追いついてきたようだ。親方やカンナヅキさんを始めとした後続チームのプレイヤーが続々と草原区域に集まってきている。
それに比例するように、正面に陣取る蟻たちの数も増えていく。羽根付きの数は今では五十体を超えているようだ。
倒せなくはない。いや、倒せるだろう。でも、時間がかかることも確かだ。
幸いここは広い草原区域。試作魔機装を使えば短時間でも倒せるかな?
「しかし、羽根付きがあんなにいやがる……こいつぁ悪魔んとこに行くまでにかなり消耗させられちまうか……ん?」
『どうしたのカンナヅキさん?』
「ちょっと待て。山脈区域のやつらから連絡が……はぁ!?」
突然カンナヅキさんが、信じられないこと聞いたような、驚きの表情を浮かべた。そしてすぐにバッと山脈区域の方向を向く。
私もカンナヅキさんに釣られてそちらを見る。……ってええ!?
『親方! 空から翼竜が!』
「女の子じゃねぇのかよ! つぅか翼竜の追加は聞いてねぇぞ!?」
『さすがに羽根付きと戦いながら翼竜と戦うのは……』
「待て待てお前ら。安心しろ。なぜだか知らんがあの翼竜たちは味方だ」
『「味方???」』
私と親方が同時に首を傾げる。翼竜が味方ってどういうこと?
「なんでも山脈区域の連中に声が聞こえたんだと。女の子の声で、『やれやれ。仕方のない。少し、助けてやろうかの』って聞こえた途端、翼竜たちが移動を開始したらしい。そして、プレイヤーが相手にしてたモンスターを倒し始めたんだと」
カンナヅキさんの言葉に、ハッとなる。
その喋り方……もしかしてクリムちゃん?
「こいつぁいいぜ。翼竜との共同戦線だ。派手に行こうじゃねぇの」
『うん。翼竜と一緒なら、試作魔機装を使わなくても行けそうだね』
「山脈区域のやつらはすでに悪魔の前で待機中。草原区域のやつらもじきに着くだろうってことだ。俺たちも遅れるわけにはいかねぇな」
『ですね』
「よぅし。お前ら! 翼竜との共同戦線だ! 昨日の敵は今日の友ってな! 間違って攻撃するんじゃねぇぞ! 俺たちの目標は一緒だ! 悪魔のところに行くために、まずはそこの蟻畜生共を片付ける! 全員、命を大事に進め!」
「「「「了解!」」」」
『EN回復のできる魔機人プレイヤーは全員試作魔機装に搭乗! 翼竜と連携して厄介な羽根付きを落とす!』
『『『了解!』』』
インベントリから取り出した試作魔機装に乗り込みつつ指示を出す。
さぁ、最終決戦に向けて、肩慣らしと行こうじゃないか!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




