第六十九話 第二回イベント14
第二回イベント、四日目最後です。
引き続き、本作品をお楽しみください。
クリムちゃんと出会うっていうトラブルはあったけど、気を取り直してお宝探しの続きだ。
洞窟の外に出た私は飛行形態にモードシフトしてお宝のありそうな場所を探す。今度は山の中腹辺りを探してみてもいいかもしれないね。
あまり高度が高すぎるとプレイヤーが来れないってことで置いてない可能性がある。って言うか、実際そうだと思う。
クリムちゃんもこんなところに来るなんて、的なニュアンスのことを言ってたし、間違いはないはず。
まぁ、そのおかげでクリムちゃんと会えたんだし、結果オーライってことで。次から気をつければいいのです。
『次はあの山にしようかな……』
クリムちゃんの住んでいた山を離れて、別の山へと移動する。なんか、あの山はクリムちゃんがいるだけで他になにもない気がするんだよね。普通のプレイヤーがどうやって行くのかっていうのは抜きにして。
もしかしたらなにかしらの条件をクリアしたらあそこに行けるようになったのかもしれない。それを無理やり突破しちゃった感じかな……あはは。
『お、あそことか降りれそう!』
いい感じに降りれそうな場所を見つけたので、早速降りてみることにする。
今回は大きな洞窟があることもなく、麓から道が続いている場所だ。山道になっているんだろうか。
よし、道なりに上に登っていこう。最悪お宝がなくても採掘できるだけで違うからね。
モンスターが出るかもしれないし、ショートライフルだけでも準備しておく。
右手にライフルを構えて周囲を警戒しながら先に進む。
そのまま山道を歩き続けてるけど、全然モンスターとエンカウントしないね。もしかしてここで戦うはずの翼竜も討伐隊の方に行ってるとかかな。
まぁ、私が空飛んで引き付けた時も結構な数がやって来てたからあながち間違いでもなさそうだ。
探索がしやすくなったと思うことにしよう。
そのまま歩くことしばらく。山道の終わりに差し掛かった頃、なにか透明な膜みたいなものを通った感覚がした。
振り返ってみるとそこには私の通ってきた山道はなく、ぼやけたなにかが見えるだけだ。
その膜に触れてみると、そこから先には進めないようになっている。つまり、閉じ込められたわけだね。
ボス……じゃないな。こんなの初めてだし。
となると、お宝かな。
私が視線を前に戻すと、そこには私の背の半分くらいの大きさの宝箱が鎮座していた。そこそこの大きさだ。
私はなにがあってもいいように恐る恐る宝箱に近付いて行く。《直感》スキルや《感知》スキルに反応はなし、か?
なら、安全……だよね。
宝箱の前まで来たので、改めて宝箱を調べてみる。
宝箱は赤に金の装飾が施されている、「The宝箱」といった見た目だ。
本来鍵穴があるであろう場所には、[答えを入力してください]という文字とテキストボックスのようなものが取り付けられていた。
『答え?』
私がそう言うと、目の前にウィンドウが現れる。問題文のようだ。
[この世界ではかつて七つの種族が手を取り合って暮らしていました。しかし、ある一つの種族が残り全ての種族を裏切り、世界を欠片に砕いてしまいました。そして、その種族の残り六種族による大規模な戦争に発展しました。では、その七種族のうち、裏切りの一種族の名前を答えよ]
……ほうほう。なかなかに面白い話だね。
えっと、ゲーム開始時に選べる種族って、人間、獣人、エルフ、ドワーフ、翼人、魔人、魔機人の七種族だったっけ。
多分その裏切りの一種族ってのは、このゲーム開始時に選べる種族じゃないよね。魔機人って、マギアーノ・クライスドーラって人が作った存在のはずだし。
つまり、魔機人を除いた六種族が、裏切られた方の六種族なんだと思う。
じゃあなにが六種族を裏切って世界をバラバラにしたんだ?
困ったな、こんなことなら図書館にでも行ってこの世界の成り立ちとかの本を読んでおくべきだったかな。もしかしたら他にも情報があるかもしれないし。
まぁ、本はまた今度だね。まずはこの問題だ。
裏切り、裏切った種族ねぇ。しかも、世界を砕けるほどの力を持った存在がいたってことだもんね。
なにか……あ、あー。あれか? 悪魔か?
元々悪魔もこの世界の住人として一緒に住んでて、なにかが起こって裏切ることになった?
いや、あいつらのことだから他の種族と同じように見られるのは勘弁ならないとか言って裏切りそうだ。うん、有り得そう。
とりあえず、答えは悪魔でいいかな。間違ってたらどうしようもないし。
『答えは悪魔』
私が答えるとテキストボックスに答えが入力されていく。
[正解です。中身をどうぞ]
というウィンドウが表示されて、カチリと鍵が開く音がした。
ホッ、答えはあってたのか。
でも答えに関する解説はなし、と。まぁ、そこは自分で調べろってことだよね。私もそう思う。
思った以上に、この世界において悪魔ってのは重要な存在なのかもしれない。
世界を砕けるほどの大悪魔がまだ生きているとは思えないんだけど、用心しておくことに越したことはないかな。
とりあえず、強くなろう。悪魔に負けないくらい。どうせ三日後にはグレモリーと戦うし、これからも他の悪魔と戦うことになるだろうからね。
ようやく、このフリファンの倒すべき敵が見えてきた気がするよ。
今のところ、イベントでしか悪魔と出会ってないけどね。いつかは通常フィールドでも出会うことがあるだろう。
名持ちの悪魔は、七十二柱いるんだったっけ。私たちはその内の三体を倒してるわけだ。
グレモリーを倒したとして残り六十八柱。まだまだいるね。
悪魔についてこんなものか。とりあえず宝箱を開けちゃおう。さてさて、なにが入っているかなと。
宝箱に手をかけると、大した重さを感じることなく箱を開けることができた。
ギィ……と、音を立てて宝箱が開く。
『……これは?』
中に入っていたのは、よく分からない鈍く光る黒色の金属で作られた鍛冶道具一式と、その元になったであろう鈍く光る黒色の金属のインゴット。数的にもそこそこの数が入っているようだ。
こういう場合の《鑑定》スキル! 発動!
[素材・アイテム]ブラックミスリル・インゴット レア度:SR 品質:A-
世にも珍しい漆黒のミスリル・インゴット。ある特定の条件下でのみ掘ることができるブラックミスリル鉱石を精錬することで作られる。
通常のミスリル同様に合金でも使用可能だが、単品性能は比べることはできない。
また、ミスリルよりも加工の難易度が高い。
ほうほうほう。新しい鉱石のインゴットとな。これは口元がにやけてしまう。
レア度も申し分なく、品質も高め。いいアイテムを手に入れたね。
このブラックミスリルで作られた道具の方も今まで使ってたものと比べてかなり性能が高い。鍛冶作業がしやすくなるね。
今はブラックミスリルは《パーツクリエイト》で加工するしかないか。多分、私のスキルレベルだと扱えなさそうだ。
私はそれらのアイテムを全てインベントリの中へと入れる。
時間を確認すれば、そろそろいい時間だ。工房の方に戻った方がいいかもしれないね。
拠点には戻らないよ。どうせ人数分の試作魔機装が完成するまではみんなあそこに詰めてるだろうし。
さっきの謎の膜がなくなってるのを確認した私は、飛行形態にモードシフトして工房を目指す。
途中、ビールの実を採った森を見てみると、複数の試作魔機装が採取活動をしているのが見えた。向こうも作業は一段落したんだろうか。
私が工房に戻ると、そこはまさに地獄絵図と化していた。
ジョッキ片手に抱き合うおっさん。酒を飲んだ女性プレイヤーに絡まれて鼻の下を伸ばしている男性プレイヤー。酒を飲みながらも魔機装を作る手を止めない生産職プレイヤーもいた。
いつの間にここは宴会会場になったんだ……。
私がこの惨状を眺めていると、私に気付いた親方がジョッキ片手にこっちにやってきた。
……大の字で寝ているプレイヤーを踏みつけながら。
「おぉ〜う、ミオンじゃねぇ〜か」
『……親方。これ、どうしたんです?』
「ガハハ、そこに酒があったら飲みたくなるのが酒飲みってもんよ」
『でも、さすがにこれは酷すぎですよ』
「まあまあ、かてぇこと言うなよ。ようやく見つけた俺たちの手で採れる酒なんだ。うめぇぞ?」
いや、未成年相手に酒を勧めないでくださいよ親方……見た目酔ってないように見えて結構飲んでるな、この人。
『私は未成年ですよ。はぁ、今日はもう収まらなさそうですね』
「当たり前だ。今日はこのまま宴会だぜ。《料理》スキル持ちがおつまみも作ってくれるしなぁ」
『じゃあ今日はもう生産活動はできなさそうですね……まさか宴会会場化してるとは思いませんでしたよ』
「ガハハ。それ飲め飲めー」
『あ、もう聞いてないなこの人』
再びため息をつく。
仕方ない。この宴会に巻き込まれてもあれだから、私は拠点の方に戻るか。
せっかく親方にブラックミスリルを見せようと思ってたんだけど、このテンションの人に見せたら危ないな。また今度見せることにしよう。
私は混沌の坩堝と化してる工房を後にして、拠点へと飛行形態で戻る。
拠点の家ではヴィーンやマノン、タクトがご飯の準備をしてくれていたようで、私が親方とアルの分は作らなくていいことを伝えてご飯を食べることにした。
ふぅ、落ち着くなぁ。それに、ご飯が美味い!
私は酔っ払いたちのことは忘れることにして、その日の活動を終えるのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞ、お楽しみください。




