第七十一話 第二回イベント16
第二回イベント、七日目続きです。短めです。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
『ふぅ……なんとかなったかな?』
試作魔機装から降りた私は、試作魔機装をインベントリにしまってカンナヅキさんの元へ向かっていた。
蟻たちを撃退したあと、チャットの方に連絡が来てたからね。寝起きでよく分かってないし、状況を理解するためにも必要だろう。
地上はプレイヤーでごった返しているので、空をふんわり飛びながら向かっている。向こうからしても、こっちの方が私を見つけやすいだろうし。
「お、いたいた。おーい!」
見れば、カンナヅキさんやフルールさん、他にもそれぞれのPTのリーダーたちが手を振ってくれている。
『そっちに行きまーす!』
向こうに行くことを伝えて、空いている場所に降り立つ。
「よかった、無事だったか」
「ごめんなさいね。こっちも、いっぱいいっぱいで」
『全然大丈夫です。でも、なにがあったんですか?』
「ああ。どうやら悪魔さんはやる気らしいぜ。俺たちが起きるちょっと前に襲撃をかけてきたようだ」
『え、でもそれって……』
「なにも間違っちゃいねぇよ。大体、ここはセーフティーエリアじゃないんだからな」
『あー』
そうか。勘違いしそうになるけど、私たちが拠点にしてるここも、普通にモンスターが湧いてくるんだっけ。
湧いた瞬間に誰かプレイヤーが倒してるから気付かないだけで。
それにしても、七日目は朝からハードだね。
「朝まで起きてた連中が気付いてな。そこからは大騒ぎだ。ミオンはどうしてたんだ?」
『いやぁ。外の騒ぎに気付かないで普通に寝こけてましたよ。外がうるさいなって思って窓開けたら普通に蟻に襲撃されました』
私がそう言うと、カンナヅキさんは呆れたように息をついた。いや、仕方ないんだ。寝ぼけてたものは仕方ないんだよ、うん。
でもこれは、襲撃の可能性を考えてなかった私にも問題があるなぁ。大体悪魔のお行儀がいいわけないんだから。
『他の区域は大丈夫なんです?』
「ああ。連絡は取り合ったが、なんとか無事みたいだ。脱落者はいねぇ。草原区域なんざ障害物がなにもないから、試作魔機装の試運転だとか言って蟻共をボコボコにしてたくらいだからなぁ」
『なるほど』
どこの区域も同じような状況ってわけか。広さのある草原区域は楽に戦えたと。
やっぱり試作魔機装は強いね。大きいだけのことはある。
「ミオンが周りの連中に試作魔機装を使ってくれって言ってくれて助かったぜ。すっかり頭から抜け落ちてたからなぁ」
『まぁ、とっさの襲撃なら仕方ないですよ。それより、これからはどうするんです?』
「そうだな。このままこの拠点にいてもまた襲われるだけだろうし、ここは打って出る。そのことは他の二つの拠点にも話をしてある」
『全戦力でってこと?』
私の問いにカンナヅキさんは頷く。
「ああ。悪魔……グレモリーだったか。そいつのいるところまで一直線で向かう。道中は森の中だから試作魔機装は使えねぇ。俺たちは生身で蟻共と戦いながらグレモリーを目指す」
『おっけー。なら、継戦能力の高い人たちが戦闘を行くべきですね。私とタクト、マノンは時間でENが回復するから先頭を行きますよ』
「あら、私も行きますよ。この拳一つで戦えますから」
私が露払いを受けると、フルールさんが私の肩に左手を乗せながら右の拳をぐっと握りしめる。本当に心強い。
「ああ。あの馬鹿げた威力の拳、MP消費ないもんな……」
『そうなんだ……』
カンナヅキさんが遠い目をして言う。あの、モンスターの頭が爆ぜるような威力の拳ってただの拳なんだ……うん、心強いよ。ちょっと怖くなってきたけど。
当のフルールさんは口元に手を当てながら笑っている。絶対に怒らせちゃダメな人だなぁ。
「よし。ミオン、タクト、マノンは同じPTで、フルールは別のPTを率いてくれ。他にも先陣を切りたいやつは言っていけ! それだけの能力があると判断したら採用する!」
『残りの3人はこっちで決めちゃってもいいです?』
「ん、ああ。ミオンの判断に任せる」
『ありがとう』
私は騒がしくなってきたカンナヅキさんの周りから抜け出して、タクトとマノンをチャットで呼び出す。
んー、あと3人は誰がいいかな。とりあえず総合的に考えて戦力の高いルフさんは確定。ぬんぬんさんはMP量は多いけどその分消費量も大きいから今回は後陣の方がいいだろう。
親方も先頭に置くのはやめた方がいいかな。純粋な戦闘要員ってわけじゃないしね。
ヴィーンは……どうだろう。そんなに攻撃にMPを使ってる感じはしないけど。戦闘力は申し分ないし、二人目はヴィーンでいいだろう。
ひとまず二人にチャットを送って合流する。
そんなに時間もかからずに四人が集まってくれた。みんな戦闘準備はバッチリのようだ。
合流して早々、ヴィーンが笑いながら話しかけてくる。
「聞いたよミオン。どうやら寝惚けたまま蟻と戦っていたそうじゃないか」
『別に、寝惚けてたわけじゃ……寝起きだったのは確かだけど』
「ふふ。まぁ襲撃の可能性を考えて無かった私が言えたことでもないんだけどね。私も、突然蟻たちが襲って来た時にはビックリしたよ」
「だな。近くに剣を置いといて助かったぜ。セーフティーエリアじゃないってことがすっかり頭から抜け落ちてたからなぁ」
『俺たちはヴィーンさんや親方と一緒に戦ってたっス』
『ちょうど襲われた時に近くにいたので』
『なるほど。でも、みんなが無事でよかったよ』
「それは、本当にそうだね」
『さて、それであと一人はどうすればいいと思う? 出発までそう時間もなさそうだから、誰かいいって人がいれば採用するけど』
「先頭だもんなぁ。ぬんぬんはダメだったのか?」
聞いてきたルフさんに、ぬんぬんさんを呼ばなかった理由を説明する。説明を聞いたルフさんは、得心がいったように頷いていた。
「確かにぬんぬんは呼べねぇな。コスパのいいやついたかぁ?」
「ふむ。それなら私は霧雨を推そう」
『霧雨?』
聞き覚えのない名前に私が尋ねると、ヴィーンは指を虚空に向けて動かしつつ答えてくれた。
「ああ。ミオン親衛隊の一人なんだが、戦闘時の視野の広さとコストパフォーマンスのよさは私が保証しよう。第二陣だが、戦闘力にも申し分ない。先陣を共に切るなら私は彼女がいいと思うんだけど」
ミオン親衛隊? なんかよく分からない単語が聞こえたんだけど……まぁ、ヴィーンがそこまで言うならその人にしようか。そんな変な人でもなさそうだし。
私が頷くと、ヴィーンは「ありがとう」と言ってチャットを送り始める。
急いで来たのか、そこまで時間がかかることなく一人のプレイヤーが現れた。
口元を布で隠した金髪の女性プレイヤーだ。まとっている防具はまさに忍者と呼ぶに相応しいデザインをしている。腰には刀を、背中には巨大な手裏剣を背負っているようだ。
うん、どこからどう見ても忍者だね。ドーモって挨拶した方がいいかな?
霧雨さんは私たちの前に現れると、しゅたっと擬音がなりそうな勢いで跪いた。
「お呼びでござるか?」
『あなたが霧雨さんだね。これから一緒のPTで、先頭を走ることになるけど、大丈夫?』
「――! 大丈夫でござる! 絶対に大丈夫でござるよ! 必ずお役に立ってみせるでござる!」
ガバッと顔を上げて拳をにぎりしめる霧雨さん。そこまでやる気なら大丈夫そうだね。ヴィーンの目に狂いはなさそうだ。
私は霧雨さんの肩をぽんと叩いて『頼むね』と一言告げた。
さて、こっちのメンバーは揃った。
とりあえずカンナヅキさんに連絡を入れよう。
『あー、あー、カンナヅキさん?』
『おう。聞こえてるぜ。メンバーの方はどうだ?』
『六人揃ったよ。そっちはどう?』
『こっちもまとまってきたぜ。そろそろ出発するから、こっちに集まってくれ』
『おっけー』
私はカンナヅキさんとのチャットを切って、みんなに向きなおる。今話したことを伝えて、全員でカンナヅキさんの元へ向かうことにした。
蟻の襲撃から落ち着いてきたのか、プレイヤーがごった返していることはなかったので、楽に辿り着くことができたよ。
「よし、揃ったな。じゃあ早速、グレモリー攻略戦の第一段階だ! 邪魔する蟻共を蹴散らして、グレモリーの元へと向かう! 戦闘はミオンとフルールのPT、それから――」
私たちのPTを先頭に、いくつかのPTが後ろをついてくるようだ。蟻を蹴散らしながら止まることなく草原区域に向かうみたい。
区域と区域の境目に出てくるであろう蜘蛛熊は、先頭の私たちが対処する。それも含めての人選なわけだね。
「行くぜ、お前ら! 人間の力、モンスター共や悪魔に見せてやれ! 突撃ぃっ!」
「「「『おうっ!!!!!!』」」」
カンナヅキさんが斧を振り上げて指示を出す。
私たちはそれに応えて、それぞれの得物を構えながら駆け出した。
目指すは草原区域、悪魔の眠る地だ!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




