第六十六話 第二回イベント11
第二回イベント四日目です。新たな兵器のお披露目ですね。
それでは、引き続き本作品をお楽しみください。
さてさて、やって来ました四日目の朝。
めちゃくちゃ美味しい朝食を食べ終えた私は、親方とアル、数PTの生産職プレイヤーを連れて大森林区域にある設計図を解放した扉の前までやってきていた。
私と親方以外は戦闘はからっきしなプレイヤーばかりだけど、道中に出てきたモンスターは全部フレンズの餌になった。いやぁ、リングよりも便利だね、これ。
自立行動というか、ある程度独立して動いてるから事前に指示を出しておくだけでモンスターを殲滅してくれる。
リングは増幅機能をメインにしてたから攻撃の威力が低かったけど、フレンズは攻撃機能がメインだからね。そりゃ当たり前か。
ENが切れる前に私の翼に戻り、その間は私がショートライフルでモンスターを片付ける。ENを充電したら再びモンスターの殲滅に移ってもらう。
それを繰り返し、被害ゼロで扉の前までやってきていた。
その様子に、親方が口を開く。
「なんだか拍子抜けだな」
『まぁ、モンスターに追われてひぃひぃ言うよりはマシってね。今は護衛役のプレイヤーも惜しい状況だから』
「今日も翼竜を乱獲してるんだろ? ご苦労なこって。翼竜の素材もいいが、俺としちゃあ新しい鉱石の方が気になるぜ」
『本当なら親方にも採掘に回ってもらいたかったんだけど、まずはロボットを作るのが優先だからね。今日はこっちをお願い』
「まぁ、いいけどよ。こっちはこっちで気になるしな」
『じゃあ入りましょうか』
私は扉の前の台に手を当て、扉を開く。
ゴゴゴ、と左右にスライドして開いた扉の先には、私の見たことのない光景が広がっていた。
「おいおい、こいつぁ……」
『ここが工房っていうのは間違ってなさそうだけど……』
そこに並んでいたのは、高さ約3m、幅約2mはありそうな卵型の球体。卵型の球体が縦横に約3m感覚で並んでいて、その手前には液晶モニターが設置されている。
その卵型の球体はこの空間の半分ほどをしめており、数としては横に四基、縦に十基の計四十基ほどが鎮座していた。
「卵型? しかし前のモニターは?」
「まるで繭だな」
『お、いいね。じゃあ便宜上この機械のことはコクーンって呼ぶことにしよう』
いつまでも入口で立っていても仕方ないので、手近なコクーンを一つ選んで近付いてみる。
うーん、目の前に立っても反応なし。このモニターはどうかな?
モニターをタッチすると、ヴン、という音とともにメニュー画面が立ち上がった。
[Demon Buster System]
・パーツ作製
・データ読み込み
・パーツメンテナンス
どうやらこのモニターはタッチパネルになっているらしく、試しにパーツメンテナンスを押してみると[現在この機能は使用できません]というメッセージが表示される。
しかし、悪魔撃退、ね。これでロボットを作れってことかな。
データ読み込みをタッチすると、パーツメンテナンスを押した時と同じく[現在この機能は使用できません]と表示された。
つまり、今はパーツ作製しか使えないってことだね。
「機能が使えねぇのは運営から制限がかけられてんだろうな」
『うわっ、親方! いつの間に』
「そんなことより、さっさと進めてくれ。みんな待ってるんだから」
親方の言葉に振り向けば、連れてきた全ての生産職プレイヤーの視線がこちらに向いていた。その無言の主張は、早く作業を進めろと言わんばかりだ。
私はふぅ、と一息ついてパーツ作製をタップする。
すると、今度は[作製するパーツを選んでください]という文字とともにいくつかの名前が表示された。
・試作魔機装‐頭部
・試作魔機装‐胴部
・試作魔機装‐腕部
・試作魔機装‐脚部
・試作魔機装‐背部コックピット
・試作魔機装‐ブレード
・試作魔機装‐バズーカ
魔機装……これが搭乗型ロボットの名前か。
全部試作なのが気になるところだけど、とりあえず作ってみようか。
私は[試作魔機装‐頭部]をタップする。
タップすると、目の前のコクーンが真っ二つに割れ、中から二本のアームが伸びてきた。画面に視線を向けると、[素材を投入してください]と書いてあり、これを作るにはマギアリウム・インゴットが五つとミスリル・インゴットが一つ必要なようだ。
私はインベントリからマギアリウム・インゴットとミスリル・インゴットを取りだし、アームにセットする。
すると、素材を掴んだアームがコクーンの中に入っていき、割れたコクーンが再び元に戻った。
モニターを見れば、[パーツ作製中(1%)]という文字と溜まり始めたゲージ表示されている。このゲージが100%になれば、作製完了なのだろう。
そのままゲージが満タンになるのを待ち、表示が100%に到達した時、ぷしゅーと目の前のコクーンから空気が漏れる。
再び真っ二つになったコクーンから、まさにロボットの頭部と言わんばかりのアイテムが出てきた。
形状はとてもシンプルで、顔全体がクリアパーツのようななにかで覆われている。のっぺりとした特徴のない顔は量産機を彷彿とさせる。
耳に相当する部分には集音のためのマイクが搭載されているようで、そのマイクを保護するようにカバーが付いていた。
まるで、加速世界の銀の鴉みたいな頭部パーツだね。
[素材・アイテム]試作魔機装‐頭部 レア度:R 品質:B-
悪魔グレモリーを撃退するために作り出された兵器、その一部。全てのパーツを揃えることで試作魔機装となる。
なるほど。これ単体はまだ素材アイテム扱いなのか。あくまで中間素材ってことかな?
私はひとまずそれをインベントリにしまい、残りのパーツも作っていくことにする。
どうやら周りのみんなは私が一通りのパーツを作るのを待っているみたいで、動きがない。
そう時間もかからずに胴部、腕部、脚部、背部コックピットを作製することができた私は、組み立てるためにコクーンが立ち並んでいない奥の方まで移動する。
もちろん、みなさんは後ろをついてきているよ。
私は脚部、胴部、腕部、頭部の順番でインベントリから取り出していく。取り出されたそれらは、磁石同士が引き合うようにその場で合体していった。
最後に背部コックピットを取り付けて、完成となる。
[武装・兵器]試作魔機装 レア度:R 品質:B-
耐久値:30000/30000
スキル:《ブレード》《バズーカ》《悪魔特攻》
悪魔グレモリーを撃退するために作り出された兵器。その完成形。
動力は搭乗する人間の魔力であり、魔力の量によって稼働時間が左右される。
ステータスは搭乗者に準拠し、搭乗者の合計スキルレベルによって《ブレード》《バズーカ》《悪魔特攻》のスキルレベルが上昇する。
試作魔機装が完成すると、「おぉ……」という感嘆の声が漏れる。実際、目の前で見てみると迫力がある。
のっぺりとした頭部に、ずんぐりむっくりとした身体は決してセンスのいいロボットとは言えないものの、確かにそこにあるのだ。夢にまで見た、ロボットが。
コックピットを覗いてみると、どうやらバイクのように座席に跨るタイプのようで、サイドには動かすためのレバーなどが取り付けられている。
また、レバーを握ると腕輪のようなものが手首に装着されるらしく、この腕輪から魔力を吸っていくのだろうと推測できた。
うん、ここは一つ誰かに実験t……げふんげふん。テストパイロットになってもらおうじゃないか。
そうだな……さっきから手伝わずに見ていただけの親方にテストパイロットを務めてもらおう。そうしよう。
私は試作魔機装から降りて、親方を手招きする。
「どうした?」
『親方、ちょっと乗ってみてくれない?』
「……いいぜ。乗ってやろうじゃないか。いやぁ、人型兵器ってのはやっぱロマンだよなぁ……」
親方は試作魔機装の足元まで行き、下ろされていたロープに足をかけ、引き上げられていく。
コックピットの近くまで引き上げられた親方は、「よっ」と呟きながらコックピットに入る。
親方がコックピットに入ると、コックピットの上部が閉められ、胴体にカードリッジを押し込むように格納された。ちょうど、コックピットの半分ほどが背中から飛び出している形になる。
少しして、のっぺりとした頭部パーツの顔の部分が緑色に光った。そして、親方の声が聞こえてくる。
『システム良好、視界クリア。あー、あー。音声の方も問題ないよな?』
『大丈夫だよ!』
『マイクの調子もよし、と。えっと、動かし方は……結構楽だな。レバーはお飾りか?』
そう言いながら、親方の乗った試作魔機装は動き始めた。最初はゆっくりと歩き、慣れてきたのか両手を振って走り始めた。
親方の楽しそうな声が聞こえてくる。
『こいつぁいいな。ロボットに乗ってるって感じがするぜ』
『親方が楽しそうでなによりだよ』
『確か、ステータスは搭乗者に準拠するんだったか……俺のステータスならミオンに殴りかかっても問題ないか?』
『ん、んー。どうだろう。ステータスは変わらなくても大きさが大きさだしね。じゃあ私がそっちに飛んでいくから、私に向かって殴りかかってくる感じで』
『ああ。すまんな』
『いいって。テストは大事だから』
それに、ここにいる生産職プレイヤーじゃもしかしたら死に戻る可能性があるしね……そんな危険は犯せないよ。
私はスラスターを噴かせて両手をクロスさせつつ試作魔機装の前に躍り出る!
『さぁ、こい!』
『おっしゃ、いくぜ!』
『ぐ……っ!』
抉り込むように放たれた右ストレートがクロスさせた両手にぶち当たる。ブラッドラインといえどもその衝撃を完全にいなすことはできず、そのままの勢いでぶっ飛ばされた。
私はスラスターを噴射させて勢いを殺し、ゆっくりと地面に降り立つ。
腕部の耐久値を見てみると、今のパンチだけで3000ほど削られているようだ。
ステータスは搭乗者に準拠するけど、ダメージ量まで準拠するわけじゃないってことだね。
『結構な威力だね。私で試して正解かも』
『そうかぁ。俺のパンチでこれなら、こいつはいい武器になるな』
『うん。できる限り量産しよう』
『聞いたなお前ら! ありったけの素材を使ってこいつを量産するぞ!』
「「「おうっ!!!」」」
生産職プレイヤーはすぐにそれぞれのコクーンに散らばり、試作魔機装を作り始める。親方はコックピットから降りて私の方に歩いてきた。
その表情は笑顔で近付くなり私の肩をバンバンと叩いてくる。
『どうしたんですか、親方』
「どうしたもこうしたもあるか! すげぇぜ、あれは! ミオンもあとで乗ってみろよ。つーか、あれはミオンの機体だろうが」
『そういえばそうだった』
「ははは! いやしかし、あれにミオンが乗ったら凄いことになりそうだな」
『あー、ステータス準拠だからね。魔機人のステータスがそのままコピーされるんだとしたら、結構な兵器になるかもですね。私の場合、背中のこれを外さないと乗り込めませんけどね』
「なに言ってんだ? お前さんには《パーツクリエイト》があるだろ?」
『そりゃありますけど……』
「あれはロボットだろ? なら、《パーツクリエイト》で完成系からでもいじくれるんじゃないか?」
『いやいや、まさか。そんな……』
まさかとは思いつつも、試作魔機装に魔力を浸透させていく。
そして、すっと《パーツクリエイト》に入っていく試作魔機装。
『………………』
「な?」
『はい……』
私はそのまま《パーツクリエイト》で内装がいじれることを確認し、翼のパーツを付けたままでも搭乗できるように改造した。
さらに、本来なら腕輪で機体と繋がるところ、背部パーツを直接機体にコネクトすることで魔力の供給を可能にする。
その光景を傍から見れば、試作魔機装から直接小さい翼が生えてるように見えるだろう。
早速改造した試作魔機装に乗り込み、背部パーツを接続する。魔力の供給が開始され、カメラやマイク、スピーカーなどがONになっていく。
操縦方法は簡単で、レバーを握って機体を動かすイメージを送るだけ。そうすることで、イメージ通りに機体が動いてくれる。
さすがに私の翼じゃ試作魔機装ごと飛ぶことはできなかったけど、空を飛べる魔機装はイベントが終わってからだね。
まだイベント後に作れるようになるか分からないけど、ここの運営ならやってくれるって信じてる。信じてるからね。
試しにブレードとバズーカも作ってみたけど、これを試作魔機装が使うとなれば結構な武器になるだろう。
ブレードはなんの変哲もない物理武器だけど、その大きさとステータスから振るわれる一撃はとんでもない威力だ。
バズーカは、搭乗者の魔力を込めて使う兵器で、無属性魔法扱いの攻撃になる。照準を合わせるのは結構難しいけど、モニターにガイドサークルなどが表示されるため、思った以上に当てることができるね。
あ、的には親方が乗り込んだ試作魔機装を使用しております。
どうやら機体の耐久値が0になると、強制的にコックピットが胴体から射出される仕様になっているようだ。これなら万が一機体の耐久値が0になっても搭乗者が死に戻る可能性は少なそうだね。
まぁ、緊急脱出に誤作動はつきものだから。うん。
ちなみに、耐久値が0になった残骸を持っているとパーツメンテナンスが押せるようになり、時間をかけて耐久値を全て復活させることができるようだ。
できることなら、主戦場の近くにコクーンを持っていきたいけど……。
『さ、作りまくるぞ!』
そのまま私たちはお昼ご飯の時間まで、時間を忘れて試作魔機装作成に没頭するのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




