第六十七話 第二回イベント12
第二回イベント、四日目の続きです。
それでは、引き続き本作品をお楽しみください。
美味しい昼食に舌鼓を打ったあと、私は試作魔機装に乗り込んで宝探しを行っていた。
決してお宝がほしいとかそういうのじゃなくて、そう、試作魔機装が外でちゃんと稼働するかの実験を兼ねているのだ。そういうことにしてある。
もちろん、翼竜討伐隊からは山のように鉱石が送られてきていて、生産職プレイヤーが急ピッチで試作魔機装を製造している。人によっては、そのまま試作魔機装に乗って翼竜討伐に向かったプレイヤーもいるくらいだ。
まぁ、戦闘時のデータっていうのはいくらあってもいいからね。翼竜相手にどれだけ戦えるかの確認は大事だ。
なにせ、私たちが戦うのはその翼竜をも超える悪魔なんだから。
『んー、見つからないなー』
宝箱が隠されてそうな茂みや、木の根元などを重点的に探してみるものの、それらしいものは見当たらない。
武装じゃない武器は使い道がないけど、素材が出てくれるだけで宝探しをしに来た意味があるってものだ。
なにせ、草原区域で出たっていう宝箱から新種の素材が見つかったって話だからね。そんな話を聞いちゃったら、私としてもお宝がほしくなるに決まってる。
だけど、物欲センサー様が仕事しているのか、一時間ほど探索したけど宝箱のたの字も見つけることができなかった。
せいぜい、道中で出たジャングル・モンスターを瞬殺したことくらいだろうか。
試作とはいえ、魔機装の力を十二分に実感できた。
是非ともこいつを、色々いじくってみたいものだ。魔改造して私の考えた最強の魔機装を作ることも吝かではないよ。
イベント中の制限でこの試作魔機装以外の魔機装は作れないんだけどね。夢は広がりんぐってやつだ。
ところで、宝箱さんや。そろそろ姿を見せてくれてもいいのではないかね? ん?
とか言ってみるものの、そんなんで出るなら苦労はしていない。
まぁ、探しているのが工房の近辺だからっていうのもあるんだろうか。そりゃこちとら5mの巨体ですからね。森の中なんてまともに歩けませんよ。
工房の近くは木々もまばらで、試作魔機装が動くのに申し分ない広さを確保できている。
一応試作魔機装の動作確認って名目で外に出てきてるわけだからね。降りて探索したいのは山々なんだけど、そうすると試作魔機装の製造地獄に落とされてしまう。
製造中にマギアリウム鉱石やミスリル鉱石に触れられればいいんだけど、これ以上は試作魔機装の数が揃うまでは使わせられないと親方に言われちゃったからね。
まぁ、魔機人の新規頭部パーツを作る時には使ってもいいことになってるんだけども。やっぱりご飯が食べられるのっていいよね。実際には味を感じてるだけだけど。
『むー、やっぱり見つからない……って、そんな簡単に見つかるわけもないか。それに、この近辺ならすでに誰かが見つけててもおかしくないし』
試作魔機装の通れるギリギリを進んでいるけど、これ以上は進めそうにない。
私は仕方ないと反転して、帰路につく。
もちろん戻っている最中にも探索は忘れない。もしかしたら今この瞬間にもお宝が生まれてるかもしれないからだ。
『おったからはどっこかな……ん?』
ふと、一面の緑の中に黄色いなにかが混ざっているのに気がついた。お宝ではないけど、果物かな?
試作魔機装の腕を伸ばせば取れそうなので、握り潰さないように細心の注意を払いながらその果物を手に取る。
丸っこくて黄色い果物だ。レモンのような色合いをしてるけど、レモンほど楕円形じゃない。
完全な球体、というわけでもなさそうだけど、こんな果物はリアルでは見たことがない。つまり、このゲーム内にしか存在しない果実ってことだ。新しい素材か、食材か。
どんな果実なのかワクワクした気持ちで鑑定する。
[食材・アイテム]ビールの実 レア度:C 品質:C-
ビールの木に成るビールの実。
すり潰して粉末にし、水を注ぐとビールになる不思議な実。
アルコール度数は5%ほど。未成年は口にすることができない。
『ってなんでやねん!』
思わずツッコミを入れてしまったけど、随分とおかしな果実があったものだ。
いやいや、ビールの実って……この世界だと大麦から作られるわけじゃないんだね。やけに品質が低いのは、私が関連するスキルを持ってないからだろうか。そうだろうなぁ。
私が採るよりも、《採取》スキルなんかを育ててる人が採る方がいいだろう。
それにしても、お酒かぁ。
私自身未成年だからお酒は飲めないんだけど、美味しいのかな?
兄さんはカクテルや梅酒をよく飲んでるんだけど、ワインや日本酒は飲めないって言ってたね。なんでも口に合わないとかなんとか。
私はそのビールの実をインベントリにしまい、一度工房に戻ることにした。
工房の中では様々な生産職プレイヤーのみんながパーツを製造していて、とても忙しそうだ。
私は工房の入口で試作魔機装から降りて、インベントリにしまう。
すると、入口近くのコクーンを使っていた親方に話しかけられた。
「ん、おう、ミオンか。調子はどうだ?」
『んー、ぼちぼちかな。試作魔機装の方は外でも稼働は問題なさそうだよ。大森林区域だと、動かしづらいだろうけど』
「だろうな。ま、主戦場は草原区域って話だし、仮に大森林区域が戦場になるなら乗り捨てればいいだけの話だしな」
乗り捨てるのは個人的には嫌だけど、まぁ降りたあとにインベントリに入れれば問題ないかな。
っと、そうだ。どうせなら親方にさっき採ったビールの実を見せてみよう。
『それもそっか。あ、そうだ。さっき森でこんなのを見つけたんだけど……』
「どれどれ……お、おい、ミオン! これをどこで!?」
『ちょ、親方ステイ! 場所は森だってば!』
ビールの実を鑑定した親方がぐっ、と肩を掴んで私を引き寄せる。ちょ、痛くはないけど顔が近い! 親方の顔って結構迫力あるから怖いんだよ!
それにしても、一体親方になにが……ビールの実……ビール……お酒?
そういえばこのイベント中にお酒って見たことないな……通常フィールドでも、酒場くらいでしか見たことなかったけど。
ああ、これはもしかして、やっちゃった感じ?
親方は私の肩から手を離すと、思いっきり息を吸って大声を上げた。
「お前ら! 全員作業を止めろ!」
「なんだなんだ?」
「どうしたんだよ親方」
「その手に持ってる果物みたいなのはなんだ?」
「まだ休憩には早いぞ?」
「うるせぇ! いいか! お前ら! 耳の穴かっぽじってよぉく聞けよ! 我らが女神、【自由の機翼】ギルドマスターミオンが、ビールを見つけた!」
親方がビールの実を掲げながら叫ぶと、さっきまで騒がしかった工房内がシーンと静まり返る。そして、みんなの視線が親方の持つビールの実に集中した。
「そ、その果物は……?」
「その位置からでも、《鑑定》は使えるはずだぜ。見てみろよ、飛ぶぞ」
「ま、まさか……そんな……っ!」
「ビールの実……?」
「もしかして、ビールが、飲める?」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
『わぁ! 今度はなにごと!?』
私視点だと、わけわかんないんですけど! 親方がビールの実を掲げたらみんなが静まり返って、今度はみんなのテンションがおかしいことになってる!?
そして、その場にいる生産職プレイヤーの顔が一斉にぐいっと私を向いた。どこぞのホラーゲームの演出みたいだ。
「ミオンの嬢ちゃん、こいつをどこで!?」
『え、いや、そこの森で採ったけど……』
「あの森で? しかしあの森にはこんな果実はなかったと思うんだが……」
『あ、普通に探したんじゃ見つからないかも。私自身、試作魔機装に乗ってたから気付けたわけだし』
「試作魔機装……そうか、視点の高さか!」
「高いところに生ってるから、今まで見つけられなかったのか!」
「となると、まだまだ実は生ってそうだな!」
「こうしちゃいられねぇ!」
「パーツ作ってる場合じゃねぇ!」
「こんな時にパーツ製作なんかやってられっか!」
「お前ら! 試作魔機装は持ったか!?」
「「「おう!」」」
「今こそ、ビールをこの手に!」
「「「ビールをこの手に!」」」
「ほらミオン、俺たちをその楽園まで連れて行ってくれ」
『いや、楽園って……それより、試作魔機装を作らなくてもいいの?』
「「「ビールの方が大事だ!」」」
『さいですか……』
私では、酒飲みたちの勢いを止められそうにない。
ため息を一つついて、私はみんなをビールの実を採った場所まで案内する。
襲ってくるモンスターは、息を荒くした生産職プレイヤーのみなさんにボコボコにされました。南無。
『さっき採った時はここら辺だったけど……』
「よし、手分けして採るぞ!」
「試作魔機装を出せ!」
「こいつはビールの実を採るために生まれてきたに違いない!」
いや、悪魔を倒すために生み出されたんですけど……まぁ、今の親方たちにはなにを言っても無駄か。凄まじい勢いで試作魔機装に乗り込んで行き、辺り一面のビールの実を根こそぎ採っていく。
リアルだったら実を全部採ることはしないだろうけど、ここはゲームの世界。採り尽くしたとしても翌日には復活してることだろう。
時たま襲ってくるモンスターをフレンズで蹴散らしつつ、親方たちの採取活動が終わるのを待つ。
酒飲みの力っていうのは、侮れないものだね。酒のためならなんでもやるぜ、みたいな気概を感じる。
一時間ほど時間をかけて一帯のビールの実を採り尽くした親方たちは、満面の笑みで工房へと戻っていく。
「いやぁ、大漁だぜ」
「これだけあれば、ビールに困ることはなさそうだな」
「酒場に行かなくても酒が飲めるってのはいいもんだ」
「ここ数日酒が飲めなくてなぁ……」
「禁酒なんて私たちにできるわけがないんだよ」
「でも、今日からは酒が飲める!」
「「「うぇーい!」」」
『じゃあとりあえず、ビールはあとのお楽しみってことで。まずはちゃっちゃとパーツ製造を進めちゃおう!』
「だなぁ」
『あ、親方。ちょっくらお宝探しに行ってきてもいい?』
「いいぞぉ」
よし、言質は取った。ビールの実を手に入れてご満悦な今なら許可が貰えるって信じてたよ、親方。
というわけで時間のかかるパーツ製造は親方たちに任せて、私は試作魔機装をインベントリに入れて工房を出る。
許可は貰ったし、どこにお宝探しに行こうか。
草原区域は広いけどお宝が少なそうだし、大森林区域はカンナヅキさんたちが探していることだろう。
つまり、私が行くなら山脈区域だね。今なら翼竜討伐隊が翼竜と戦ってくれているから私を阻むものはなにもないわけだし。
思い立ったが吉日。私は飛行形態にモードシフトし、高度を上げて山脈区域に向かう。
目指すは、新しい素材の入った宝箱、だね!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞ、お楽しみください。




